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アングル:ブラジル犯罪組織が闊歩、パラグアイ「流血の街」

ロイター / 2020年2月12日 8時9分

 1月19日早朝、パラグアイ史上最大規模の脱獄事件が起きた。写真は脱獄囚が堀った穴の傍らに立つ警備員。1月22日、ペドロ・ファン・カバリェロで撮影(2020年 ロイター/Gabriel Stargardter)

Gabriel Stargardter Daniela Desantis

[ペドロ・ファン・カバリェロ(パラグアイ) 3日 ロイター] - パラグアイの刑務所で服役するルイス・アルベス・ダ・クルス受刑者は騒がしくて目を覚ました。

時刻はまだ午前3時ごろ。ブラジルから来た麻薬密輸業者ダ・クルス受刑者は、全身黒ずくめ姿の仲間を目にした。

「脱獄するぞ」。1人が言った。「お前も来るか」

数分後、ダ・クルス受刑者は75人の脱獄囚の1人となっていた。1月19日早朝、パラグアイ史上で最も大胆な脱獄事件が発生した。脱獄囚たちは、ブラジルで最大かつ最強の犯罪組織「ファースト・キャピタル・コマンド」(ポルトガル語の略称でPCC)の構成員だった。

この脱走事件はPCCが隣国パラグアイで影響力を増していること、パラグアイの脆弱な体制では国内で急拡大するブラジルの犯罪シンジケートに太刀打ちできないことを裏付ける。

<市当局は脱獄計画を把握>

パラグアイのセシリア・ペレス法務相によると、ブラジルとの国境に近いペドロ・ファン・カバリェロ市当局は、PCCの脱獄計画を把握していた。PCCに内通している者もいれば、報復を恐れ見て見ぬふりをしていた者もいたと、ペレス法相は言う。所長を含め、刑務所職員の3分の2は逮捕された。

ペレス法相はロイターの取材に対し、「我々は治安の危機に直面している。その震源地は刑務所システムだ」と語った。

ロイターはペドロ・ファン・カバリェロ地域刑務所当局にコメントを求めたが、回答を得られなかった。

脱獄囚のうち、40人はブラジル人だった。再逮捕されたのは11人に留まっている。ダ・クルス受刑者は脱獄から数日後、ブラジル領内の町ドゥラドスで捕らえられた。

ブラジル警察に対するダ・クルス受刑者の供述によると、脱獄にはパラグアイの刑務所の警備員が手を貸したという。彼は仲間とともにトンネルを抜けて脱獄した。

トンネルは受刑者らが小さなシャベルで掘ったもので、換気扇が設置され、フォークを使って電球が壁に固定されていた。ぬかるんだ狭い通路は、PCCのメンバーばかりが収監されていた房を出発点とし、刑務所のすぐ外へと抜けるものだった。

ダ・クルス受刑者の供述によれと、古株の囚人はわざわざトンネルを通って泥だらけになるまでもなかった。彼らは正面のドアからあっさり出て行った。パラグアイの警察によれば、再逮捕された他の受刑者も同様の証言をしている。

首都アスンシオンを拠点とするセキュリティアナリストで、パラグアイにおけるPCCの活動を研究するファン・マーテンス氏は、「今回の脱獄事件は、PCCが好きなタイミングで思いどおりに振る舞えることを証明している」と指摘。「パラグアイという国家は、PCCの活動にとって何の障害にもなっていない」と話す。

<パラグアイは魅力的な活動拠点>

ブラジル、アルゼンチン、ボリビアに囲まれたパラグアイは、世界有数のマリファナ生産国であり、アンデス地域で生産されるコカインの主要な中継点である。パラグアイは貧困国で、1人あたりの国内総生産(GDP)はナミビアと同程度である。また汚職事件も多く、トランスペアレンシー・インターナショナルが発表した2019年の腐敗認識指数によれば、南米諸国のなかではベネズエラに次いで政治腐敗が多い。

結果的に、サンパウロを拠点とするPCCやリオデジャネイロの「レッド・コマンド」といったブラジルの犯罪組織にとって、パラグアイは魅力的な活動拠点となっている。

パラグアイ当局によれば、こうした犯罪組織は刑務所の内外を問わず、ほぼ傍若無人に活動しているという。パラグアイ国家警察のジルベルト・フレイタス刑事局長によると、PCCは囚人を自分たちの組織に加入させるため、積極的に「洗礼」を与えているという。

パラグアイの刑務所に収監されているPCCメンバーは500人と、フレイタス氏は推定する。組織の積極的な勧誘活動により、その数は昨年から倍増した。同じくパラグアイ国家警察のルーベン・パレデス氏は、さらに多いとみている。国内の受刑者1万6000人のうち、約10%はブラジルの犯罪組織に加入していると推計する。

パレデス氏によると、刑務所の外で活動しているメンバーはさらに多く、議員を買収し、警察にも賄賂を渡しているという。

「流血の街」と呼ばれるペドロ・ファン・カバリェロは、ブラジルの麻薬犯罪組織にとって特に魅力的な拠点となっている。隣接するブラジルの自治体ポンタ・ポランと一体化している。国境を挟んで、双方の住民はやすやすと行き来している。

ブラジル、パラグアイ両国の当局者によると、ボリビア産のコカインを積んだ小型飛行機が、ペドロ・ファン・カバリェロ郊外の人里離れた滑走路に頻繁に着陸している。コカインは、そこからブラジル南部を経由し、需要が拡大している欧州へと運ばれるのだという。

その副産物として、ペドロ・ファン・カバリェロでは殺害された遺体の発見数が増大している。犯罪組織が密輸ルートの支配をめぐって抗争しているからだ。

ホセ・カルロス・アチェベド市長によると、人口12万人の同市では昨年150件以上の殺人事件が発生した。犯罪グループは治安組織を冷笑しており、市民は怯えながら生活しているという。

「警察は完全に腐敗している」と、アチェベド市長は語る。

パラグアイの最有力紙「ABCカラー」は1月30日付の社説で、こうした状況を嘆き、多くの警察官にとって、麻薬密輸業者への支援・幇助を通じて「違法な副収入」を稼げるため、ペドロ・ファン・カバリェロ市への異動が「ゴールデン・ドリーム」になっていると指摘した。

市警察は市長の指揮下にはない。

<大物は今も逃走中>

再逮捕されたダ・クルス受刑者のこれまでの犯罪歴を振り返ると、パラグアイの抱える問題がよく分かる。

警察への供述によると、ブラジルで最も貧しいマラニャン州の北東部の寒村で生まれた彼は、10歳のときに西部のマットグロッソ州に移った。

2012年に麻薬の密売で収監、2015年に仮釈放制度で出獄すると、ペドロ・ファン・カバリェロへと国境を越えた。2016年に麻薬密輸容疑で逮捕され、市の刑務所へ送られた。収監後にPCCへに入り、雑務をこなすようになったという。

匿名を条件に取材に応じたブラジルの警官によれば、刑務所内でダ・クルス受刑者の立場は低かったという。

しかし収監中、彼はPCCの大物と知り合う。フレイタス刑事局長によると、この地域で暗殺任務を担当していたPCCの主力級10数人が、ダ・クルス受刑者に近い監房に入っていたという。

こうした大物も今回の脱獄に加わっており、なお逃走中だという。

ペドロ・ファン・カバリェロで脱獄が計画されている最初に情報が寄せられたのは12月中旬だった。

ホアキン・ゴンザレス・バルサ国家刑務局長は12月16日、組織犯罪を担当する捜査官らに文書を送付。その中で、刑務所の「犯罪グループから収監者を救出する」計画に関する密談を、刑務局が傍受したと注意を促した。ロイターは書簡のコピーにより、これを確認した。脱獄事件の発生後、ゴンザレス・バルサ局長は更迭された。

刑務所長からも類似の情報が寄せられており、ペレス法相は信頼性が高いと信じるに至ったという。同法相によると、12月中に刑務所の警備員と警察当局が施設内を一斉調査、しかしトンネルを掘っている形跡は見られなかったという。

ペレス法相はロイターの取材に対し、「再逮捕された受刑者の1人は、この捜索の後でトンネルを掘ったと供述している」と語った。「監視カメラをモニターをする業者からは何の警告もなかった。何も見ていないと彼らは言っている」

アスンシオンに本社を置く警備会社、SITのグスタボ・サンチェス代表はロイターに対し、脱獄が実行された夜に関する情報を法務省に提供したと話しているが、詳細については触れなかった。

ペレス法相によると、パラグアイは犯罪組織を取り締まるため、ブラジル右派政権との協力を強化するという。ブラジル政府は組織の資金を断ち切り、警備がより厳格な連邦刑務所に幹部らを送ることにより、活動を抑えようと試みている。

パラグアイのフレイタス刑事局長は効果に懐疑的だ。

「誰であれ、立ち向かう方法はない」とフレイタス局長は言う。犯罪組織は「(邪魔する者たちの)家族を特定し、親戚や裁判官、検察官、警察官に圧力をかける」

(翻訳:エァクレーレン)

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