焦点:イスラム女性をアプリで「競売」、ITが凶器に
ロイター / 2022年1月11日 10時30分
最新技術はしばしば、容易に素早く、しかもわずかな費用で、ネット上の虐待やプライバシーの侵害、性的搾取などによって女性を危険にさらすのに利用されている。写真はイメージ。2019年12月撮影(2022年 ロイター/Regis Duvignau)
[6日 トムソン・ロイター財団] - 女性パイロットのハナ・カーンさんは半年前、インドのイスラム教徒女性をオークションに掛けるかのように装ったアプリに自分の写真が掲載されているのを見つけた。このアプリはすぐに削除され、誰も起訴されず、問題はうやむやになった。しかし元日にはまた、同じようなアプリが現れた。
新たなアプリは活動家、ジャーナリスト、俳優、政治家、ノーベル平和賞受賞者マララ・ユスフザイさんらをメイドとして「販売」していた。カーンさんは載っていなかった。こうした偽のオークションはソーシャルメディア(SNS)で広く拡散されている。
激しい怒りが巻き上がり、このアプリは削除され、今週に入って容疑者4人が逮捕された。
テクノロジーの悪用は他にも枚挙にいとまがない。最新技術はしばしば、容易に素早く、しかもわずかな費用で、ネット上の虐待やプライバシーの侵害、性的搾取などによって女性を危険にさらすのに利用されている。
インドのイスラム教徒の女性にとって、ネット上での虐待は日常茶飯事だ。彼女らはSNSを使い、少数民族のコミュニティが憎悪や差別を受けていると訴えているが、その努力もむなしく日々リスクに直面する。
カーンさんはトムソン・ロイター財団の取材に、「アプリで自分の写真を見たとき、世界が震えるようなショックを受けた。誰かこんなことをするのかと混乱し、怒りがこみ上げてきた。この正体不明の人物が野放しになっていると気づき、さらに怒りが増した」と話した。
「私の友人や、私のようなイスラム教徒女性に、また同じようなことが起きていると思うと、とても恐ろしく、絶望的な気持ちになった。どうしたら止められるのか分からない」
ムンバイ警察は今回のアプリについて、「より大きな犯罪の一部」かどうか調査中としている。
2つのアプリを提供したギットハブの広報担当者は、「嫌がらせ、差別、暴力を煽るようなコンテンツや行為を取り締まる指針を以前から設けている」と説明。調査でこうした指針への違反が判明したため、ユーザーアカウントを停止したという。
<ネット虐待は軽いという誤解>
SNS上では悪意のある挑発的なコメントを投稿する「荒らし」や、個人情報を公開する「さらし」が横行。監視カメラや位置情報、ポルノ映像を仕立て上げる画像加工技術など、テクノロジーの進化で女性にとってリスクが高まっている。
ディープフェイク(人工知能が生成した合成メディア)は、女性の服を脱がせたり、顔をどぎつい動画にすり替えたりするアプリを通じ、ポルノ画像を作るのに利用されている。
米国を拠点にテクノロジーを駆使した虐待対策に取り組む非営利団体EndTABのアダム・ダッジ最高責任者は、デジタルによる女性への虐待がまん延しているのは、「誰もが機器を保有し、デジタルの世界に居場所を持っている」からだと指摘した。
「世界中の誰でも標的にできるため、簡単に暴力を振るえるようになった。何かをアップロードし、わずか数秒で世界中に見せることができるため、被害の規模も大きくなっている」と言う。
「しかも、こうした写真や動画はオンライン上に残り続けるため、永続性がある」
オーストラリアの活動家、ノエル・マーティンさんは、こうした虐待が感情や心理に与える影響は、体への虐待と「同じくらい辛い」ものであり、ネット上のコンテンツの拡散性、公共性、永続性により打撃が増幅されると述べた。
マーティンさんは17歳のとき、自分の加工ポルノ画像がネット上に載っているのを見つけた。画像による虐待に抗議する運動を進め、オーストラリアの法改正にも貢献した。
しかしマーティンさんによると、被害者の声はなかなか届かないという。
「テクノロジーによる虐待の被害は、物理的な要素を伴う虐待に比べてリアリティーがなく、深刻でもなく、致命的な結果を引き起こす可能性はないという危険な誤解がある」
「被害者は、こうした誤解のせいで、声を上げ、支援を求め、司法にアクセスすることがより難しくなっている」と言う。
<迫害>
こうした画像を加工している者を、個人が1人で追跡するのは難しい。また、IT(情報技術)プラットフォームは匿名ユーザーの隠れみのとなりがちだ。こうしたユーザーは偽の電子メールやSNSのプロフィールを簡単に作成することができる。
議員でさえ例外ではない。昨年11月には米共和党のゴサール下院議員がSNSに、自身が民主党のオカシオコルテス下院議員を殺害するアニメ動画を投稿し、下院が問責決議を行った。
EndTABのダッジ氏は「新しい技術が出るたびに、それがいつ、どのように悪用され、ネット上の未成年・成年女性に危害を加える武器になるのかを即刻考えるべきだ」と訴えた。「ITプラットフォームによって、オンライン虐待の被害者側にひどく不利な環境が生み出されてしまった」とし、現実世界で被害を受けたときに助けを求める従来の方法は、ネット上の虐待ではそれほど利用できないと説明した。
行動を起こしたIT企業もある。鍵や財布に付けることができる位置特定装置「エアタグ」が女性の追跡に使用されているという報道を受けて、米アップルはユーザーのプライバシーを保護するアプリを立ち上げた。
一方、インドではオークションを偽るアプリに掲載された女性たちの動揺が収まっていない。
今回容疑者が逮捕されたアプリに画像が載ったジャーナリストのイスマット・アルアさんは「これはオンラインハラスメントそのものだ」と述べた。
やはり画像がこのアプリに載ったアルファ・カーナム・シェルワニさんはツイッターにこう投稿した。「オークションは偽物かもしれないが、迫害は本物だ」
(Rina Chandran記者)
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