市場安定の判断留保、利上げ急がず米大統領選後まで「見極め可能」=日銀10月会合主な意見
ロイター / 2024年11月11日 11時20分
日銀が10月30―31日に開いた金融政策決定会合では、ある委員から、足元で米国の景気後退リスクの後退などから米金利上昇やドル高の動きが出てきているものの、市場が安定に向かっていると評価してよいかは留保が必要だとの指摘が出されていたことが明らかになった。都内の日銀前で3月撮影(2024年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
Takahiko Wada
[東京 11日 ロイター] - 日銀が10月30―31日に開いた金融政策決定会合では、ある委員から、足元で米国の景気後退リスクの後退などから米金利上昇やドル高の動きが出てきているものの、市場が安定に向かっていると評価して良いかは留保が必要だとの指摘が出されていたことが明らかになった。この委員は、もともと日銀が緩やかなペースの利上げを想定している中で、米大統領選挙後の状況を含め「今後の展開を見ることはできる」と主張していた。
日銀が11日、決定会合で出された「主な意見」を公表した。日銀はこの会合で全員一致で政策金利の据え置きを決めた。決定会合では「内外における不確実性の高まりに鑑みると、金融政策運営をより慎重に行っていく必要がある」として、今回は金融政策は現状維持で良いとの意見が出ていた。
米国経済の不透明感が低下する中で「時間的余裕」という言葉で情報発信をしていく局面ではなくなりつつあるとの指摘も出ていた。こう指摘した委員は、引き続き様々な不確実性に留意すべき状況だが「今後は、毎回の会合でその時点のデータに基づきリスクや見通しの確度を点検していくことを伝えていくことが重要だ」と述べた。
決定会合後の記者会見で植田和男総裁は、米国経済の下振れリスクが後退したとして、政策判断に当たって「時間的な余裕はある」との表現を今後は使わないと説明していた。
<米経済確認で一時的に様子見、その後は追加利上げを「展望」>
日米の金融政策の方向性が逆に向かう中、「為替市場を中心に市場が大きく変動する可能性もある」として、「仮に日本銀行の追加的な利上げを契機にショックが生じた場合、長期的にみた金融政策の正常化に支障が生じる可能性にも留意する必要がある」との声が出された。
その一方で、過去5回の利上げ局面では米国の利下げ後に日本は利下げに転じたが「今回局面は過去とは異なる」とし、日米の金融機関や企業、家計のバランスシート調整圧力は生じておらず「大幅な金融緩和が求められる局面ではない」と話す委員もあった。この委員は「米国経済の動向を確認するために一時的に様子見した後、追加的な利上げを展望していく状況だ」と指摘した。
いわゆる「金利のある世界」への移行には相応の不確実性があるため、この先の政策金利の引き上げは「時間をかけて慎重に行う必要がある」との声も出ていた。
経済・物価が想定通り推移する場合、早ければ2025年度後半に1.0%の水準まで段階的に利上げしていくパスを前提とすれば「経済・物価の進捗を見守る時間が今回はある」との意見もあった。
米欧のインフレ率低下や、グローバル市場での価格競争の進展の影響もあって「物価の上振れ懸念は後退している」として、多くの経済データを通じて「賃金と物価の好循環の持続性に対する自信が強まるまで、当面、政策金利は現状維持で良い」とする意見も出ていた。
<日米財政政策と為替動向、物価への影響懸念も>
市場動向を巡って「米大統領選挙の結果次第では市場が大きく変動する可能性が高
いため、それに十分備えておくことも必要だ」との意見も出されていた。「今後の日米の財政政策の展開とそのもとでの為替相場の動向について、物価への影響を懸念している」との声もあった。
ある委員は、中小企業の経営者からは円安の修正を歓迎し「経営に影響が大きいのは金利よりも為替だ」とする声がかなり聞かれると指摘。「各種のアンケート調査を見ると、家計も円安の修正を歓迎しているのではないか」と付け加えた。
市場とのコミュニケーションの関連で、中立金利の水準についても金融政策の波及メカニズムについても不確実性が高いため「中期的な金利パスについて自信を持って市場に示していくことは難しい」とする委員もあった。
<チーペスト銘柄品薄、「国債補完供給の減額措置の利用促進を」>
決定会合では国債市場や金融機関についての意見も出された。
ある委員は、国債先物取引におけるチーペスト(最割安)銘柄の需給ひっ迫というイールドカーブ・コントロール(YCC)の副作用によって「国債市場の流動性の低下や金利の歪みが懸念される」と指摘。「国債補完供給の減額措置をためらうことなく利用してもらえるよう、引き続き促していくことが重要だ」と話した。2022年から23年にかけて一部の国債銘柄を大量に購入した影響で、今年12月にチーペスト銘柄となる10年366回債の市中流通量が極端に少ない状況になっている。
ある委員は金融機関の資金運用で「気にしている点」として、「相対的にリスク許容度の大きくない先において、金利の水準が投資目線に届かない期間が続くと、キャリー収益のために長期国債への投資を進め、リスクが増加する可能性」を挙げた。
今回の決定会合は、石破茂政権の発足後初の決定会合となった。財務省の出身者は日銀に対し「政府との緊密な連携のもと、2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する」と述べた。その上で「情報発信を含め、しっかりと金融資本市場とコミュニケーションを図っていただきたい」と話した。
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