アングル:身構える米国防総省、トランプ氏が「大規模粛清」か
ロイター / 2024年11月11日 14時9分
[ワシントン 10日 ロイター] - 米大統領選中に共和党候補トランプ前大統領は、米軍のいわゆる「目覚めた(woke)」将軍たちを追放すると表明していた。そのトランプ氏が次期大統領に決まったことで、国防総省内では同氏がさらに踏み込んだ「大規模粛正」を敢行するのではないかとの疑念が広がっている。
2期目のトランプ氏は、北大西洋条約機構(NATO)の意義を疑問視し、米国内の騒乱に軍の出動を辞さないとする自身の考えにことごとく抵抗する国防総省に対して、1期目よりもずっと厳しい目を向ける見通しだ。
トランプ氏批判の急先鋒は1期目政権の軍上層幹部や国防長官などで、彼らの一部は同氏をファシストと呼び、大統領にふさわしくないと言い切る。これに怒り心頭のトランプ氏は、批判派の1人である前統合参謀本部議長のマーク・ミリー氏を反逆罪で死刑にする可能性があると脅している。
米政府の現役高官や元高官によると、トランプ氏が2期目で最重要視する人事の基準は忠誠心で、自らに従う気がないと見なす軍高官や文民幹部らは根こそぎ排除するだろうという。
上院軍事委員会のリード委員長(民主党)は「あからさまに言うとトランプ氏は国防総省をぶち壊す。中に入ってきて、憲法を守る将軍たちを解雇しようとする」と懸念を示した。
トランプ氏は6月にFOXニュースで、「目覚めた」将軍たちをクビにするかどうか聞かれると「彼らを辞めさせる。目覚めた軍などあり得ない」と語った。
この目覚めたとは本来、人種や社会の公正さを重視するという意味で生まれた言葉だが、保守派はそうした公正さを上から押しつけるリベラル派の政策を軽蔑する用語として使っている。
そして今、トランプ氏の政権移行チームがブラウン統合参謀本部議長を標的にするのではないかと心配されている。
ブラウン氏はパイロット出身で幅広く尊敬される人物。ただ黒人である同氏は議長就任前、2020年5月にミネソタ州ミネアポリスで黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警官に殺害された事件の数日後、軍内部に向けた動画メッセージで差別撤廃と多様性の重要さを訴えていた。
次期副大統領のJ・D・バンス氏は昨年上院議員として、ブラウン氏の議長指名人事に反対票を投じたほか、国防総省内にトランプ氏の命令への抵抗勢力があるとの批判を続けている。
バンス氏は大統領選前、FOXニュース元司会者のタッカー・カールソン氏のインタビューで「自分の政権で命令に従わない人々がいるなら排除し、大統領がやろうとすることに応じる人々と交代させる必要がある」と語った。
トランプ氏は今回の選挙戦で、南北戦争時の南軍指揮官にちなんだ米軍基地名を復活させると約束した。フロイドさん殺害事件後、基地名は変更されていた。
またトランプ氏は、出生時の性と自認する性が異なるトランスジェンダーの人々を目の敵にしており、1期目には一時軍入隊を禁止。今回もXに投稿した選挙広告でトランスジェンダーを弱者と描写し「われわれは目覚めた軍隊を決して持たない」と宣言している。
<合法的命令>
トランプ氏は自身が優先する多くの政策において軍が重要な役割を果たせると提案。例えば州兵や場合によっては現役兵士を不法移民の大量強制送還に活用したり、彼らを国内の騒乱鎮圧に動員したりするとしている。
こうした提案に警鐘を鳴らす専門家によると、市街地に米軍を派遣すれば違法であるばかりか、なお広く存在する国民の軍に対する敬意の気持ちを失わせかねないという。
オースティン国防長官は、大統領選結果を認め、軍は文民指導者からの「あらゆる合法的命令」に従うと強調した。しかし複数の専門家は、トランプ氏が幅広い法解釈によって米軍が倫理的に正しくないと考えるような「合法的」命令を発出すれば、それを拒否できなくなるとの見方を示した。
保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ・インスティテュートのコリ・シェイク氏は「軍は不道徳な命令に従わなくて良いという間違った見解が流布している。これは実際には真実ではない」と述べ、トランプ氏の2期目は論争を呼ぶ政策が推進され、高官のクビ切りが相次いでもおかしくないと予想。政策と人事の両面から2期目は大きな混乱が起きると見込んでいる。
<失われる専門知識>
国防総省の文民幹部たちも、トランプ氏への忠誠心を試されるだろう。
同氏側近らは、大統領令や法規則改正を通じて現在の多数の文民職員を保守派の仲間に置き換えると明言している。
ある国防総省幹部はロイターに、省内にはトランプ氏が今の文民職員を一斉追放するのではないかとの懸念が増しつつあると語り、複数の同僚が今後の雇用が保障されるかどうか不安を漏らしたと付け加えた。
国防総省に勤務する「背広組」の職員は95万人弱で、その多くは専門的な経験や知識を有する。
1期目にトランプ氏がメキシコの麻薬製造拠点壊滅のためミサイルを発射するという過激な方針を検討した際には、国防総省の事務方が押しとどめたおかげもあって実行にされずに済んだケースもあった。
前出の国防総省幹部は「今度は2016年よりひどくなる。恐れているのはトランプ氏が(国防総省の)職員と専門知識を空洞化させ、組織に取り返しの付かない痛手を負わせてしまうことだ」と述べた。
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