アングル:新興国市場、適温相場シナリオにトランプ氏の影 不透明感高まる
ロイター / 2024年11月11日 18時26分
11月11日、市場関係者は来年の新興国市場について、長年の世界的な利上げに終止符が打たれ、ゴルディロックス(適温)相場が期待できると予想していたが、米大統領選でトランプ前大統領が勝利したことを受けて、先行き不透明感が大きく高まっている。メキシコシティの証券取引所で6月撮影(2024年 ロイター/Daniel Becerril)
Libby George
[ロンドン 11日 ロイター] - 市場関係者は来年の新興国市場について、長年の世界的な利上げに終止符が打たれ、ゴルディロックス(適温)相場が期待できると予想していたが、米大統領選でトランプ前大統領が勝利したことを受けて、先行き不透明感が大きく高まっている。
市場では大統領選の開票結果を受けて、ドル高が進行。次期トランプ政権による関税の引き上げや、財源の裏付けのない歳出拡大、米利下げペースの鈍化に対する懸念が浮上しており、一部の新興国通貨・債券の重しになっている。
欧州最大の資産運用会社アムンディの新興国市場グローバルヘッド、イェルラン・シジコフ氏は「当社は今年、新興国資産に前向きで、パフォーマンスも好調だが、来年のことを考え、現地通貨建てとハードカレンシー建ての双方で慎重な姿勢を取る必要がある」と指摘。共和党が大統領選と上院選に加え、下院選でも勝利すれば「形勢が少し変わってくるだろう」と述べた。
国際金融協会(IIF)のデータによると、新興国株式・債券への純資金流入額は2022年には事実上ゼロだったが、今年は9月時点で2500億ドル弱に回復。昨年通年の1770億ドルを上回った。
パインブリッジ・インベストメンツのシニア・ポートフォリオ・マネジャー、アンダース・フェールゲマン氏は「大統領選前は新興国市場について楽観論が多かった」とし、新興国と先進国の成長格差が10年ぶりの高水準にあることを指摘した。
JPモルガンの新興国ハードカレンシー建て債券指数は今年のリターンが6%前後。現地通貨建て債券は小動きで推移している。
アリアンツ・グローバル・インベスターズは、16年の大統領選ではトランプ氏が予想外の勝利を収め、新興国通貨が矢面に立たされたが、今回も同じような状況になる可能性があると指摘。
フェールゲマン氏も、トランプ氏の勝利で中国にプレッシャーがかかっているほか、ポーランドズロチやハンガリーフォリントといった新興国通貨が、貿易依存度の高さやトランプ関税を受けて、リスクに見舞われるとの見方を示した。
メキシコペソもトランプ氏の勝利を受けて一時3.6%値下がりしたが、その後は急速に値を戻した。16年には8%近い下げを記録していた。
市場関係者は次期トランプ政権の歳出計画に注目し、米金融政策への影響を見極めようとしている。財政赤字が拡大すれば利下げペースが鈍る可能性がある。
フランクリン・テンプルトン・フィクスト・インカムのソナル・デサイ最高投資責任者は「金利上昇とドル高は逆風だ。関税など一部の政策も逆風になる」と述べた。
<根強い楽観論>
ただ、一部の市場については楽観論が根強い。
アムンディのシジコフ氏は、トランプ氏の対中強硬政策でインドなどが恩恵を受けるのではないかと予想。アルゼンチンも歳出削減や改革を受けて投資家が戻ってきていると述べた。
UBSアセット・マネジメントの新興国・アジア太平洋債券部門責任者、シャマイラ・カーン氏は「一部のセクターや国は、トランプ氏の勝利で恩恵を受ける可能性がある」とし、新興国への投資で多額の利益を上げることは可能だとの見方を示した。
ウクライナの国内総生産(GDP)連動ワラント債は、トランプ氏の勝利を受けて、ロシアとの戦争の終結が早まるとの期待が広がり、大幅に上昇した。
アルゼンチンの株式・債券も上昇。過激な主張で知られる同国のミレイ統領とトランプ氏の関係が緊密になるとの見方が背景だ。
<不安と乱高下>
金融関係者は今年の起債ブームが来年も続くのではないかと期待していたが、例年、起債が集中する1月にトランプ氏の就任式があるため、その前後にボラティリティーが高まり、発行市場に影響が出るリスクがあると一部で懸念されている。
バークレイズは、新興国が国際資本市場で発行するソブリン債が今年最大1600億ドル、来年は1300億ドル前後になると推定している。
借り入れコストの高さが新興国の資金調達力を圧迫するとの見方もある。
ただ、市場関係者によると、全体としては、トランプ氏が勝利した16年の大統領選後の不安感、市場の乱高下、リスク回避傾向が再来する可能性は低く、好材料がある新興国は資金流入が続くとみられている。
アムンディのシジコフ氏は「われわれは以前にもトランプ氏を経験した。一度見た映画であり、われわれは乗り越えてきた」と述べた。
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