アングル:「バイデントレード」の死角、株高・金利上昇シナリオは万全か
ロイター / 2020年10月12日 10時49分
10月12日、金融市場は米大統領選でのバイデン氏と議会選挙での民主党優位を織り込み、財政拡大観測による株高・金利上昇となっているが、いわゆる「バイデントレード」を疑問視する声も少なくない。写真はペンシルベニア州エリーで10日撮影(2020年 ロイター/Kevin Lamarque)
伊賀大記
[東京 12日 ロイター] - 金融市場は米大統領選でのバイデン氏と議会選挙での民主党優位を織り込み、財政拡大観測による株高・金利上昇となっているが、いわゆる「バイデントレード」を疑問視する声も少なくない。富裕層や企業に対する増税は本質的に株安要因であるだけでなく、選挙の行方も最高裁裁判事の増員問題などで依然予断を許さないためだ。
<トレード内容が変質>
シナリオの中身が変わった。以前はトランプ氏勝利であれば株高・債券安、バイデン氏勝利なら株安・債券高という予想が主流であったが、ここにきてバイデン氏勝利でも株高・債券安(金利上昇)というシナリオがマーケットで広がっている。
シナリオを変化させたのは「トリプルブルー」による財政拡大観測だ。トリプルブルーとは、米大統領選で民主党のバイデン氏が勝利し、議会選挙でも上院・下院ともに民主党が制することを示す。ブルーは民主党のイメージカラーだ。
民主党の追加経済対策の規模は2.2兆ドル。一方、トランプ政権が提案する追加対策案は1.8兆ドル規模。バイデン氏は、2兆ドルのインフラ投資策なども掲げており「トランプ氏よりも景気刺激的になるのではないか」(外資系運用会社)との見方が強まっている。
しかし、そのシナリオはやや前のめり過ぎるとの指摘も少なくない。「トリプルブルーで本当に財政拡大となるかは不透明。そもそもバイデン氏や民主党が勝利するかもまだわからない。カネ余り相場の都合のいいシナリオだ」と、パインブリッジ・インベストメンツの債券運用部長、松川忠氏は指摘する。
<脱トランプトレード>
そもそも金利上昇は株価にとってマイナスであり、「バイデントレード」は矛盾をはらむ。景気拡大による「良い金利上昇」であればマイナス影響は限定的だが、財政拡大による国債増発を懸念した「悪い金利上昇」であれば、株価にネガティブに働く。
今回、パウエルFRB(連邦準備理事会)議長は積極的な財政政策による景気下支えを期待している[nL3N2GK3SX]。FRBが財政拡大に呼応し、国債買い入れを増やせば金利上昇は抑制される可能性が大きい。低金利は株高要因だが、米金利上昇や、それをもとにしたドル高/円安シナリオは崩れることになる。
一方でバイデン氏は、富裕層や企業に対する増税を打ち出している。株式価値の源泉は企業の利益であり、株の買い手としての富裕層への増税も、株価にとってはネガティブ要因。増税が先延ばしされても、将来の価値を織り込む株価にとってはマイナスだ。国債に頼らない財源として増税策を実施すれば、株高シナリオは揺らぐことになる。
7日の副大統領討論会で、ペンス氏は「バイデン氏は就任初日に増税することになる」と発言。ハリス氏は、バイデン氏は年間所得が40万ドルを下回る人々には増税しないと反論したが、増税自体は否定しなかった。
「バイデントレード」が広がってきたにもかかわらず、金融市場が敏感に反応するのは依然としてトランプ氏の発言や動向だ。中国人民元やメキシコペソなど、トランプ氏が攻撃対象としてきた国の通貨が上昇の気配をみせている。「バイデントレードというよりは脱トランプトレード」(国内証券)との指摘も多い。
<最高裁判事の増員問題>
「トリプルブルー」観測自体も強固ではない。上院選挙が依然微妙であるほか、最高裁判事の増員問題がバイデン陣営の弱点として浮上してきている。
9月にリベラル派のルース・ギンズバーグ最高裁判事が死去したのを受け、トランプ大統領は保守派バレット連邦高裁判事を指名した。保守派6人・リベラル派3人と保守派優勢の構成になるため、バイデン氏が選挙勝利後にリベラル派の判事を増員すべきだとの声が一部にある。
しかし、この強引な手法には反対論も多い。強硬に進めてしまえば、急進左派を嫌う穏健派層がバイデン氏支援から離脱する可能性がある。バイデン氏自身も昨年時点で消極的な考えを示していた。しかし、保守派優勢の状況ではオバマケアの存続などが危うくなる。
最高裁判事の数は1869年以来、9人から変わっていない。ただ、議会は判事の数を変更する権限がある。バイデン氏は8日、大統領選で勝利すれば自らの立場を明らかにすると述べるにとどめた。
「決まらないことが最大のリスクだった。バイデン氏のリードが広がったことが一番のリスクオン要因。接戦観測が広がれば、リスクオフ圧力は再び強まる」と、アライアンス・バーンスタインの債券運用調査部長、駱正彦氏は指摘する。
ニュージーランドに拠点を置くオンライン予測市場、プレディクトイットによると、9日時点で、バイデン氏勝利の確率は67%。しかし、2016年の米大統領選において、ヒラリー・クリントン候補は同じ時点で約80%ともっと高かった。
(編集:青山敦子)
この記事に関連するニュース
-
トランプ?ハリス?米大統領選の勝者は誰か。日本株への影響は?(窪田真之)
トウシル / 2024年10月21日 8時0分
-
米国株投資で「億り人」を目指す!大統領選にオクトーバーサプライズはある?(香川睦)
トウシル / 2024年10月8日 7時30分
-
金利上昇、円高、株安…「石破ショック」は一時的なものにとどまる可能性が高い【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフマーケットストラテジスト】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月30日 14時30分
-
相場展望9月30日号 米国株: 金利低下と大統領選でNYダウは最高値だが、インフレ懸念増す 日本株: 株式は「石破ショック」で暴落、首相としての舵取りは大丈夫?
財経新聞 / 2024年9月30日 11時0分
-
米日株・ドル/円 勝ちにいくなら真に受けないこと
トウシル / 2024年9月27日 14時18分
ランキング
-
1わずか1週間で閉店「りゅう社長」"撤退劇"の真相 「話題作り?」との声もあったが実際は全然違った
東洋経済オンライン / 2024年10月25日 8時30分
-
2「事業撤退→年2000万個」チーズデザート成功の訳 ひとりの社員の熱意が、会社を動かした
東洋経済オンライン / 2024年10月25日 8時40分
-
3「問えるのは欲望がある人間だけなんです」AI開発、シリコンバレーの最前線で今起きていること
文春オンライン / 2024年10月25日 6時0分
-
4「年金だけで生活できない」はウソである…社労士が解説「国が認めている節税テクニック」の知られざる効果
プレジデントオンライン / 2024年10月24日 18時15分
-
5便利な「無料AI翻訳」なぜ仕事で使うとヤバいのか リスクは入力した情報の二次利用だけではない
東洋経済オンライン / 2024年10月25日 8時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください