アングル:インドネシア、勤労世代にワクチン優先接種させる理由
ロイター / 2021年1月12日 14時39分
新型コロナウイルスワクチンの大規模接種に向けた準備を進めているインドネシアは、高齢者よりも勤労世代の接種を優先し、速やかに集団免疫を獲得して経済再生を目指す計画だ。写真はジャカルタで昨年11月撮影(2021年 ロイター/Willy Kurniawan)
[ジャカルタ 4日 ロイター] - 新型コロナウイルスワクチンの大規模接種に向けた準備を進めているインドネシアは、高齢者よりも勤労世代の接種を優先し、速やかに集団免疫を獲得して経済再生を目指す計画だ。その成否は他国の注目を集めるだろう。
米国や英国など既に接種を開始した幾つかの国は、新型コロナの感染で重症化しやすい高齢者らにまず接種している。
しかし、インドネシア方式は、最前線の医療従事者、そして公務員に続き、18歳から59歳までの生産年齢人口に接種する。この方式について専門家が考えるメリットとリスクを挙げる。
<なぜ生産年齢人口優先か>
インドネシア政府は、中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)が開発したワクチン「コロナバック」の大規模接種を計画している。政府は、コロナバックが高齢者に効果があることを示す十分なデータがまだそろっていないと説明する。同国では18─59歳を対象にして臨床試験(治験)中だからだ。
保健省高官は、高齢者向けワクチン接種計画については、医薬品規制当局からの提言を待っていると述べた。
英国と米国が接種を始めたワクチンは米ファイザーとドイツのビオンテックの共同開発で、全ての世代で有効性が示されたとしている。しかし、インドネシアが当初利用できるのはコロナバックに限られる。
インドネシアはシノバックと1億2550万回分の供給契約を結んでおり、既に300万回分を国内に搬入している。ファイザー連合のワクチンのインドネシア向け出荷が始まるのは第3・四半期になる見通し。第2・四半期には英アストラゼネカとオックスフォード大学が開発したワクチンの配布も始まる予定だ。
オーストラリア国立大学のピーター・コリグノン教授(感染症)は「何が正しいやり方か、極めて教条的に規定できるとは思えない」と前置きした上で、インドネシアの計画は死亡率には好影響を及ぼさないとしても、感染拡大速度を鈍らせるかもしれないと期待する。「インドネシアの進む道が、欧米と異なることには意義がある。なぜならその戦略のおかげで、欧州や米国よりも劇的な効果をインドネシアが得られる可能性があるか分かるからだ。もっとも答えは、今は誰も得ていない」という。
シンガポール国立大学ヨン・ルー・リン医学部のデール・フィッシャー教授も、インドネシア方式の妥当性に理解を示す。「若い世代は相対的に、総じて動きが活発で、社会性が高く移動も多いので、高齢者に接種するよりも地域の感染速度を遅くできるはずだ。ただ、当然ながら高齢者の方が重症化や死亡のリスクが大きい以上、高齢者に優先接種することにも別の合理性がある。どちらのやり方もメリットがある」という。
<迅速な集団免疫獲得につながるか>
インドネシア政府は、より社会的に動き回り、経済活動に携わっている集団に対して先にワクチンを接種すれば、素早く集団免疫を得られると期待している。
ブディ保健相は、集団免疫獲得には総人口の約67%に当たる1億8150万人へのワクチン接種が必要で、1人当たり2回の接種と15%の廃棄率を想定したとして、およそ4億2700万回分を確保しなければならないとの見方を示した。
ただ、ワクチンを接種しても、その後に他人にウイルスを感染させるのか、させないのかについては、さらなる研究が不可欠だと警告する専門家もいる。今回の方式で集団免疫の獲得が可能になるかは疑わしいというのだ。
インドネシア医療経済学会のトップは「(ワクチン接種後も)他人に感染させるリスクは残る恐れがある」と述べている。
<景気回復を後押しするか>
エコノミストの見立てでは、約1億人へのワクチン接種が成功すれば、消費や生産といった経済活動が復活する公算が高まり、経済を上向かせる力になる。
バンク・マンディリのエコノミスト、ファイサル・ラックマン氏は、18歳から59歳の生産年齢人口の消費ニーズが他の世代に比べて高いと主張。インドネシア経済の5割超を家計消費が占めているので、生産年齢人口のワクチン接種優先は、より急速な景気回復を後押ししてもおかしくないとみる。
他方、それでも新規感染者の増加が続くようなら、人々の先行きに対する自信を弱める危険もあるとくぎを刺した。
昨年のインドネシア経済は新型コロナ禍で20年余りぶりの景気後退に陥り、政府はマイナス2.2%成長に落ち込んだと推計している。
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