アングル:第三の道を模索するEU、米の対中政策に距離
ロイター / 2021年3月12日 14時48分
[ブリュッセル 12日 ロイター] - ブリンケン米国務長官は先月、欧州連合(EU)の外相と初のビデオ会議に臨んだ。
会議は非常に和やかな雰囲気で、友好的に進んだが、出席者によると、ブリンケン長官が「ともに中国を押し返し、団結力を示す必要がある」と発言した際、EUの外相から直接的な反応はなかった。
バイデン政権の対中政策の詳細が明らかになるまで、明確な姿勢は示したくないというのが一因だが、対米関係と対中関係のバランスを取り、世界の2大大国のどちらか一方に極端に肩入れしたくないとの警戒心もある。
また、当局者によると、EUは米中から独立し、インド、日本、オーストラリアといったインド太平洋諸国と独自に関係を深めたいと考えている。
インド太平洋の安全保障で存在感を高め、開発支援、通商、外交を積極化する戦略で、来月の合意を目指しているという。
アジア駐在のあるEU高官は「米中の間で第三の道を歩んでいく」と発言。
別のアジア駐在のEU高官も「(米国は)中国にタカ派的な姿勢を取っているが、われわれの意図とは異なる」との懸念を示した。
<欧州向けの巡回宣伝>
先月のビデオ会議は、トランプ前政権下で悪化したEUとの関係を再構築しようというバイデン政権の政策の一環だ。
米政府高官によると、バイデン政権は「欧州向けの巡回宣伝」に着手しており、日々、欧州の政府と連絡を取り、中国の台頭について協議している。「さまざまな分野で協力・協調を高める」ことが狙いだ。
政府高官によると、こうした米国の姿勢を背景に、ドイツは今年8月、アジアにフリゲート艦を派遣し、中国が人工島を造成して軍事施設を建設している南シナ海を航行させる計画を立てている。
外交筋によると、EUは、中国のウイグル族に対する人権侵害を巡って、今月22日に制裁を発動する予定だ。対象は中国の当局者4人と1団体で、渡航禁止・資産凍結措置を適用する。
また、中国の習近平国家主席が先月、中東欧諸国とビデオ会議方式でサミットを開催した際も、EUに加盟するブルガリア、エストニア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、スロベニアは、国家元首でなく、閣僚級をサミットに参加させた。
EUは、香港での民主派排除、ウイグル問題、新型コロナウイルスの発生を巡り、対中強硬姿勢を強めているが、米国の対中政策に対する不信感は根深い。
アジア駐在のEU高官は「(米国に)どのような対中政策をとるのかと聞いても、まだ決まっていないという答えが返ってくる」と発言。
マクロン仏大統領も先月、反中国で団結すれば、紛争のリスクが「最大限に」高まると指摘。一部のEU諸国が抱いている懸念を浮き彫りにした。
<EUのインド太平洋戦略>
新たな貿易関係の構築を目指すEUは、インド太平洋に巨大な潜在力があると見ている。
EUは日本と経済連携協定を締結。オーストラリアとも貿易協定交渉を進めている。
外交筋によると、インド太平洋諸国は、自由で開かれた貿易を維持し、米中どちらか一方を選択せざるを得ない状況を回避するため、EUに積極的な役割を果たすよう求めている。
フランスは2018年のインド太平洋戦略で、オーストラリアやインドなど同盟国との関係を強化する方針を表明。オランダも独自の戦略を掲げ、こうした動きに追随しているほか、ドイツも「ガイドライン」の緩和に動いている。
外交筋によると、EUが検討中の戦略では、アジアに派遣する軍事専門家を増やし、沿岸警備の訓練を行ったり、インド洋を巡回しているオーストラリア艦船に派遣する軍人を増やす可能性がある。
中国との貿易関係が深いドイツが、こうした新たな戦略にどこまで同意するかは不明。EUは2019年に中国を「体制的ライバル」と位置付けたが、ドイツ政府当局者は、EUには中国を遠ざけている余裕はないと話す。
ただ、フランスのルドリアン外相は、EUのインド太平洋戦略をまとめるため、4月にインドを訪問する予定。EUも今年、インドとの首脳会議開催を目指している。
フランスは、太平洋の海外領土に180万人の市民がいる。軍人は4000人、海軍の艦船と巡視船も配備している。
あるフランスの外交官は「インド太平洋は欧州の地政学の行く末を決める土台となる。これ以外に選択肢はない」と述べた。
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