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焦点:イスラエル攻撃の黒幕、謎に包まれたハマスのデイフ司令官

ロイター / 2023年10月12日 14時35分

10月11日、イスラエルは、先週のイスラム組織ハマスによる大規模攻撃を「我が国の9.11」と呼ぶ。一方、攻撃の首謀者とされているハマス軍事部門のムハンマド・デイフ司令官は、この攻撃を「アルアクサの洪水」と名付けた。写真はイスラエル・アシュケロンの路上に残る、ガザから撃ち込まれたロケット弾の残がい。10日撮影(2023年 ロイター/Amir Cohen)

Samia Nakhoul Laila Bassam

[ドバイ 11日 ロイター」 - イスラエルは、先週のイスラム組織ハマスによる大規模攻撃を「我が国にとっての9.11」と呼ぶ。一方、攻撃の首謀者とされているハマス軍事部門のムハンマド・デイフ司令官は、この攻撃を「アルアクサの洪水」と名付けた。

イスラエルが最重要の標的とみなすデイフ司令官は、謎に満ちた存在だ。

同司令官は7日、ハマスが数千発のロケット弾をガザ地区から発射するのと同時に録音済みの談話を放送。この中で、今回の襲撃をこの表現で呼び、これがエルサレムのアルアクサ・モスクにイスラエルが侵入したことに対する報復であることを示唆した。

イスラエルは2021年5月、イスラム教において3番目に神聖な場所である同モスクを襲撃し、アラブとイスラム世界を激怒させた。ガザにいるハマスに近い関係者によれば、イスラエル側に1200人以上の死者と2700人以上の負傷者を出した今回の攻撃についてデイフ氏が計画を練り始めたのは、これがきっかけだったという。

「イスラエルはラマダン(断食月)の最中にアルアクサ・モスクを襲撃し、参拝者を殴打、襲撃し、高齢者や若者をモスクから引きずり出した。そうした光景や映像が、攻撃の引き金になった。何もかもが怒りに火をつけ、油を注いだ」と、この関係者は説明した。

この襲撃の前に、イスラエル警察はエルサレム旧市街の周辺にバリアを築いていた。イスラエル側は秩序を維持するためとしたが、パレスチナ人はラマダン中に集会の自由を制限するものだとして反発。周辺に住むパレスチナ人たちが、自宅から強制的に退去させられるのではないかと不安を募らせたことも緊張を悪化させた。

アルアクサ・モスクはエルサレムの主権と宗教の問題をめぐって長年にわたり暴力の発火点となってきたが、このときの襲撃を機に、イスラエルとハマスの間で11日間にわたる戦闘が起きた。

それから2年以上を経た今回の攻撃は、1973年の第4次中東戦争以来、イスラエル国防上の最悪の失態となった。これを受けてイスラエルは戦争状態を宣言し、ガザ地区に対する報復攻撃を開始、1055人上を殺害し、5000人を負傷させた。

イスラエルは11日には、ガザから侵入してきたパレスチナ人の武装集団員を1000人以上殺害したと表明した。

イスラエル側はこれまで7回、直近では2021年にもデイフ氏暗殺を試みたが、同氏はいずれも切り抜けてきた。めったに発言せず、公の場にも姿を現さない。だからこそ、ハマスのテレビ局が7日、「デイフ氏が演説を行う」と発表した時、パレスチナ人は何か重大なことが進行中だと悟った。

デイフ氏は録音された音声で、「今日、アルアクサの怒り、人民と国家の怒りが爆発する。我らがムジャヒディン(イスラムの戦士)たちよ、今日はこの犯罪者に、その時代が終わったと思い知らせる日だ」と語った。

デイフ氏の画像は3点しか存在しない。20代の頃の姿とマスクを着用した姿、そして今回の音声が放送された時に使われた影の画像だ。

デイフ氏の所在は不明だが、ガザ地区に迷路のように張りめぐらされた地下トンネル内に潜んでいる可能性が高い。イスラエルの治安関係者は、デイフ氏が攻撃の計画・作戦の両面に直接関与していたと述べた。

パレスチナの消息筋によると、イスラエルに空爆されたガザの住宅のうち1軒はデイフ氏の父親が所有していた。デイフ氏の兄または弟のほか、親族2人が死亡したという。

<2つの頭脳、1人の首謀者>

ハマスに近い関係者は、攻撃計画の決定はハマスのアルカッサム旅団を指揮するデイフ氏とガザ地区のハマス指導者であるヤヒヤ・シンワル氏の共同によるものだが、どちらが首謀者であるかは明らかだと話している。

この関係者は「頭脳は2つあるが、首謀者は1人だ」と語り、作戦に関する情報を知っていたのはハマス幹部の中でも一握りにすぎなった、と続けた。

ハマスの考え方に詳しい中東地域の情報提供者は、今回の攻撃については秘密が厳守されており、イスラエルの宿敵であり、ハマスにとっては資金や訓練、武器の重要な提供者であるイランでさえ、ハマスが大規模な作戦を計画していることを漠然と知っていただけで、決行日時や詳細については把握していなかったとしている。

この関係者によれば、イラン政府は大規模な作戦が用意されていることに気づいていたが、ハマスとパレスチナ指導部、イラン支援下にあるレバノンの武装組織ヒズボラ、そしてイランとの間で協議されたことはなかった。

「極秘裏に進められていた」と、この関係者は語る。

イランの最高指導者ハメネイ師は10日、イラン政府はイスラエルへの攻撃に関与していないと述べた。米国政府は、イランとハマスは共謀関係にあるが、今回の攻撃にイランが直接関与したことを示す機密情報や証拠は得ていない、としている。

デイフ氏が練り上げた計画は、長期にわたる隠蔽工作を伴うものだった。宿敵イランの同盟者であるハマスは武力衝突には関心がなく、実効支配しているガザにおける経済発展に注力している──。イスラエルはそう信じ込まされてしまった。

ところが、ハマスに近い関係者によれば、イスラエルがガザ地区の労働者に経済的インセンティブを与え始める一方で、ハマスの戦闘員は、多くの場合はイスラエル軍の目にも明らかな形で訓練を続けていたという。

ハマス幹部のアリ・バラカ氏は、「私たちはこの戦いに向けて2年間準備してきた」と語った。

デイフ氏は録音の中で、落ち着いた声で、ハマスはイスラエルに対し、パレスチナ人に対する犯罪をやめ、虐待や拷問を受けている捕虜を解放し、パレスチナ人の土地の収用を停止するよう繰り返し警告してきた、と語った。

「占領部隊は毎日のようにヨルダン川西岸の私たちの村や町、都市を襲撃し、殺し、傷つけ、破壊し、拘束している。私たちの土地を何千エーカーも没収し、我が国民を家から追い出して入植地を建設する一方で、ガザに対する犯罪的な包囲を続けている」

<影の男>

ヨルダン川西岸と呼ばれる長さ100キロ、幅50キロの地域では、この1年以上混乱が続いている。同地域は1967年にイスラエルに占領されて以来、イスラエル・パレスチナ紛争の中心地だった。

デイフ氏によれば、ハマスは国際社会に対し「占領という犯罪」を終わらせるよう求めたが、イスラエルは挑発を強めたという。同氏はさらに、ハマスは過去にイスラエルに対し、パレスチナ人捕虜の解放に向けた人道上の取引を提案したが、それも拒否されたと述べた。

「イスラエルによる占領の暴虐と、国際法や決議を否定する姿勢、さらには米国や西側諸国の支持と国際社会の沈黙に鑑みて、我々はこうした状況すべてに終止符を打つことを決意した」と、デイフ氏は宣言した。

ハマス軍事部門を率いるデイフ氏は、第1次中東戦争(1948年)の後に設置されたハーン・ユニス難民キャンプで1965年に誕生し、ムハンマド・マスリと名付けられた。87年に始まった最初のインティファーダ(パレスチナ人による反イスラエル抵抗運動)の際にハマスに参加し、その後ムハンマド・デイフという名で知られるようになった。

ハマス関係者によれば、デイフ氏は89年にイスラエルに拘束され、約16カ月拘束された。

デイフ氏はガザのイスラム大学で物理学、化学、生物学を学び、理学士の学位を取得した。芸術にも親しみ、大学のエンターテインメント委員会を率いて、喜劇の舞台への出演も経験した。

ハマスで頭角を現したデイフ氏は、ハマスの地下トンネル網を開発し、爆弾製造の能力を高めた。数十年にわたりイスラエルで最も重要な指名手配者リストの最上位にあり、自爆テロで数十人のイスラエル人を殺害した責任者として名指しされている。

デイフ氏にとって、自らの存在を隠しておくことは生死に関わる必須要件だった。ハマス関係者によると、同氏はイスラエルによる暗殺未遂で片目を失い、片足に重傷を負ったという。

デイフ氏の妻と当時生後7カ月だった息子、同じく3歳の娘は、2014年にイスラエルの空爆で死亡した。

ハマス軍事部門のトップという立場でありながら生き延びたことで、デイフ氏はパレスチナの民族的英雄としての地位を獲得した。映像では覆面をしているか、影だけが映し出される。ハマスに近い関係者によると、同氏はスマートフォンなど現代のデジタル技術を使っていないという。

「捉えどころがない、影の男だ」

(翻訳:エァクレーレン)

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