アングル:マイナス金利、撤廃なら当預は2層か 短期市場への影響不透明
ロイター / 2023年10月12日 17時17分
10月12日、日銀の政策修正観測がくすぶる中、市場ではマイナス金利撤廃後の日銀当座預金について、現在の3層構造からゼロ%と0.1%の2層に移行するとの見方が出ている。東京都内で9月20日撮影(2023年 ロイター/Issei Kato)
Takahiko Wada
[東京 12日 ロイター] - 日銀の政策修正観測がくすぶる中、市場ではマイナス金利撤廃後の日銀当座預金について、現在の3層構造からゼロ%と0.1%の2層に移行するとの見方が出ている。マイナス金利政策の下で厳しい運用を強いられてきた銀行にとって撤廃は「朗報」となるが、短期市場への影響は見通しづらいとの声がある。国債利回りも上昇してくれば、資金運用先としての短期市場の重要性が相対的に低下するおそれがあるからだ。
<無担保コール翌日物金利、政策金利として復活か>
日銀がマイナス金利を撤廃した場合、当預3層構造はどのようになるのか。東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは、無担保コール翌日物金利が政策金利として復活し、当預3層構造は2層に移行する可能性が高いとみている。2層の内訳はマクロ加算残高と基礎残高を合算した新たな階層にプラス0.1%、もう一方の政策金利の階層にゼロ%が付くというものだ。この2層式を採用することで、無担保コール翌日物金利は原則、ゼロ%から0.1%で推移することになる。
加藤氏が2層構造への移行を予想するのは、1)短期市場での取引の確保、2)日銀の各種オペにおけるインセンティブの維持、3)日銀による利払い負担の一部軽減、の3点からだ。日銀がゼロ金利を脱却し、その後も利上げを続ける場合は、金利が高い階層と低い階層(政策金利の階層)の差を0.1%よりも徐々に拡大していくとみている。
BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「日銀がマイナス金利を撤廃した場合、法定準備を除き、当座預金の付利は一本化するとみている。ただ、ゼロ金利政策の間は、0.1%のプラス金利政策との批判を回避するため、政策金利残高の付利を0%、それ以外を0.1%とする2層構造にする可能性がある」と述べる。
<短期市場、機能維持は重要>
先行して出口戦略に踏み切ったスイス国立銀行(中央銀行)は、マイナス金利の解除後も2階層式の当預を維持している。政策金利が付く階層とそれよりも低い付利の階層を作り、階層の間で資金のやり取りが発生するようにして、短期市場の機能維持を図っている。加藤氏は「日銀は当預の階層式を導入する際にスイス国立銀行をお手本にした」と指摘する。
日銀では、過去のゼロ金利政策時代に無担保コール翌日物がゼロに貼り付いた結果、コール市場の取引が大きく落ち込み、取引参加者が自身の金利観や資金規模を考えながら取引を行う必要性がなくなったばかりでなく、取引に携わる人員やノウハウが減退したことへの警戒感がくすぶっている。このため、マイナス金利撤廃後の当預の制度設計にあたっても、短期金融市場の機能を維持することが重要だとの指摘が聞かれる。
一方で短期市場の機能のために当預の階層構造を残すことに懐疑的な意見もある。BNPパリバ証券の河野氏は「コール市場の取引量を一段と高めることにどれだけ経済的な意味があるのか」と疑問を呈する。コール市場は「日銀がかなりリジットにコントロールしなければならず、(国債市場のように)価格発見機能が求められている市場ではない」というのがその理由だ。
<国債金利が左右か>
マイナス金利の撤廃は、低金利環境の長期化で厳しいビジネス展開や資金運用を強いられてきた銀行界の「悲願」だ。日銀当預からマイナス金利適用残高がなくなれば「銀行としては当預に安心して資金が積める」と、ある銀行担当アナリストは語る。
しかし、日銀がマイナス金利を撤廃して当預3層構造を修正した場合に短期金融市場にどのような影響が及ぶのか、現時点では見通しにくいとの声が市場では聞かれる。
これまでは、無担保コール翌日物金利がプラス圏をうかがう展開となれば、メガバンクが資金の出し手となって金利上昇が抑制される場面があった。しかし、例えばマイナス金利の撤廃時に国債利回りが総じて上昇となれば、銀行勢にとっては短期市場で資金運用する重要性が相対的に低下し、国債での運用を活発化する可能性が出てくる。その一方で、短期市場でのプラス金利の復活により、生保や投資信託が資金の出し手になる可能性もあるとみられている。
ある銀行関係者は「マイナス金利を解除すれば、単に2016年の導入前の短期市場の風景に戻るわけではない」と指摘する。
(和田崇彦 編集:石田仁志)
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