アングル：北朝鮮のごみ風船とＧＰＳ妨害、韓国領空での飛行にリスク

　７月１０日、北朝鮮が、ごみ袋をつり下げた風船やミサイルの発射、衛星利用測位システム（ＧＰＳ）の偽信号発信といった活動を活発化させ、韓国の領空では飛行機の運航に支障が生じるなどリスクが高まっている。写真は６月、北朝鮮からソウルに飛来したごみ入りの袋。韓国国防省提供（２０２４年　ロイター）

Lisa Barrington

[ソウル １０日 ロイター] - 北朝鮮が、ごみ袋をつり下げた風船やミサイルの発射、衛星利用測位システム（ＧＰＳ）の偽信号発信といった活動を活発化させ、韓国の領空では飛行機の運航に支障が生じるなどリスクが高まっている。

北朝鮮は５月下旬、汚物などが入ったごみ袋をつり下げた数千個の風船を韓国に飛ばし始めた。専門家によると、これは心理戦だ。

ごみ風船は５月２９日から６月２７日の間に７回飛ばされ、数百の風船が韓国に落下。１つは仁川空港の滑走路に着陸し、同空港最大の国際ゲートウェイは３時間の離着陸停止を余儀なくされた。

風船が最初に出現したころ、北朝鮮からの航空航法妨害も急増した。この中には、韓国の民間航空機に影響を及ぼす初の「スプーフィング」が含まれていた模様。スプーフィングとは、ＧＰＳの偽信号を発信し、航空機などが実際とは異なる位置にあるように思わせる妨害行為だ。

飛行リスク情報を共有する会員制組織ＯＰＳＧＲＯＵＰは６月の会報で「領空の安全性は徐々に悪化している」と指摘する。

韓国の国土交通省は、軍、航空管制当局、航空会社が２４時間の監視と通信システムを維持していると述べた。

軍の報道官は「韓国軍は昼夜を問わず、監視システムを使って風船を探知している」と語った。

北朝鮮は２０１６年にもごみ風船を打ち上げ、韓国にいる脱北者や活動家が風船で物品を送るプロパガンダ活動を行ったことに対する報復だと主張した。

＜飛行に支障＞

北朝鮮から約４０キロ離れた仁川空港は、風船の飛来によって何度か業務を停止している。

大韓航空のネットワーク運営担当ゼネラルマネジャー、ユン・チャン・ファン氏は、風船のためにこの空域での飛行が「かなり複雑」になっていると語った。

ユン氏によると、大韓航空は風船に対処するために運航手順を修正。北風が予想される際の運航には燃料を追加し、航空機がより長く上空に留まる、もしくは代替空港に迂回できるようにしたという。

風船に加え、航法に利用されるＧＰＳへのスプーフィングも増え、混乱に拍車を掛けている。

米戦略国際問題研究センターの航空宇宙安全保障プロジェクトディレクター、カリ・ビンゲン氏は「これによって操縦士はコースを外れ、北朝鮮の領空に迷い込む危険性がある」と述べた。

韓国政府によれば、５月２９日から６月２日の間に、約５００機の飛行機と数百隻の船舶でＧＰＳに支障が生じた。韓国政府は国際民間航空機関（ＩＣＡＯ）に苦情を申し立て、ＩＣＡＯは北朝鮮に妨害を止めるよう警告した。

＜スプーフィング＞

航空機の運航情報サービスを手がけるスイスのＳｋＡＩによると、北朝鮮による韓国のＧＰＳ妨害は１０年以上前から発生しているが、スプーフィングは新しい現象だ。

ＳｋＡＩの共同創設者、ブノワ・フィゲ氏は、同社が５月２９日から６月２日の間に韓国の空域で検知したスプーフィングは、数十機の飛行機に影響を与えたと述べた。

韓国当局は５月と６月、仁川とソウル周辺を飛ぶ飛行機は「ＧＰＳの使用に際して細心の注意を払うよう」警告する通達を出した。

ＯＰＳＧＲＯＵＰによると、世界的にＧＰＳのスプーフィングに関連した大きな航空事故は起きていないが、２３年９月に欧州からドバイに向かうプライベートジェット機がイラン領空に無許可で侵入しそうになった事例はある。

北朝鮮は昨年、偵察飛行と見なされる機体が領空に侵入すれば全て撃墜すると表明した。

大半の航空会社は北朝鮮領空を避けて運航。米連邦航空局（ＦＡＡ）は、北朝鮮が予告なしに弾道ミサイル発射実験を行っていることなどから、北朝鮮上空の飛行を禁止している。

ＯＰＳＧＲＯＵＰは「韓国の空域は、何らかの政治的危機によって不安定化するリスクに常にさらされている。事態は警告もなく急変する可能性がある」と警鐘を鳴らした。