アングル:膨れあがるベビーブーム世代への年金支給、仏政権の改革案は前途多難
ロイター / 2024年10月13日 8時9分
10月9日、 膨れあがる財政赤字の削減に取り組むフランス政府が、火中の栗とも言える年金問題に再び挑もうとしている。写真は1日、パリで政府の年金改革案に反対するデモを行う人々(2024年 ロイター/Abdul Saboor)
Leigh Thomas Michel Rose
[パリ 9日 ロイター] - 膨れあがる財政赤字の削減に取り組むフランス政府が、火中の栗とも言える年金問題に再び挑もうとしている。今回は、年金受給者に支出削減への取り組みへの貢献を求め、また高齢有権者におもねる傾向のある国民議会議員らにも支持を求めている。
エコノミストやアナリストは、フランスが歳出肥大化に真剣に対処するには、1946-1964年に生まれたいわゆる「ベビーブーマー世代」が受け取る年金の改革は避けて通れないと指摘する。フランス政府の歳出に占める年金の比率は4分の1を超えている。
バルニエ首相率いる現内閣は2025年度の予算編成で、インフレを反映した年金増額を2025年1月から同年半ばに先送りすることで40億ユーロ(6511億円)を削減する案を提示している。
だがこうした暫定的な措置でさえ、政界からの反発を呼んでいる。まじめに投票所に向かう年金受給者が、支給額に手を付けようとする政党に反旗を翻すことを恐れているからだ。
極右政党「国民連合(RN)」を率いるマリーヌ・ルペン氏はすかさず、先送りの動きは受け入れがたく、「我が国の高齢から数十億ユーロを盗むに等しい」と述べた。RNは国民議会でも最大勢力の1つで、その暗黙の支持はバルニエ首相にとっても生命線だ。
バルニエ陣営側であるはずのジェラルド・ダルマナン前内相でさえ、増額先送りは愚策になると発言している。一方で、エコノミストやアナリストの間、対GDP比57%と世界有数の高さとなっているフランスの公共支出全体のうち、明らかに支出削減の対象となり得るのは年金との見方が増えている。
「年金にまったく手をつけないまま歳出を減らそうとしても難しい」と、元会計検査官のフランソワ・エカル氏は指摘する。
マクロン大統領率いる仏政府は昨年、年金コスト削減のため、定年退職年齢を2年引き上げて64才とする改革を断行した。その一方で既存の年金受給者を標的にすることはほぼ控えてきた。
フランスの年金制度は勤労者の給与から大きく差し引かれる保険料により支えられており、労働人口に比べて年金受給者の数が膨れあがることで圧迫されつつある。
起業家のラフィク・スマティ氏はX(旧ツイッター)への投稿で、「フランスで触れてはならない問題が1つある。ベビーブーマー世代がその後の世代に残す、信じがたいレベルの負債だ。ブーマーは私たちに借りがある」と指摘した。
若い世代の納税者のあいだでは、痛みを共有しようとしない「ブーマー」への不満が高まっている。X上で「コスタ・ブーマー」と名乗るフランスの風刺系アカウントは、若い納税者があくせく働いているあいだに甘やかされた年金受給者はクルーズを楽しんでいる、と揶揄している。
<膨らむ年金負担>
仏国民議会は各党の勢力が拮抗するいわゆる「宙づり議会」状態で、バルニエ首相としては、倒閣に動く可能性のある有力議員らに配慮せざるをえない。
批判に直面したバルニエ首相は、年金以外で同じ規模の支出削減を実現できるのであれば、年金増額を予定どおり1月に実施することも国民議会の議題になり得ると述べた。
だが、これまでに示された代案は、年金への支出削減には金額の点でまったく及ばない。ルペン氏は移民を支援しているという非政府組織(NGO)への補助金削減を提案しているが、年間7億5000万ユーロ規模にとどまる。
ダルマナン氏は公共放送の予算削減や週35時間の労働時間規制の廃止を提案している。
一部のエコノミストは、前政権が今年1月にインフレ調整として年金支給額を5.3%引き上げたことで、年金支給額抑制のチャンスを逸したと指摘している。
欧州議会選挙の数カ月前に実施されたこの増額により、年間150億ユーロ近いコストが生じ、退職年齢を64才に引き上げたことで節約できた170億ユーロの大半が帳消しになった。
マクロン大統領の与党に属する国民議会議員はロイターに対し、マクロン氏は選挙間近に年金制度に手をつけることは政治的な自殺行為だと考えている、と語った。若者や労働者階級の有権者はすでに与党に見切りをつけており、マクロン支持者の中心は年金受給世代になっている。
アリアンツ所属のエコノミスト、ルドビック・スブラン氏は、「1月の年金増額は、この10─15年のあいだで最悪の経済的判断だった」と語る。「それだけで(前回の)年金改革による財政面での効果を台無しにしてしまった」
この増額によって年金受給者はインフレの影響から守られたが、勤労者の側では、必ずしもこれと同水準の昇給を確保できなかった。
フランス年金理事会によれば、フランスの年金受給者の生活水準は勤労世代の水準に迫るか、むしろ恵まれているほどだが、大半の国では勤労世代よりも低くなっているという。
またフランスの場合、他の経済開発協力機構(OECD)諸国の大半よりも定年退職年齢が低く、平均寿命は長くなっている。そのため年金支給額の対GDP比を見ると、OECD平均が8%であるのに対し、フランスは14%近くに達している。
同理事会は6月、何も手を打たなければ、2023年の改革もむなしく、年金制度は今年中に赤字となり、今後何年も字を解消できないという見通しを示した。
ペンシルベニア大学ウォートン校のエコノミスト、シルバン・キャサリン氏は、「もう1度退職年齢を引き上げる年金改革が必要になるだろう。どの国もそうしているのだから」と予測した。
(翻訳:エァクレーレン)
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