アングル:「トランプ2.0」対応迫られるFRB、2016年の行動踏襲するか
ロイター / 2024年11月12日 10時39分
2016年の米大統領選で共和党候補のドナルド・トランプ氏が初当選を果たした数週間後、米連邦準備理事会(FRB、写真)の政策担当者はトランプ氏が打ち出すと見込まれた減税や輸入関税が経済に及ぼす影響の検討をいち早く開始し、暫定的な予測をまとめた。2008年9月、ワシントンで撮影(2024年 ロイター/Jim Young)
Howard Schneider
[ワシントン 11日 ロイター] - 2016年の米大統領選で共和党候補のドナルド・トランプ氏が初当選を果たした数週間後、米連邦準備理事会(FRB)の政策担当者はトランプ氏が打ち出すと見込まれた減税や輸入関税が経済に及ぼす影響の検討をいち早く開始し、暫定的な予測をまとめた。一部の政策担当者が下したのは、インフレ抑制のために金利をより高くする必要があるかもしれないとの結論だ。
当時FRB理事として議論に加わった現在議長のジェローム・パウエル氏は、来年1月の第2次トランプ政権発足から少なくとも自身の任期が終わる26年5月まで1年4カ月にわたり、金融政策のかじ取りをしなければならない。
16年12月13─14日開催の連邦公開市場委員会(FOMC)議事録を読むと、パウエル氏は次期政権で想定される「拡張的な財政姿勢」を根拠に挙げて「ある程度引き締め的な金融政策が求められそうだ」と発言したことが分かる。
このFOMCで決まった1年ぶりの利上げは、大統領選の結果が判明するずっと前からFRBが示唆してきた措置だった。しかしFRBは17年になると、さまざまな理由から大統領選前に予想された2回よりも多い3回の利上げに動いた。
インフレを抑えつつあとどれぐらい、どのようなペースで利下げするか判断を迫られている今のFRBは16年と同じような不確実性に直面し、第2次トランプ政権の経済政策と正面衝突する可能性がある。
トランプ氏が今回の選挙戦で掲げた経済政策は減税拡大や新たな関税導入、移民規制強化など16年の約束をなぞったものだ。ところが経済情勢は当時と全く異なり、特に明らかなのはインフレのリスクがまだ残っている点だ。
ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁は今月9日と10日のテレビ各局のインタビューで、トランプ氏が約束した不法移民の大量強制送還は一部企業に混乱をもたらす可能性があるとの見解を示した。また、関税率引き上げは外国が対抗措置を打ち出せば、米国の物価をじりじりと押し上げるという意味で「より大きな懸念要素」になりかねないと警告した。
<過熱気味の経済>
トランプ陣営は選挙戦で、民主党候補のカマラ・ハリス副大統領に対する攻撃の主眼をインフレに置いた。ただ、トランプ氏は次期大統領として経済の供給能力がインフレを起こさないぎりぎりの位置にある中で、自らが掲げた景気拡大方向の公約を実現していくという難題を抱えることになる。
16年の米経済は労働力と経済全体の供給力の余剰が足かせになっており、FRBは物価上振れを臨んでいた。足元では逆に人手が足りず、需給ギャップはプラスとなり、FRBが物価圧力の新たな兆しや再燃リスクを警戒している。
パウエル氏は今月7日の会見で、トランプ氏の勝利が金融政策に「短期的な」影響を及ぼさないとの見解を示した。ただ、16年のケースが参考になるとすれば、今年12月17-18日の次回FOMCで減税や関税、一部外国人労働者の喪失が経済見通しにどう影響するかについて事務方が議論のたたき台となる予測資料を提示する公算が大きい。
FRB当局者は表向き、トランプ氏の経済政策案の内容に言及することに消極的とはいえ、既に今後の利下げ方針の再検討を始めたかもしれない。「トランプ2.0」の政策がインフレリスクを高めると見なされた場合、利下げは正反対の対応になってしまうからだ。
米銀大手バンク・オブ・アメリカのアナリストチームによると、当面FRBはトランプ氏を巡る事象には「目をつぶる」作戦を採用し、22年以降の急速な物価下振れを踏まえて引き締め度合いを和らげるための利下げを続けるだろう。
それでもこの作戦はすぐ撤回されるかもしれない。16年12月のFOMCでは事務方が早速減税や関税がもたらす変化の見積もりを示し、金利を高めにする必要性を示唆した。
<次回FOMCの見通しに注目>
次回FOMCで公表される最新の経済物価見通しで、今年9月会合時点で想定していた利下げ経路を維持しているのかどうかが明らかになる。今月7日に4.5─4.75%への引き下げが決まった政策金利は、9月時点では26年中に2.9%まで低下するというのがFOMCメンバーの中心的な見方だった。
パウエル氏は、政策金利を緩やかに「中立的」水準に近づける基本的な運営姿勢は変わらないと説明しつながらも、具体的な利下げペースや政策金利の最終到達点はまだはっきりさせていない。
またパウエル氏は7日の会見でトランプ氏や大統領選に直接触れるのは避けたが、大統領選結果を決定づけた可能性がある大きな経済的課題について指摘した。それは実体経済が素晴らしい状態になったのに、人々の認識がそれに追いついていないという現実だ。
パウエル氏は「人々がまだ物価高の影響を感じているのは承知している。物価水準が下がってきていないので、そうした感覚が続いている。実質賃金の上昇を実感するには数年かかる。そうした事態を生み出せる道筋に十分乗っており、実現に必要な条件の大半は整ったが、人々が自信を取り戻すまでにはまだしばらく時間を要するだろう」と述べた。
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