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アングル:コロナで出稼ぎ労働者排斥、アラブ湾岸経済の未来に影

ロイター / 2020年5月13日 11時22分

新型コロナウイルスで湾岸諸国の経済活動は停滞し、この地域を支える外国人出稼ぎ労働者は居場所をなくしつつある。写真は失業した外国人労働者。5月7日、サウジアラビアのリヤドで撮影(2020年 ロイター/Ahmed Yosri)

Davide Barbuscia Marwa Rashad

[ドバイ/リヤド 7日 ロイター] - サウジアラビアで人気のテレビ司会者ハレド・アル・オケイリー氏は、「国内労働者よりも外国人労働者を一時解雇することは民間企業の国家的な義務である」と発言し、国内労働人口の多くを出稼ぎ労働者が占めていることに「現実的な危険」があると警告した。

毎日出演するトークショーでオケイリー氏が発したコメントは、中東の湾岸諸国経済の屋台骨となっている外国人労働者3500万人が直面するジレンマをずばり言い当てている。新型コロナウイルスの感染拡大と原油価格暴落を背景に企業が人員を削減し、各国政府が自国民の雇用・賃金を守ろうと動くなかで、彼らは湾岸諸国にとどまるべきなのか、帰国すべきなのか。

国際労働期間(ILO)は具体的な数字は示さないながらも、2008─09年の金融危機や、湾岸諸国の主力輸出品である原油の価格が急落した2014─15年にときよりも、外国人労働者の出国が多くなるものと予想している。

たとえばオマーン。金融危機を受けた2010年に外国人労働者は34万人以上減少した。世界銀行のデータによれば、この年オマーンの経済成長率は1.3ポイント低下している。

今回、湾岸諸国は外国人労働者を帰国させる手段を用意しようと試みているものの、多くはセーフティネットもないまま足止めを食らっている。

この地域にある各国の大使館などのデータによれば、アジア系を中心に、数十万人の移民労働者がすでに帰国に向けた申請を済ませている。湾岸諸国では、過密状態の地域で生活する低所得の外国人労働者のあいだで新型コロナウイルスの感染が広がっている。

<「とどまる意味がない」>

パキスタンとインドは、すでに湾岸諸国から自国民を退避させる動きを始めた。エジプトはクウェートから航空機で自国民を帰還させようとしている。クウェートでは不法在留者収容施設でエジプト出身者による暴動が発生、治安部隊が鎮圧した。

ILOの上級専門家リスザード・チョルウィンスキー氏は、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、カタールから出国する外国人労働者が「非常に多くなる可能性がある」と話す。

UAEで帰国申請を済ませたパキスタン人は6万人。その1人であるファーマンさんは2カ月前、スクールバスの運転手という職を失った。新型コロナの封じ込め措置として、複数の教育センターが閉鎖されたためだ。

ドバイのアル・クオズ工業地区にある共同住宅の前、街灯にぼんやりと照らされた通りに立つファーマンさんは、「自分の国に帰りたい。仕事もないのにこの国にとどまる意味はないから」と話す。

新型コロナによって窮地に追い込まれている労働者は、ブルーカラーだけではない。専門的な資格を持つ労働者も影響を免れない。

「インターネットでたくさんの職に応募したが、どれも期限が過ぎてしまった」と語るのは、エジプト系米国人の建築士ナダ・カリムさん。ドバイで新たな仕事に就くはずだったが、その企業が採用を凍結してしまった。

「収入がなくても2─3カ月はここで粘れるが、それ以降は母国に戻らないとやっていけない」

レバノン系カナダ人のセイマーさんは、サウジアラビアの広告代理店で働いていたが、賃金の支払いがないまま6カ月も仕事から離れており、状況が改善しなければカナダに戻ることを考えている。

「いきなり今後の見通しがきかなくなるというのは、非常に戸惑うし、気が重い」と、セイマーさんは言う。

国際通貨基金(IMF)によれば、中東諸国は今年、2008年の金融危機、そして原油価格が急落した2014─15年をしのぐ深刻な景気後退に見舞われようとしている。各国とも、新型コロナによる経済活動の停滞と記録的な原油安という二重苦を受けているからためだ。

ノムラ・アセットマネジメント・ミドルイーストのタレク・ファドララー氏は、「外国人労働者が減れば、ピザから別荘に至るまで、あらゆるものの需要が低下する」と話す。「怖いのは、それによって第2波の雇用減少を伴う連鎖的なデフレ効果が生じることだ」

ドバイのライドシェア大手カリームや、複数の航空会社がレイオフに踏み切った。

商業と観光の中心地であるドバイは今年、国際博覧会(ドバイ万博)による経済効果を期待していた。だが、万博は来年10月に延期された。

ロイターが閲覧した内部文書によると、ドバイ万博公社は179人の職員を解雇した。同公社はコメントを拒否している。

「外国人労働者は単なる歯車ではない。地域経済の存続に必要な各国の資本を回転させる上で欠かせない」と、米ワシントンにあるアラブ湾岸諸国研究所のロバート・モギルニッキ常任研究員は言う。

<経済改革にも悪影響>

外国人労働者が流出すれば各国政府の歳入が減少し、改革への取り組みが減速する可能性がある、とアナリストらは指摘する。

クウェート現地紙は、複数の国会議員が「国内労働者の賃金を引き下げることを民間企業に認める法案は何であれ阻止する」と警告したと報じた。

湾岸諸国が雇用を「内製化」する可能性は高い。オマーンは4月、国営企業に対し、外国人労働者を国内労働者に置き換えるよう命じた。だがアナリストらは、これによって経済成長を活性化させることはさらに難しくなるかもしれないと話す。

サウジアラビアが娯楽産業や宗教色を伴わない観光産業を構築しようと試みるなど、湾岸諸国におけるいくつかの経済多角化構想は、「国内に居住する外国人労働者や外国からの訪問客を軸とする経済活動に大きく依存している」と、アラブ湾岸諸国研究所のモギルニッキ氏は言う。

司会者のオケイリー氏は、国営SBCテレビの番組のなかで、外国人労働者を雇用し続けるサウジアラビア企業について「恥知らずで、国家への忠誠に無頓着だ」と批判した。

「危機が生じるたびにサウジ国民である労働者が犠牲になる状況を止めなければならない」と、オケイリー氏は語った。「よりスキルの高いサウジ国民の場所を奪っている外国人労働者を排除しよう」

(翻訳:エァクレーレン)

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