アングル:米国の政教分離、新たな争いの場となる公立学校
ロイター / 2024年8月13日 18時16分
これまで政教分離を定めるものと司法の場で解釈されていた憲法の「国教条項」に反する動きが、共和党知事の2つの州で生じている。写真は米首都ワシントンでのデモで、十字架を掲げる人。1月19日撮影(2024年 ロイター/Amanda Andrade-Rhoades)
Liya Cui Joseph Ax
[7日 ロイター] - 米国史の基本的な授業で必ず教えられる民主主義の根本原則がある。政府が国教を定める、あるいは特定の宗教を他よりも優遇することは憲法違反である、というものだ。
だが、これまで政教分離を定めるものと司法の場で解釈されていた憲法の「国教条項」に反する動きが、共和党知事の2つの州で生じている。ルイジアナ州では公立学校に旧約聖書の「十戒」の掲示を義務付け、オクラホマ州でも公立学校で聖書の授業を必須としている。
ルイジアナ州法に異議を唱える訴訟を支援している啓発団体「政教分離を支持する米国民連合」によれば、今年に入って、公立学校における宗教教育を推進する法案が29州で91本提出されている。同団体のレイチェル・レイザー最高責任者は、2023年には類似の法案を49本確認していると話している。
こうした動きの背景には、たとえば多様性やLGBTの権利を重視する「リベラルなカリキュラム」に対する保守派の反動がある。また、連邦最高裁判所による法解釈が保守的な方向性を強めており、過去の判例の見直しに前向きであることも追い風になっている。
「十戒」掲示の法律を違憲とする訴訟で被告の立場にあるルイジアナ州のリズ・マリル司法長官(共和党)は5日、学校における無秩序を良しとしない州議員らが、「秩序に関する対話の手がかりとして」聖書の教えに目を向けた、と話す。
マリル州司法長官は記者会見で、「モーゼの教えや『十戒』は、我が国の法制度に内在する根本的なメッセージだ」と語った。
ルイジアナ州のジェフ・ランドリー知事(共和党)は記者会見において、「信仰を持たない親はこの法律にどう対応すればいいのか」との質問に対して、「『十戒』を記した掲示物を見ないように自分の子どもに教えればいい」と答えた。
保守派は、こうした訴訟を機に、公立学校における宗教的表現に対する昔ながらの制限について連邦最高裁が再検討する機会が得られるのではないかと期待している。
「政教分離の歴史」という著書があるオレゴン州ウィラメット大学のスティーブン・グリーン教授(法学)は、「最近の連邦最高裁の動きにはその予兆が現れている」と語る。
ルイジアナ州は6月、連邦最高裁が1980年にケンタッキー州における類似の法律を違憲として以来、初めて学校での「十戒」掲示を義務付ける州となった。その1週間後、オクラホマ州のライアン・ウォルターズ教育長は、すべての公立学校に聖書教育の実施を指示した。
オクラホマ州の指針によれば、教師には聖書が配布され、西側社会と米国史における聖書の歴史的位置付け、文学的な意義、美術・音楽への影響を中心に教えることになる。州内の複数の校区では、こうした政策変更を盛り込んだカリキュラム変更を拒否している。
ウォルターズ州教育長にコメントを求めたが、回答は得られなかった。
ルイジアナ、オクラホマ両州の当局者は、宗教的な文献は米国政府の成立を理解するうえで重要であると述べている。こうした主張は、一部のキリスト教保守派による「米国はキリスト教国として誕生した」という説を反映するものだが、多くの歴史学者はこうした説は不正確であるとしている。
<議会におけるキリスト教勢力>
さまざまな州における立法への取り組みを手配しているのが、2020年に設立された全米キリスト教議員協会(NACL)だ。州議会での提案に向けて30種類以上の「モデル」法案を作成しており、「十戒」の掲示に関するものもあれば、学校に「我らは神を信じる(In God We Trust)」の表示を義務付けるものもある。
NACLの会員で、ルイジアナ州議会に「十戒」掲示法案を提出したドディ・ホートン州下院議員(共和党)にコメントを求めたが、回答は得られなかった。
次の主戦場は、やはり共和党が州知事ポストを握るテキサス州かもしれない。同州では昨年、国内で初めて、公立学校がカウンセラーとして牧師を雇用することを認める法律が成立した。その後似たような法案が10数州で上程されている。
テキサス州教育委員会はこの11月、聖書教育を含む新たな小学校向けカリキュラムの承認について決定を行う。またテキサス州議会の共和党議員は、学校での「十戒」掲示を義務付ける法案や、公費による学費補助を私立の宗教系学校の授業料支払いにも使えるようにする法案を再上程するものと見られる。
NACLの創設者で元アーカンソー州上院議員のジェイソン・ラパート氏は、7月の共和党全国大会で受けたインタビューの中で、米国の市民生活から宗教的価値観が消滅しつつあり、未来が脅かされていると語った。
「この国のユダヤ教的・キリスト教的な歴史と伝統が至るところで解体されている」とラパート氏は言う。
世論調査によれば、米国民の安定多数は自らをキリスト教徒だと考えているが、その数は数十年にわたって減少を続けている。
<保守化する連邦最高裁>
連邦最高裁は1962年に、公立学校において学校主催の祈祷を行うことは憲法の国教条項に違反していると判示した。だが現在の連邦最高裁は6対3で保守派優位であり、最近のいくつかの重要訴訟では宗教的権利の拡大解釈を示している。
連邦最高裁は2022年、ワシントン州の公立学校が、フットボールの試合後に選手とともに祈りを捧げる慣習をやめなかったコーチを停職処分としたことは、憲法に定める信教の自由を侵害していると判示した。最高裁はこの判決により、法律が国教条項に違反しているかどうかを判断する基準を示した1971年の判例を覆したことになる。
その数日前の人工妊娠中絶の権利を制限する判決に続いて、この判決は保守派のキリスト教徒を勇気づけた。
また連邦最高裁は、宗教系の学校や教会に対する公費支出の制約を緩め、家族経営企業が女性の避妊に関する従業員への保険適用義務を宗教的理由で回避することを認め、同性カップルの結婚式においてキリスト教徒のパン店やウェブデザイナーが業務を拒否することも支持した。
ラパート氏は、市民生活における宗教に関する連邦最高裁の見解の変化は「大きなチャンス」だとしている。
カリフォルニア州ペッパーダイン大学のマイケル・ヘルファンド教授(法学・宗教学)は、宗教と公立学校に関する最近の州法の合憲性が連邦最高裁において争われることになれば、学校による特定宗派の優遇や教師・生徒に対する宗教行事参加の強要についても判断を示さざるをえなくなると語る。
「州が教室に『十戒』を掲示したら、私は宗教的な強制を受けたと感じるだろうか」とヘルファンド教授は言う。「それについても裁判所がどちらかの立場を示すのではないか」
(翻訳:エァクレーレン)
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