焦点:ナスカのミイラが「宇宙人」に、止まらぬ古代遺跡の略奪
ロイター / 2024年4月13日 11時57分
メキシコ議会が昨年初めて開いた未確認飛行物体(UFO)に関する公聴会で、「宇宙人の遺体」とされるものが公開され、世界中の注目を集めた。写真は化石化した遺体。ペルーのイカにある大学で1月撮影(2024年 ロイター/Sebastian Castaneda)
Cassandra Garrison Marco Aquino
[ナスカ(ペルー) 6日 ロイター] - メキシコ議会が昨年初めて開いた未確認飛行物体(UFO)に関する公聴会で、「宇宙人の遺体」とされるものが公開され、世界中の注目を集めた。
この細長い頭部と両手に3本の指を持つ2つの小さな物体こそ、地球外生命体だとUFO研究家の地元ジャーナリストが主張したものの、結局科学者が宇宙人説を否定し、巨大な地上絵で知られる南米ペルーのナスカから持ち出された「ミイラ」だったことが分かった。
塩分を含む土壌のために人間や動物の遺体が良好な状態で長期間保存されてきたナスカは、古代文明の理解を深める上で重要な発見が何度もなされ、考古学者の興味を引き立てる。また地上絵によって、宇宙人の存在を信じる人にとっては大きな魅力を持つ。だが同時に、闇取引を通じて高額で売れるさまざまな古代の遺物を手に入れようとする多くの盗掘者も呼び寄せる形になっている。
ロイターが取材した盗掘犯の1人は、ナスカの洞窟に入って200を超える遺物を盗み出したと明かした上で、複数のミイラはペルーからフランス、スペイン、ロシアに密輸されていると付け加えた。
こうした犯人の証言や、メキシコにもミイラが運ばれていたという事実は、ペルー政府が古代遺跡から貴重な工芸品や遺物などが闇市場へと流出するのを食い止めるのを阻止できない状況にあることの表れだ、と専門家はみている。
ペンシルベニア州立大学のクリストファー・ヒーニー教授(中南米史)は「ペルーはこの(闇の)取引を制御しようと多大な努力を重ねてきた。しかし、このような物(メキシコでのミイラ)が国外に流出し得るのであれば、取り組みに成功しているという政府側の主張は再検証しなければならない」と指摘した。
ペルー文化省は密輸対策の効果についての質問には回答しなかったが、ロイターはリマの国際空港にある同省の密輸取り締まり部門への取材を許可され、4人の幹部職員と話をする機会を得ることができた。彼らが訴えたのは、より厳しい刑罰や人員の拡充、関係各機関の協調促進が取り締まりには不可欠という点だ。
文化省の文化遺産回復責任者エベリン・センチュリオン氏は、政府は警察や検察、外務省らと合同の対策チームを結成し、文化的な遺物の略奪に対する処罰を厳格化する作業を進めていると説明。一方で「略奪には歯止めがかかっていない」と認め、関係する地方政府や自治体との協力拡大も必要だと述べた。
<闇取引がオンラインへ移行>
専門家によると、ミイラなどを含めた考古学的な物品は、巧みに組織された犯罪グループが統制する闇市場で今も高い値段がつけられている。
国連教育科学文化機関(ユネスコ)や世界税関機構(WCO)の分析では、新型コロナウイルスの世界的流行以降は、文化品の闇取引が世界中で爆発的に増加した。それ以前、対面での取引に依存してきた古物商は生き残りのためオンライン販売に軸足を移行。闇市場では売り手がより匿名性が高いオンライン取引を悪用したり、暗号化された特別なツールを駆使したりしているからだ。
買い手側も、闇売買の市場に特別に招待されるのを待つのではなく、オンラインで積極的に違法な物品を入手しようとしているという。
さらに遺跡の盗掘を狙う面々は、標的の選定や侵入しやすさなどについてオンライン上で情報交換するようになった。
ユネスコ・ペルーの文化セクターコーディネーターを最近まで務めていたエンリケ・ロペス・ウルタド氏は「ソーシャルネットワークが違法な古物や古美術品の場所になってきている」と述べた。
あるWCOの高官は、オンライン上での販売量の多さと、感染症対策としての安全規定を求められることで、税関当局にとって荷物検査と違法品の取り締まりを行うことが難しくなっていると説明した。
特に孤立した地域にある遺跡では、人手不足によって警戒が手薄になり、略奪されるリスクが高まっている面もある。
ペルーでも首都リマからナスカにつながる道路沿いには観光目的の派手な看板が並ぶが、現地には文化的地域であることを示す政府の表示が幾つか存在するほか、警備されている様子はほとんど見受けられなかった。
<取り戻すのは困難>
近年では先進国でも古代品の展示に対する考え方が変化し、複数の有名な美術館が発掘された国にミイラなどを送り返す動きが出始めた。
ただ、米国や欧州では遺物や古美術品の民間コレクターの収集熱は依然として高い。先のWCO高官によると、過去10年で骨格や頭骨などを買い求めるためのソーシャルメディア市場の人気はうなぎ上りだという。
こうした中で、5カ国と国境を接し、27カ所もの国境検問所を設けているペルーから略奪品の国外流出を阻止するのは一筋縄ではいかない。
そしてイグナシオ・イグエラス外務担当副大臣はロイターに、いったんペルーから流出した盗難文化品について所有の正当性を主張するのも難しいと述べた。
文化省のセンチュリオン氏も、密輸された遺物を取り戻すためには幅広い外交努力とともに、出自と文化的な重要性を証明する文書を作成しなければならないと解説する。
同省は、2体のミイラがどのようにメキシコへ持ち込まれたかについても調査を進めているところだ。
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