アングル:険しさ増す中東和平、歴史的なオスロ合意から30年
ロイター / 2023年9月14日 14時36分
写真は1993年9月13日、米ホワイトハウスでオスロ合意に調印し、当時のクリントン米大統領(写真中央)が見守る前で握手するPLOのアラファト議長(右)とイスラエルのラビン首相(2023年 ロイター/Gary Hershorn)
James Mackenzie
[エルサレム 13日 ロイター] - イスラエルとパレスチナの和平を目指した1993年のオスロ合意は、13日に調印から30年を迎えた。イスラエルが占領するパレスチナ自治区ヨルダン川西岸一帯にはコンクリート製の検問所や分離壁、兵士らが点在し、合意では和平を実現できなかった事実を改めて認識させられる。
オスロ合意は、信頼を築き、恒久的な和平合意に向けた余地を生み出すための一時的な措置と位置付けられていた。しかし、その後手直しのないまま、長期にわたり終わりの見えない紛争を単に管理するだけの仕組みに成り果てている。
西岸地区は混乱し、イスラエルでは民族主義的な政権がパレスチナ国家樹立の見通しを否定、自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスはガザ以外でも実力行使に出ており、和平の見通しはかつてないほど遠のいているように見える。
パレスチナ自治政府を率いるアッバス議長(87)が死去すれば政治的な空白が生じ、危機が深刻化しかねない。
市民活動家で1990年代の和平プロセスの際にパレスチナ代表団の報道官を務めたハナン・アシュラウィ氏は、「パレスチナとイスラエルの両方、そしておそらくこの地域全体が、ひとつの時代の終わりを迎えている。相互承認、2つの国家、協議による決着、平和的な解決などについて協議してきた時代がパレスチナにおいて幕を閉じようとしている」と話す。
パレスチナとイスラエルのどちらにも、独立国家の併存という解決策に現実的な見通しがあるとは考える者はほとんどいない。アシュラウィ氏は、こうした考えは今や「都合のいい作り話」に過ぎないと切って捨てた。
1993年9月のオスロ合意調印以降、イスラエル軍が西岸を占領し、分離壁が設置された。そのためイスラエルとパレスチナの若者は互いのことをほとんど知らずに育っている。
南部の都市ヘブロンに住む活動家、モハナド・カフェシャ氏はオスロ合意の年に生まれた。「幼少時から家の周りに検問所があり、友達の家へ行くには検問所を通らなければならなかった」という。
国連の統計によると、現在ヨルダン川西岸地区と東エルサレムには約70万人のユダヤ人入植者が住み、入植地の建設が急速に進んでいる。パレスチナ人の推計居住者数は西岸が320万人、ガザが220万人。
西岸とイスラエルでは過去1年半にパレスチナ人による攻撃で民間人や兵士を含めイスラエル人数十人が殺害され、ユダヤ人入植者がパレスチナの町や村を襲撃した。イスラエル軍・治安部隊との毎日のような衝突で死亡したパレスチナ側の戦闘員や民間人も多数に上る。
またジェニンやナブルスなどの町では旧世代のパレスチナ人指導者たちとはほとんどつながりのない、新しい武装集団が出現している。
国連のトーア・ウェンズランド特別調整官は今週の会合で、「30年近くこの地域に関わっているが、情勢はこれまででもっともひどい」と述べた。
2007年にハマスが分裂し、ガザの支配権を失ったパレスチナ自治政府は、イスラエルから見れば、なお総じて好ましいパートナーと言える。ただ、外国からの資金に依存し、選挙を行う権限がなく国民からの支持も低いため、パレスチナを代表する組織としての役割と、イスラエルとの窓口としての役割の間でどっちつかずの存在になっている。
<共存への険しい道>
オスロ合意調印の際には、当時のクリントン米大統領が見守る前でパレスチナ解放機構(PLO)のアラファト議長とイスラエルのラビン首相が歴史的な握手を交わし、一時的に楽観論が台頭した。しかし、ラビン氏は1995年にイスラエルの右翼に暗殺され、アラファト氏は2004年に死去した。
元法務大臣でイスラエルの交渉担当だったヨッシ・ベイリン氏によれば、和平が失敗したのは歴代のイスラエル政権が本来は一時的休戦だった枠組みを恒久化しようと望んだからだ。さらに、今のネタニヤフ政権は司法制度改革を巡って社会の分断化を引き起こしたため、イスラエル国内が一致して和平に取り組む展望は見えない。
ベイリン氏は「イスラエルの現政権は恒久的な合意を目指す意思を全く示していない。だから恒久的な合意について語るには政権交代に触れざるを得ない」と説明する。
イスラエル政府高官は、アッバス氏が死去すれば、ハマスが西岸に進出してますます活動を活発化させるか、あるいは指導者争いで無政府状態になるのではないかと懸念している。
一方、イスラエル政府筋から西岸の完全併合が公然と語れることもあるが、そのような動きは現実的には難しい。完全併合なら、パレスチナ人にもイスラエル国民としてユダヤ人と同じ待遇を与えてユダヤ人国家から別の国に衣替えするか、民主主義と相いれないようなパレスチナ人への差別待遇を行うかどちらかを選ばなければならないからだ。
既にパレスチナ人や多くの国際人権団体は、イスラエルが西岸で人種隔離を行っていると非難している。
リベラル系シンクタンク、イスラエル・デモクラティック・アライアンスのローテム・オレグ氏(29)は、共存の重要性を強調。「同じ土地に留まり続け、互いに殺し合うことなく、ユダヤ人の民主国家を維持するための手立てを見出す必要がある」と訴えた。
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