アングル:難民に迫る英国の冬、ホームレス危機が深刻化
ロイター / 2023年11月14日 18時44分
Lin Taylor
[ロンドン 8日 トムソン・ロイター財団] - ミシャールさんは2021年に英国に到着し、8月に難民認定を受けた。クウェート出身だが国籍を持たないミシャールさんにとって、法的な地位を認められたのは、それが人生で初めてだった。
ミシャールさんは、公式統計ではクウェートに約8万5000人いるとされるベドウィン族の出身だ。ようやくのことで、「人として生きる」ことができると感じ、将来の計画を考えられるようになったという。
トムソン・ロイター財団の取材に応じたミシャールさんは、「だが、その幸せは長くは続かなかった」と語る。プライバシーを守るため、フルネームと居住地は明かさなかった。
認定の1カ月後、ミシャールさんは政府運営の難民収容施設から7日以内に立ち去るよう退去通知を受け取った。だがその時はまだ、就労や銀行口座の開設、賃貸住宅の利用に必要な在留カードの交付を待っている段階だった。
ミシャールさんは通訳を介してアラビア語で、「(難民)収容施設から追い出されたら、在留カードがなければホテルにもどこにも入れない。働くこともできない」と語った。
「手錠をはめられたような感じで、何もできない」とミシャールさん。その後、支援者の助けを借りて、カードが交付されるまで滞在できる宿泊所を見つけた。
ミシャールさんのような事例は増えつつある。慈善団体によれば、8月に英内務省が、いわゆる「移行期間」、つまり難民認定から難民が生活拠点を見つけるまでの期間を決定する方法を変更したことが原因になっているという。
慈善団体によると、現在、28日間の移行期間は、在留カードを受け取ってからではなく、難民認定通知を受け取った時点から起算されるようになっているという。一部はミシャールさんのように、わずか1週間の猶予で難民収容施設からの退去を求められるケースもある。
内務省にコメントを要請したが、回答は得られなかった。
英国赤十字社では、政府が溜まっている亡命申請の処理を進める一方で、ただちに難民支援の措置をとらなければ、今年末までに最大5万3000人の難民がホームレスになる可能性があると話している。亡命申請の未処理分は昨年44%増加し、6月には17万5000件を超えた。
最前線の支援スタッフがこのところ難民に提供しているのは、就業や住居に関するアドバイスではなく、寝袋や防寒具だ。
「難民認定を受けても、それが大きな安心感や喜び、祝福の瞬間にはつながらず、むしろパニックに陥ってしまう。とにかく、立ち退きのための猶予が十分に与えられていない」と語るのは、英国赤十字社で難民支援部門を率いるエリー・シェパード氏。
シェパード氏はオンラインでのインタビューで、「難民たちは本来、新たな生活の一歩を踏み出し、英国社会に溶け込んでいくべきだ。でも私たちが彼らに伝えないといけないのは、『ホームレスになる覚悟をしておきなさい』というのが現状だ」と語った。
<「最悪の事態」>
ブレイバーマン英内相は4日、ホームレスの人々によるテントの使用を制限する法案を提出すると発言して、大きな批判を浴びた。同内相は、ホームレスの多くはテント暮らしを「ライフスタイルの選択肢」と考えている外国人だと述べた。
ブレイバーマン内相は、移民問題に対する英国のアプローチを全面的に見直すことを求めている。来年に想定される総選挙では移民問題が主要な争点になる可能性が高い。
リシ・スナク首相は、「ボートの阻止」、つまり英仏海峡経由での移民の到着を防ぐことを優先課題としているが、亡命希望者のルワンダ移送といったスナク政権の政策は、司法の場での異議申し立てにより阻まれている。
英国での亡命申請者は、本当に難民であると政府が認証するまで就労が許可されず、それまでの間は、政府が無料の住居を提供し、1人あたり週約47ポンド(約8700円)の手当が支給される。
ひとたび難民認定を受ければ、社会福祉制度の利用と就労の権利に向けての一歩前進となる。だが、言葉の壁もあり、文書作成に苦労する例もあるため、28日間という移行期間の短さはただでさえ問題になっている。
政治家や慈善団体は移行期間を56日に延長するよう以前から求めてきた。また、支援関係者らは、一部の事例で見られるように、難民収容施設からわずか7日で難民が退去できると考えるのは不可能だと指摘している。
英国赤十字社が退去通知の問題を察知したのは、他の多くの慈善団体と同様に8月だったという。それ以来、極貧状態にある難民が140%増加しているのを確認したと同社は話している。
「申請の処理ペース、退去通知、十分な準備を整える時間の不足という要素が揃っている」とシェパード氏は言う。「これは最悪の状況だ」
人身売買問題に取り組む慈善団体は、「現代の奴隷」状態から生還して亡命申請を行っている人々も厳しい状況に置かれていると話している。
「現代の奴隷」を支援する慈善団体「コーズウェイ」でシニアサービスマネジャーを務めるルース・オレンジ氏は、難民として法的な地位を認定された人身売買被害者が7日間の猶予で退去通知を受け取り、近所の公園での生活を余儀なくされた例を紹介する。
「かつて人身売買の犠牲になった人々だから、同じ被害に遭うリスクがある。つまり、それほど弱い立場だということだ」
<「寒空の下へ」>
公式統計によれば、2022-23年にはイングランドとウェールズでホームレス人口が約30万人に達した。地方自治体は、とにかく住宅が足りていないと指摘する。
地方自治体連合のショーン・デイビス代表によれば、地方議会は政府による定住計画の実現に向けて取り組んでいるが、その負担は大きくなっているという。
デイビス代表はメールで、「難民、亡命をめぐる制度全体で危機が続いている」とコメントした。
難民評議会は、行政におけるミスが問題を悪化させていると指摘する。「生体認証付在留許可証」(BRP)と呼ばれる在留カードが誤った住所や、難民がすでに退去した難民収容所に送付されるといった例が報告されている。
英国赤十字社でケースワーカーとして働くエリック・シュミット氏は、不正確な氏名や詳細が記載されたBRPが発行される例は珍しくなく、再発行には数週間かかると語る。レスターを拠点とするシュミット氏は、支援の要請が殺到して困惑していると話す。
「私たちはホームレス支援の専門家でもないし、シェルターでもない。この仕事をやっていて一番辛いのは、寒空の下に出ていくよう誰かに告げざるをえないときだ」
(翻訳:エァクレーレン)
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