アングル:バイデン氏公約実現に立ちはだかる「マコネル氏の壁」
ロイター / 2020年12月15日 12時10分
12月9日、バイデン次期米大統領は、新型コロナウイルスで打撃を受けた経済を再生し、老朽化した国内インフラ修復を図り、数百万の失業者を仕事に戻すと約束している。写真はマコネル上院院内総務。米議会で1日代表撮影(2020年 ロイター)
[ワシントン 9日 ロイター] - バイデン次期米大統領は、新型コロナウイルスで打撃を受けた経済を再生し、老朽化した国内インフラ修復を図り、数百万の失業者を仕事に戻すと約束している。しかし来年1月に予定されるジョージア州の上院選決選投票で民主党が勝利しない限りは、これらの政策実現に向けて1人の人物が立ちはだかることになる。それはもちろん、上院のマコネル共和党院内総務(78、ケンタッキー州選出)だ。
共和党が上院で多数派を維持すれば、2015年以降ずっとそうだったように、上院でどの法案を審議するかはマコネル氏の胸先三寸で決まる。民主党中道派系コンサルティング会社サードウエーの共同創設者マット・ベネット氏は「われわれには『マコネル氏が何を望んでいるか』は分かりようがない」と語った上で、もしマコネル氏がバイデン氏の政策運営を妨害したいだけであれば、米国にとって厄介な4年間がやってくるとの見方を示した。
バイデン氏が選挙中に強調してきた、環境にやさしいインフラへの公共投資を通じた雇用創出といった「大きな政府」案件に対して、マコネル氏はずっとノーを突きつけている。多数派の院内総務であれば、そうした計画に予算を拠出するために必要な法案を採決に持ち込むことさえ阻止できる。またジョージア州の2議席を民主党が確保した場合でも、共和党の支持が成立に不可欠な法案で、マコネル氏は共和党を結束させてつぶす力が引き続きある。
バイデン氏もマコネル氏が「障害」となった場合の影響力の大きさを意識しているからこそ今月2日、米紙ニューヨーク・タイムズの論説委員に対して、次期政権がどれだけ公約を達成できるかは主としてマコネル氏と議会共和党の行動次第になると認めた。共和党とのパイプ役になると期待してバイデン氏が大統領上級顧問に起用すると発表したのは、セドリック・リッチモンド下院議員だ。
マコネル氏は9日、議会は引き続き新型コロナの追加経済対策合意を目指していると強調したものの、一部民主党議員はマコネル氏が合意の大きな妨げだと話す。
同氏が米経済に行使している影響力は憂うべきものだとの声も聞かれる。フランスの著名経済学者トマ・ピケティ氏はロイター宛て電子メールで「マコネル氏の甚大な力は米国の政治機構がいかに機能不全に陥っているかを物語る。実質的に少数派の方が多数派よりも権力がある」と指摘した。
さらにピケティ氏は「欧州連合(EU)の機構もある面でこれと同じ理由から機能しなくなっている。つまりルクセンブルクであれ、ハンガリーであれ人口が少ない国に多大な拒否権が付与されているのだ」とも指摘した。
<協力期待できるか>
バージニア大学政治センターのラリー・サバト教授は「問題はマコネル氏が、バイデン氏の提案において何が自分の利益になると考えているのかだ」と分析する。
サバト氏の見立てでは、マコネル氏はもう1回は経済対策を打ち出すことには賛成しそうだ。「彼はあと1回は法案を通過させようと思っている。そうすれば彼はこれを振りかざし続け、自分は譲歩をしたと言うことができる」という。
ただマコネル氏がもっとそれ以上に、バイデン氏が掲げる他の政策を支持する公算は乏しい。サバト氏は「常に内容の骨抜きを目指し、廃案にできる場合はそうする。これを彼は過去に何度も行動で証明してきた」と話した。2016年の前回大統領選前には、当時のオバマ大統領が指名した最高裁判事の承認手続き入りを阻止している。
一方で時限的な税制優遇措置の恒久化、ないしは農村地域のインフラ改善など共和党が優先課題としている分野では、多少の交渉余地があるかもしれないと専門家はみる。
サードウエーのベネット氏は、共和党の抵抗が激しい場合、バイデン氏は大統領令を多用せざるを得なくなり、そうするとトランプ氏が任命した「敵対的な判事グループ」にも大統領令の正当性を訴えていかなければならなくなると懸念する。
マコネル氏の広報担当者は、バイデン次期政権とどう協力していくかとの質問に回答しなかった。マコネル氏はこれまで、11月に自身が民主党の対立候補に勝利した選挙戦の討論会の場などを含めて、バイデン氏の政策に関する直接的な言及はほとんど見当たらない。
上院では、新型コロナ関連緊急支出など予算調整ルール適用外の主要法案は、60人の賛成があれば採決に持ち込めるので、バイデン次期政権が10人もしくはそれ以上の共和党議員の支持を獲得すれば、マコネル氏もそうした意向を無視して自由には振る舞えない。
かつてマコネル氏の経済政策顧問で、現在は政治リスク分析会社ユーラシア・グループのマネジングディレクターを務めるジョン・リーバー氏は「共和党議員の間に何か行動すべきだとの雰囲気があるとマコネル氏が認識する法案なら、同氏はバイデン氏と協力する展開が全面的に見込まれる。そうした空気がなければ、彼に無理やり合意を実現させることはできない。共和党2人と民主党48人が支持する法案を通過させようとはしないだろう」と述べた。
<見えない交渉手段>
バイデン氏とマコネル氏は、24年間にわたって同じ上院議員として働いてきただけでなく、共和・民主両党の財政運営や政府機関閉鎖を巡るこれまでの政治対立で、直接折衝してきた仲だ。2012年の「財政の崖」に際しては、所得税の最高税率引き上げと大規模な歳出削減の撤回を盛り込んだ合意を共同してまとめ上げた。
マコネル氏は16年に出した自叙伝「長いゲーム、ある回想録」で、バイデン氏を「好ましく思った」人物で「協力が可能だった」と描写している。もっともマコネル氏はまだ正式にバイデン氏を次期大統領と認めておらず、祝意も表していない。大半の共和党議員もマコネル氏の姿勢に従っている。
バイデン氏が副大統領時代のように、マコネル氏やほかの共和党指導部との直接対話を再開するのかどうかも分からない。
次期副大統領のカマラ・ハリス氏と言えば、上院議員としてはマコネル氏としばしば政治的に真っ向から対決する姿勢を示してきた。例えば昨年12月には、トランプ氏の弾劾裁判に証人を呼ぶことをマコネル氏が阻止しており、職務を忠実に遂行していないと批判。「マコネル氏は上院による裁判ではなく、真相の隠蔽を望んでいる」とこき下ろした。
では次期財務長官に指名されたイエレン前連邦準備理事会(FRB)議長はどうか。バイデン氏が雇用拡大の手段として打ち出した、多様性の促進や子育て・教育などへの支出増といった幾つかの左派的政策に関して、イエレン氏は経済的な理論武装という面で重要な役割を果たしそうだが、マコネル氏より優位に立てるとは誰も予想していない。
イエレン氏はFRB議長として議会と直接交渉をした経験は乏しく、マコネル氏は13年にイエレン氏の議長指名に反対した。強いドルを支援する姿勢が不十分との理由からだった。
ブッシュ政権時代に財務省とホワイトハウスの報道官だったトニー・フラット氏は「イエレン氏が天性のロビイストだとは思えない」と肩をすくめた。
(David Lawder記者、Heather Timmons記者)
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