焦点:強弱入り交じる、コロナ禍の米経済 FRBはどう対応
ロイター / 2020年12月16日 7時7分
12月14日、米国でパンデミックの影響を乗り切るための手当てが、数週間以内に打ち切られる。だが、9月時点で家計部門の現金保有は過去最多だったことが判明。FRBは12月15-16日のFOMCで、最新の見通しをどう説明するのか。写真はFRBのパウエル議長、1日にワシントンで代表撮影(2020年 ロイター/Susan Walsh)
[ワシントン 14日 ロイター] - 米国で失業者が新型コロナウイルスのパンデミックを乗り切る力の1つになってきたのが失業保険給付金だった。だが、今後およそ2週間で、少なくとも900万人に対する支給が打ち切られる恐れがある。1100万世帯、総額700億ドル(約7兆2800億円)に上るとみられる「家賃滞納」の強制退去猶予期間も間もなく終了する。
これは経済の大きな傷口のように見える。だが今年9月時点では米国の家計部門は過去最多の現金を手元に蓄えた状態だったことが明らかになっている。中小企業の破綻も減少した。社債投資家は市場に深刻なストレスなどほとんど見当たらないと話す。新型コロナウイルスワクチンが経済を上向かせるだろうとの期待も出てきている。
米連邦準備理事会(FRB)は今週15-16日に開く連邦公開市場委員会(FOMC)で、この矛盾するストーリーをうまくつなぎ合わせ、米経済が二番底に陥るのか、ワクチンの後押しを得て拡大に向かう寸前の状態なのか、最新の見通しをきっちり説明するよう迫られている。
実際、失業率は低下が加速し、9月までの経済成長率はFRBの想定を上回っていた。一方で雇用の伸びは最近になって鈍化。新型コロナ感染者が急増しているため、企業の休業や破綻が増えるのではないかとの懸念も生じつつある。
ムーディーズ・アナリティクスのチーフエコノミスト、マーク・ザンディ氏は、未払い家賃を猶予する政策措置が近く失効するのを控え、各地域の保安官の机には既に住居退去を執行する通告状が積み重なっていると指摘。政府の追加支援がなければ、19世紀の英小説家ディケンズが描いたロンドンの貧民の暮らしのような悲惨な事態が起きかねないと警告する。
ザンディ氏は「新型コロナ感染者が増え続けている厳しい冬に、多くの人が家を追い出されるのは忍びがたい」と述べ、そうしたリスクがあるために、ワクチンが登場したと伝えられているにもかかわらず、経済は反発に向かうというよりも停滞を続けたままになっているとの見方を示した。
<FRBのメッセージ>
まさに経済対策を打ち出す環境は整っているように思われるが、議会の追加対策を巡る動きは引き続き行き詰まっている。市場関係者の大半は、FRBも15-16日のFOMCでは、さまざまなメッセージは発しても、ほとんど行動はしないと予想する。最近のロイター調査で、今回の追加緩和を予想したエコノミストは43人のうち2割程度だった。
FRBは今回、債券買い入れ拡大ないし購入債券の構成変更をする場合の条件や、現在毎月1200億ドル規模としている買い入れを最終的に減額する際のフォワードガイダンスを示す見通しだ。
それでも市場で、買い入れが今、拡大されるとの声は乏しい。
金利水準は既にゼロ付近にあり、金融環境に影響を生じさせる主な政策手段となっているのは債券買い入れだ。家計が住宅や大型耐久財を購入する際の基準となる利回りに対して、特に影響を及ぼすようになっている。この利回りも非常に下がってしまった以上、これが再び上昇していき景気の足を引っ張る兆しが出てこない限り、FRBは買い入れを強化しそうにないとみられている。
キャピタル・エコノミクスのシニア米国エコノミスト、アンドリュー・ハンター氏は直近の経済データが「相当に」底堅く推移している点を挙げ、目先、FRBがそうした追加の政策変更をする意欲は薄いようだと述べた。
「全ての関心は米経済の短期的な下振れリスクに集まっているが、一方でFRB当局者が最近のワクチンに関するニュースに安心しているのも明らかだ」という。
<認知的不協和>
とはいえ11月の米雇用の増加幅は予想の半分程度にとどまり、失業保険申請が再び増加していることで、労働市場の痛手が続いているのが分かる。現在でもまだ、パンデミックで今年序盤に失われた雇用の半分前後しか取り戻せていない。
FRBの姿勢は、新型コロナ感染者急増を受けて最近に追加緩和を発表した欧州中央銀行(ECB)とある意味で対照的でもある。現に、ムニューシン財務長官はFRBに対し、幾つかのコロナ対応融資プログラムを年内で打ち切るよう指示した。FRBの意思ではないが、FRBは従うことになる。
この点をとらまえて、FRBが当面の景気リスクを抑え、物価押し上げの約束をより強化するために動く理由があると主張する向きもいる。
コロンビア・スレッドニードルのアナリスト、エド・アルフセイニ氏は、FRBが8月に物価を上向かせることを目指す新たな政策の枠組みを発表した以上、その考えを投資家に信じてほしいなら、債券買い入れ拡大など具体的な措置を実行するべきだと提言する。
同氏は「財政は出動せず、労働市場はなお良好な環境ではない。物価情勢は本当に振るわない。だから理論上、行動を起こす妥当性が非常に大きい。待つことによって、物価の思わしくない状態が定着し、押し上げるのにもっと苦労するリスクがある」と説明した。
ただFRBの政策担当者の多くは、当面は現状の規模で債券買い入れを継続すれば十分だとの見解を披露している。その一因は、経済データが相反する内容になっていることにある。人々が路頭に迷う事態が待ち構えているのか、それともワクチンが普及するにつれて近所のバーに繰り出し、中止していた旅行を再び予約するのかはまだ判然としない。
アルフセイニ氏は語る。「毎日、認知的不協和(考えや行動の矛盾による不快感)を味わっているようなものだ。所得を失っている人々のデータがある。これはひどい話だ。一方で、延滞率や家計の支出パターン、貯蓄のデータもあって、ここからは景気後退は見えてこない」。
同氏は、こうした状況がいつマクロ的な問題として現れるかは来年にならないと分からないとした上で、政策的な追加支援のタイミングと、ワクチン接種開始を背景にした労働市場回復のタイミングのどちらが早いか、見ものだとも語った。
(Howard Schneider記者)
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