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アングル:パリ五輪でAIによる監視実験へ、顔認証に懸念も

ロイター / 2024年6月16日 7時58分

 6月12日、フランスは、パリ五輪に訪れる何千人もの選手、コーチ、観客について人工知能(AI)を使ったスキャンを行う計画を進めており、人権活動団体はAIによる監視が忍び寄っていると警鐘を鳴らしている。写真は3月、パリに設置された監視カメラ(2024年 ロイター/Abdul Saboor)

Adam Smith

[ロンドン 12日 トムソン・ロイター財団] - フランスは、パリ五輪に訪れる何千人もの選手、コーチ、観客について人工知能(AI)を使ったスキャンを行う計画を進めており、人権活動団体はAIによる監視が忍び寄っていると警鐘を鳴らしている。

フランス当局はここ数カ月、駅やコンサート、サッカーの試合でAIによる監視システムを試験運用してきた。

7月下旬の五輪開幕時には、これらのシステムが群衆をスキャンし、放置された荷物をチェックしたり、武器を検知したりする予定だ。

フランス政府関係者によると、開幕から来年3月31日まで、警察のほか、消防、レスキューサービス、一部の交通警備隊がシステムを使う予定となっている。

人権活動家は、AIによる監視が「ニューノーマル」になることを懸念している。

アムネスティ・インターナショナル・フランスの幹部、カティア・ルー氏はトムソン・ロイター財団に「五輪は、治安問題を装ってこの種の監視を試す絶好の機会だ。顔認証など、さらに侵害的なシステムに道を開く」と語った。

<駅とテイラー・スイフト>

フランス政府はこの取り組みにビデティクス、オランジュ・ビジネス、チャップスビジョン、ウィンティクスの4社を参加させている。

これら企業のセキュリティープラットフォームは、8つの重要な指標を測定する。流れに逆らう人の動き、禁止区域にいる人、群衆の動き、放置された荷物、武器の存在または使用、過密状態、地面に倒れた人体、そして火災だ。

人気音楽グループのデペッシュ・モードやブラック・アイド・ピーズのコンサート、そしてサッカーチームのパリ・サンジェルマンとオリンピック・リヨンの試合で、こうしたソフトウエアが試験運用された。

また人気歌手テイラー・スウィフトさんのコンサートに向かうため地下鉄駅を通過する群衆や、カンヌ国際映画祭を訪れた4万人の観客も試験の対象となった。

2020年の報告書によれば、フランス全土には約9万台の監視カメラがあり、警察と国家憲兵隊によって監視されている。

デジタル権利団体アクセスナウのシニア・ポリシー・アナリスト、ダニエル・ロイファー氏は、個人の身元特定とは無関係に見えるこうしたシステムも、「ソフトウエアのアップデートひとつで最も侵害的な部類の大衆監視が行えるようになる」点が心配だと話す。

同氏は「一般市民は、システムがどんな種類のものを監視しているのか、どのようなアップデートが行われているのか等々について、ほとんど監視することができないだろう。当然、萎縮させられてしまう」と警戒感を示した。

<五輪がAIの遊び場に>

フランスの議員らは、AIによる顔認証を禁じることで批判を和らげようとしており、顔認証は超えてはならないレッドラインだと強調している。

ウィンティクスの共同設立者であるマティア・ウィエ氏は、試験運用は法律で定められた8つの使用例に「厳密に限定」されており、例えば群衆の動き検出のような機能を、歩き方の癖から人物を特定する歩行検知などに使うことはできないと説明した。設計上、ウィンティクスの機能を顔認証に使用することはエンドユーザーにとっても高度なエンジニアにとっても「絶対に不可能」だという。

専門家は、政府が試験運用の成否を測定する方法や、技術の具体的な機能の仕組みが公開されていないことに懸念を抱いている。

アクセスナウのロイファー氏は「こうした監視技術は、特に法の執行や治安といった文脈で使用された場合、多大な害をもたらす可能性を秘めているため、最大限の説明責任を果たす必要がある」と語った。

人権活動家らは、法律の例外規定により、国家安全保障や移民など特定の目的については当局による顔認証が認められ得ると指摘している。アムネスティのルー氏は「これは実際には(顔認証使用の)許可だ。当局が、これとこれとこの状況を除いて顔認証技術を禁止している、と言っているため、人々は問題はないという印象を抱いているが、そうした状況こそ最も問題をはらんでいる」と話した。

一方、フランスの政治家は、AIによる監視能力がまだ約束された水準に達していないとしている。アニエス・キャナイエ上院議員は「AIによるビデオ監視は、五輪開催時には最適な状態になっていないだろう。しかし五輪はそれを実験する絶好の遊び場になる」と述べた。

フランス政府の法律委員会は、AIを活用した将来の監視についての提案で、あらゆる季節や小規模なイベントでも設備の試験運用ができるよう、撮影した画像の保存期間を延長することなどを提言している。

アムネスティのルー氏は「だからこそ、たとえ五輪期間中に利用されないとしても、今すぐ顔認証に関する運動を行い、意識を高めることにした。使用されるまで待っていたら手遅れになる」と語った。

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