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アングル:ネット接続が「命綱」のガザ、インフラ修理で犠牲になる技術者も

ロイター / 2024年8月15日 17時53分

戦火に翻弄(ほんろう)されるパレスチナ自治区ガザでまたしても住む家を追われることになったハリル・サリムさん。何とか家族の安全を守ろうと必死だが、避難先はかえって危険なのではないか、どうやって確かめればいいのか。写真は2023年10月、ガザ地区南部ハンユニスで携帯端末を充電する人たち(2024年 ロイター/Mohammed Salem)

Nazih Osseiran Adam Smith

[ベイルート 9日 トムソン・ロイター財団] - 戦火に翻弄(ほんろう)されるパレスチナ自治区ガザでまたしても住む家を追われることになったハリル・サリムさん。何とか家族の安全を守ろうと必死だが、避難先はかえって危険なのではないか、どうやって確かめればいいのか。

必要なのは最新の情報だ。インターネットに接続し、イスラエル軍の公式ソーシャルメディアアカウントや、その他ネット上の情報源をチェックする。

「インターネット経由で指示を受けることになる。紛争の状況を把握することは判断できない。だから、ニュースや(SNS上の公式)チャンネルを追いかけ、フェイスブックで皆が何と書いているか確かめている」とサリムさん。

だが、電波が届かず接続できなければ五里霧中に陥り、安全なルートを探る確かな手段は完全に失われる。

「(イスラエル軍が)フェイスブックで避難に関する指示を出しているのに、こちらはインターネットに接続さえできないなんて残念すぎる。やるべきこと、やってはいけないことについての指示を見つけるのは非常に難しい。2日、あるいは1週間もネットに接続できないこともある」

がれきが広がるガザでは、ネットに接続するだけでも困難で危険が伴う。だがテクノロジーに関する権利擁護活動家やパレスチナの技術者らは、ガザ地区が完全にネットから遮断されないよう、多くの住民にとっての貴重なデジタル・ライフラインを守っている。

ネット接続を維持するためには、生死に関わる代償とリスクが伴う。利用者は電波をキャッチするために必死に高い場所によじ登り、エンジニアは損傷を負ったケーブルや通信タワーを修理するために危険地帯へと踏み込んでいく。

5月には、顧客向けにネット接続を提供していたガザ市内の店舗の周辺に人々が集まっていたところをイスラエル軍が攻撃し、医療関係者によれば、少なくとも3人が死亡、20人以上が負傷した。

サリムさんには、人々がその店に向かった気持ちが痛いほど分かる。

IT技術者で薬剤師の資格も持つサリムさんは、「インターネットが命だ。それがなければ生きていても意味がない。監獄と同じだ」と語る。サリムさんは家族とともに国境沿いの街ラファを逃れ、現在はハンユニスの西端に位置するアルマワシ地区で暮らしており、電話でトムソン・ロイター財団の取材に応じた。

<接続手段を贈る支援団体>

イスラエルは、イスラム組織ハマスの戦闘員による昨年10月7日のイスラエル南部襲撃を受けてガザ攻撃を開始した。イスラエル側の集計では、この襲撃で1200人が殺害され、253人が人質になったとされる。

イスラエルは報復として、ハマス殲滅(せんめつ)を宣言して地中海に面するガザ地区を攻撃した。ガザ保健当局によれば、それ以来イスラエル側の攻撃により4万人近くが死亡、さらに数千の遺体ががれきの下に埋もれていると懸念されている。

数カ月に及ぶ容赦ない空爆と地上戦によりガザの経済とインフラは壊滅的な打撃を受けている。住宅、道路、学校、病院は灰じんに帰し、通信・テクノロジー関係で必須となるインフラの約70%は損傷または破壊された。

外部のテクノロジー起業家たちは、エレクトロニックSIM(eSIM)を駆使して、ぼろぼろになったガザのデジタル・ライフラインの補強を支援している。

eSIMを利用すれば、利用者はSIMカードの現物を持っていなくても、モバイルネットワークの携帯データプランをアクティベートすることが可能だ。QRコードを読み取ってアクティベーションを行うことで、国外のネットワークのローミングモードでネットに接続できる。

例えばボランティア団体「ガザ・オンライン」は家族同士の連絡用に無料のeSIMを提供している。同団体は、eSIMのアクティベーションコードの現物寄付を募り、メッセージングアプリ「ワッツアップ」経由でガザの家族に提供している。

サリムさんは戦闘開始初期、イスラエルが昨年10月に行った空爆で負傷した娘をエジプト経由でチュニジアに避難させる手配のためにeSIMを利用した。娘の治療について医師たちに自分の意見を伝えることもできた。

「ガザ・オンライン」の最高執行責任者としてヨルダンで活動するナディーヌ・ハッサン氏は、同団体の事業は、特に資金調達面で「日に日に困難になりつつある」と語る。

「ガザ・オンライン」によるeSIM購入はますます困難になっているという。大量一括購入は利用規約に反するとして、ベンダー側が「ガザ・オンライン」のアカウント閉鎖を続けているからだ。

eSIMのアクティベーションには、比較的新しいモデルのスマートフォンと最新のソフトウエアが必要になる、とハッサン氏は言う。だが、食糧と飲料水の確保だけでも手一杯のガザ住民にとっては難しい注文だ。

もう1つ、やや謎めいた障害もある。大半のeSIMは夜間にしか機能しないようなのだ。

「まったく理由は分からず、説明しようがない」とハッサン氏は話す。

<命を賭ける技術者たち>

今回の戦闘以前から、ガザの電気通信サービスは脆弱(ぜいじゃく)だった。世界銀行による今年前半の報告書は、ガザ地区は世界で唯一、いまだに「時代遅れの」2G技術に依存している地域であり、モバイルブロードバンドサービスも提供されていないと指摘した。

ガザ地区における最大手の電気通信事業者パルテルは2月、全面的な完全なサービス停止が昨年10月7日以来、10回以上生じたと報告した。ネットワークが部分的に機能しているときでも、戦闘のために多くの地域でサービス維持が困難となっている。

イスラエル軍とハマスの戦闘員との戦闘が続いているにもかかわらず、電気通信系の技術者たちはサービス復旧に走り回っている。損傷したインフラを修理しようとしている最中に技術者が死亡した例も複数報告されている。

東エルサレムを拠点とするインターネット接続事業者クールネットを率いるハニ・アラミ氏はトムソン・ロイター財団の取材に対し、ガザ中心部で活動している同社のチームの1つが、2月にイスラエルによるものと思われる攻撃の際に標的となり、技術者2人が死亡、1人が負傷したと語った。

アラミ氏によれば、部下たちのチームの動きについては現地に向かう前にイスラエル軍と調整済みだったという。

「最初の地点から移動する許可はもらっていたのに、車両が予定のルート上を移動中に彼らの空爆を受けた」とアラミ氏は言う。

この事案に関して問い合わせたところ、イスラエル軍はトムソン・ロイター財団に対する声明の中で、「国際法を順守しており、民間人への危害を抑えるために実行可能な予防措置を講じている」と述べた。

戦火が長引く中で、一部の活動家はイスラエル側に対し、デジタル領域における停戦の順守を呼びかけている。

デジタル人権擁護団体アクセス・ナウの元エグゼクティブ・ディレクターであるブレット・ソロモン氏は、トムソン・ロイター財団への寄稿の中で、「接続から検閲に至るまで、全面的な『デジタル停戦』を、従来の停戦合意に追加しなければならない」との考えを示した。

サリムさんは今、海に近い建設途中の家での生活を立て直そうとしているが、これまで以上に孤立感を抱いているという。イスラエル側の通信タワーからも離れすぎているため、eSIMも使えない。

こうなればサリムさんとしては地元の接続事業者に頼るほかないが、料金は目の玉が飛び出るほど高額だ。しかもネット接続のために必要な承認を得るには最大1カ月もかかる。

いつ終わるとも知れぬ戦闘の中で再び爆弾や銃弾から逃げる羽目になるかもしれないのに、1カ月は長すぎる。

サリムさんは自分のIT事業を何とか復活させ、家族を養えるようになりたいと願っている。だがインターネットを使えなければ仕事もできない。

「オンライン会議もできないようでは、まるで仕事にならないと思われるだろう」

(翻訳:エァクレーレン)

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