新型コロナで投資余力を再考、企業買収は抑制=キリンHD常務
ロイター / 2020年3月16日 11時18分
キリンホールディングスの横田乃里也・取締役常務執行役員(最高財務責任者)はロイターとのインタビューで、新型コロナウイルスの感染拡大で収益が見通しづらいことから、投資余力を評価し直す考えを示した。写真は2019年1月、神奈川県横浜市にある工場で撮影(2020年 ロイターS/Issei Kato)
[東京 16日 ロイター] - キリンホールディングス <2503.T>の横田乃里也・取締役常務執行役員(最高財務責任者)はロイターとのインタビューで、新型コロナウイルスの感染拡大で収益が見通しづらいことから、投資余力を評価し直す考えを示した。より厳しく投資の優先順位を付け、買収などの大型投資は「視界が晴れるまでできない」と語った。
インタビューは13日に行った。
横田CFOは「キャッシュ創出力が下がってくるところで、投資余力も再評価しなければならない」と発言。投資の優先付けを厳しくし、可能なところは抑制する方針で、すでに社内に指示を出したことを明らかにした。同CFOは「より一層、保守的に考えるタイミングだ」と述べた。
新型ウイルス感染拡大の影響は、あらゆる業界で顕在化している。日本国内だけでなく、海外でも店舗の一時閉鎖やイベント・外出の自粛などの措置が取られ、キリンが主力にするビールや飲料事業も打撃を受けている。
横田CFOは半年から1年影響が続くとみており、「状況を見極めてから投資は再検討する」と語った。
投資の優先順位が高いのは、屋台骨であるビール事業の設備投資や医薬事業のパイプライン強化など。その一方、他社ブランドの取得やM&A(合併と買収)、出資などはしばらく抑制するという。
多角化の一環として力を入れてきた医薬・健康事業も例外ではなく、その柱である協和キリン <4151.T>とファンケル <4921.T>の株式を買い増すことは「今のままでは難しい」と述べた。
<IFPと主張は平行線>
キリンHDに対しては、同社株約2%を保有する英投資会社インディペンデント・フランチャイズ・パートナーズ(IFP)がビール事業に注力するよう求めている。今月27日の株主総会で、医薬・健康事業を売却し、その資金で最大6000億円の自己株取得を実施すること、取締役のインセンティブ報酬の比重を増やすことを提案している。さらに、独立取締役の候補者2人を推薦している。
横田CFOは、株主還元により短期的な株価上昇を求めるIFPとのギャップは「なかなか埋まらない。両社の経営方針のあり方には差がある」と述べた。
一方、IFPのハッサン・エルマスリー最高経営責任者(CEO)は13日に会見し、「(キリンHDの)磯崎功典社長はビール事業に非常に悲観的な見方をしている。世界中のどのビール事業のCEOを見ても、こんなに悲観的な人はいない」とキリンHDの現在の経営方針を改めて批判。他の株主も磯崎社長の考えに疑問を呈すよう求めた。
キリンHDは社会の高齢化などでビール市場の拡大が見込みにくい中、健康関連市場は国内で拡大を続けるとみている。
同社は今期(2020年12月期)、協和キリンの成長をプラス15%と見込んでいる。昨年9月に出資したファンケルについては、両社で開発する新商品やチャネル活用などで、2024年に55―70億円の事業利益ベースでのプラス寄与を見込んでいる。
横田CFOは「医薬部門はキリンの研究開発が生み出したものが事業になっている。合理的に説明できる範囲の事業を展開している」とした上で、「シナジーも検討しているし、定量化できるものは出そうとしている。それが理解されれば、市場の評価も高くなってくる」と述べた。
新型コロナの感染拡大と原油安で金融市場が大きく荒れる中、キリンHDの株価は2月中旬の直近高値から約23%下落する一方、アサヒグループホールディングス <2502.T>は約38%下がっている。横田CFOは「競合と比べて株価の変動は軽く収まっている」とし、事業の多角化が奏功していると語った。
医薬・健康事業の成長性などを織り込んだ長期経営構想「KV2027」については、「定期的なレビューはしているが、見直しのスイッチを押すタイミングではない」と述べた。その上で、会社提案の取締役が選任されれば、独立社外取締役が過半数になるため、企業統治はより強固なものになるとした。
エルマスリーCEOは、キリン側の取締役選任案を批判。13日の会見で、「取締役会もこの戦略は経済的な合理性がないと知っているから、独立取締役が真に再検証することを恐れている」と語った。
(清水律子 安藤律子 取材協力:新田裕貴 編集:久保信博)
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