アングル:気候変動対策で企業が出張削減、対応迫られる航空業界
ロイター / 2021年10月16日 9時44分
10月11日、大企業が、出張に伴って発生する二酸化炭素排出量を大幅に削減する方法を模索する中で、航空各社はドル箱であるビジネスクラス利用が大打撃を受けるのではないかと身構えている――。写真はイエメン・サヌア上空を飛ぶ飛行機。2011年1月撮影(2021年 ロイター/Khaled Abdullah)
Jamie Freed Rajesh Kumar Singh
[シドニー/ボストン 11日 ロイター] - 大企業が、出張に伴って発生する二酸化炭素排出量を大幅に削減する方法を模索する中で、航空各社はドル箱であるビジネスクラス利用が大打撃を受けるのではないかと身構えている――。このような状況が、業界幹部や専門家の発言から見えてきた。
HSBC やチューリッヒ保険 、ベイン・アンド・カンパニー、S&Pグローバル など複数の企業は、出張に伴う二酸化炭素排出量の最大70%を早期に削減する計画をすでに発表済みだ。
気候変動につながる間接的な二酸化炭素排出量を削減するよう環境保護団体や投資家からのプレッシャーが高まる中、「カーボン予算」の導入を検討する企業もある。
出張にともなう二酸化炭素排出量の約90%は航空機での移動によるものだ。したがって、削減目標を設定しようという企業が真っ先に手をつけるのも、この部分ということになる。
航空産業の側では、先週ボストンで開催された会合において、2050年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ」の目標を打ち出した。だがこれでは、企業が出張に伴う排出量の削減目標を達成する時期よりも数十年先になる。
「航空会社には厳しい状況であり、対応していく必要がある」と語るのは、ロンドンを本拠とするスラスト・カーボンの共同創設者であるキット・ブレナン氏。スラスト・カーボンでは、S&Pをはじめとするクライアントに「カーボン予算」に関するアドバイスを提供している。
ブレナン氏は、「とても奇妙な話だが、これから生じると思われるのは、ビジネスクラスとして与えられる特典が座席とは関係なくなるという、ビジネスクラスの別売りが進むことだ」と述べる。特典とはつまり、空港のラウンジや食事のグレードアップなどだ。「結局のところ、二酸化炭素排出量の問題は、ビジネスクラスの座席が航空機内でどれだけの面積を占めているかということだから」
世界銀行が行った研究によれば、旅客機で移動する場合、ビジネスクラスを利用するとエコノミークラスより最大で約3倍の二酸化炭素を排出することになる。ビジネスクラスの座席はそれだけ多くの面積を占め、空席率も高いからだ。
<すでに始まった変化>国際航空運送協会(IATA)によれば、パンデミック前、世界全体の国際航空旅客のうち約5%がエコノミーより上のクラスで、国際航空収益の30%を占めていた。
パンデミックに関連して出張が減少しオンライン会議へと移行した結果、多くの企業が、出張方針の再設定によるコスト削減を実現した。
コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーで持続可能性(サスティナビリティー)最高責任者を務めるサム・イスラエリット氏によれば、ベインではオフィスや業務対象地域におけるカーボン予算の評価を進めており、今後5年間で出張に伴う従業員1人あたりの二酸化炭素排出量の35%削減につなげようとしているという。
企業や法人向け旅行代理店は、機種や経路、座席クラスといった要因に基づいて航空機利用に伴う排出量を測定するためのツールに相当の投資を行っている。
「出張をバッサリ減らすといった乱暴なアプローチを採用する企業が多いとは思えない。それでは収益に響いてしまうから」と語るのは、アメリカンエクスプレス・グローバル・ビジネス・トラベルで持続可能性担当バイスプレジデントを務めるノラ・ロベル・マーチャント氏。「だが、出張する人自身が判断できるように、透明性を求める声が増えているのは確かだ」
グローバルな格付け機関であるS&Pは、2025年までに出張に伴う排出量の25%削減を計画している。同社でグローバル規模の出張業務を統括するアン・デリー氏は先月、CAPAセンター・フォー・アビエーションが主催したイベントで、S&Pの社員によるビジネスクラス利用のうち42%が社内会議目的だったと述べている。
<航空会社も「グリーン」をめざす>
米国の航空会社ジェットブルー は、今後2-3年以内に、ニューヨーク発着のフライトで用いるジェット燃料の約30%を、持続可能性のあるものに切り替えることを計画している。
「もちろん企業は、気候変動の問題に積極的に取り組んでいきたいと考えるだろう」とジェットブルーのロビン・ヘイズ最高経営責任者(CEO)はボストンにおける航空業界の会合の舞台裏で語った。「だが、出張をやめないでもそうした取組みを進める道はあるだろうと私たちは考えている」
先週の会合で航空各社が定めた二酸化炭素排出量の削減目標は、持続可能性の高い航空燃料の利用を現在の0.1%未満から65%にまで引き上げることや、新たなエンジン技術の採用に期待をかけるものだ。
「航空業界が2050年までに二酸化炭素排出量の『ネットゼロ』実現をめざすなら、今回の会合に参加したすべての航空会社がそれぞれの役割を果たさなければならない」と語るのは、ニュージーランド航空 のグレッグ・フォーランCEO。「航空会社だけではない。燃料サプライヤーも、各国政府も含まれる。最終的には、顧客も変化を受け入れなくてはならない」
(翻訳:エァクレーレン)
この記事に関連するニュース
-
世界初、食用に適さないココナッツオイルから100%バイオマス由来SAFの製造に成功しました
PR TIMES / 2024年9月21日 21時40分
-
国産ジェット旅客機C919、持続可能な航空燃料で初の商業飛行―中国
Record China / 2024年9月20日 20時30分
-
ココナツオイルで航空燃料を製造 食べられない廃棄品を使用
共同通信 / 2024年9月18日 19時43分
-
山口県内のコンビナート企業が排出する二酸化炭素…2017年度をピークに減少
KRY山口放送 / 2024年9月4日 19時36分
-
第2回AZEC閣僚会合開催、アジア・ゼロエミッションセンターを立ち上げ(インドネシア、ブルネイ、カンボジア、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム、オーストラリア、日本)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年8月27日 1時15分
ランキング
-
1「今買わないと後悔しますよ」 客を萎えさせる「店員の声かけ」はこれだ
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年9月22日 8時5分
-
2福井のブランド米「いちほまれ」の新米、昨年より価格6割高で店頭に…生産量は2000トン増の見通し
読売新聞 / 2024年9月22日 8時43分
-
3「無料のモノはもらわない」お金のマイルール 日々を健やかに過ごす「失敗を許容するお金」
東洋経済オンライン / 2024年9月22日 9時0分
-
4「三菱商事、伊藤忠、ゴールドマン・サックス」がずらり…偏差値55なのに就職実績"最強"の「地方マイナー大学」の秘密
プレジデントオンライン / 2024年9月22日 10時15分
-
5「チープカシオ」なぜ人気? 安価だけではない、若者に支持される理由
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年9月22日 7時10分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください