再送-〔アングル〕「監視国家」化するインド、警察が記者尋問し携帯やPC押収
ロイター / 2023年10月16日 13時48分
インドの独立系オンラインニュースサイトで、ときにモディ政権に批判的な立場を取るニューズクリックは先週、拠点が警察による家宅捜索を受けた。写真は抗議するメディア関係者。4日、ニューデリーにあるプレスクラブで撮影(2023年 ロイター/Anushree Fadnavis)
(13日に配信した記事で、デートラインを修正します)
Rina Chandran
[ムンバイ 12日 トムソン・ロイター財団] - インドの独立系オンラインニュースサイトで、ときにモディ政権に批判的な立場を取るニューズクリックは先週、拠点が警察による家宅捜索を受けた。警察はモバイル機器やラップトップ、ハードディスクなど数十点を押収し、反政府的とみなす記者を尋問した。記者の1人は「これが監視でなければ何か監視か」と憤る。
ニューズクリックの顧問であるパランジョイ・グハ・タクルタ氏(68)は「警察は私の携帯から全データを持ち去った。メッセージアプリのやり取り、連絡先、写真など全てだ」と話した。
ニューデリー警察は今回の捜索でマネーロンダリング(資金洗浄)の容疑で46人を尋問したと説明。一方のニューズクリックは疑惑を否定し、警察は容疑の具体的な内容を明かさなかったと訴えている。
クタルタ氏は12時間ほども尋問され、2021年の農家による大規模な抗議運動や政府の新型コロナウイルス対応などの報道への関わりを質された。
与党インド人民党(BJP)の広報担当者は、メディアへの外国資金流入は精査されるべきであり、今回の捜索は適切だと述べた。
しかしタクルタ氏によると、今回は記者やインターンのほか、ニューズクリックとつながりのあるグラフィックデザイナーや活動家までもが何時間も取り調べを受けた。警察は彼らの端末を押収して調査し、創設者と幹部を逮捕。「もしあなたがジャーナリストで、政府が歓迎しない意見の持ち主なら、政府は反撃することがあるというメッセージだ。これは社会を萎縮させる」という。
警察によるジャーナリストや活動家の端末の押収は過去5年間にインド全体で十数件起きている。街頭などでの携帯電話の抜き打ち検査も増えており、世界最大の民主主義国家であるインドでは表現の自由の抑圧が進んでいる。
しかし、言論の自由を擁護する人々が最も懸念するのは、偏りのない意見やメディアによる批判に対する弾圧と見られる動きだ。当局は安全保障上の懸念を挙げるが、プライバシー擁護派は今回の家宅捜索は一線を越えており、言論の自由が抑え込まれていると異議を唱えている。
非営利団体「インターネット・フリーダム・ファウンデーション」の共同法律顧問、ラディカ・ロイ氏は「私たちの全生活がデジタル機器に蓄積されている。端末の捜索や押収は私たちのプライバシーや黙秘権に対する基本的な権利に直接影響する」と指摘。情報源とのやり取りなどが保護されるべきジャーナリストの特権が危機に瀕しており、「非常に侵略的で、違法でもあり得る」と述べた。
<恣意的な差し押さえ>
インドでは近年、データのデジタル化が進み、インターネットの取り締まりが強化され、学校や空港、街頭で防犯カメラや顔認証が導入されて監視が強化されている。
弁護士、活動家、ジャーナリスト数十人がスパイウェア「ペガサス」の標的となったが、インド当局は政府がペガサスを導入したかどうか明らかにせず、「無許可の監視は行われていない」としている。
昨年11月にはBJPの政治家による告発を受けて、警察がデジタル出版社ザ・ワイヤーの事務所と編集者3人の自宅を家宅捜索し、携帯電話とノートパソコンを押収した。ザ・ワイヤーの創立編集者シッダールト・ヴァラダラジャン氏によると、アムネスティ・インターナショナルの分析で同氏の携帯電話が2018年4月にペガサスの標的になっていたことが分かった。警察は携帯電話を押収中にあらゆるデータを追加したり削除したりすることができたという。
<裁判所への申し立て>
2014年のモディ氏の大統領就任以来、インドは世界報道自由度指数が140から161に下がって過去最低となった。インドでは報道の自由は「危機的状況にある」と、国境なき記者団は指摘。政府はこの調査結果に対して、インドには報道の自由があると反論している。
警察はジャーナリスト以外にも、車を運転する人や特定の地域の住民の携帯電話を日常的に調べている。ハイデラバードの人権活動家SQマスード氏は「これは完全に違法な捜査で、貧困地区や少数民族を標的にしている」と批判。ハイデラバードではこうした捜査は当たり前になっているという。
専門家の話では、新しく導入されたデータ保護法により国家は広範な権限を手に入れており、新しい刑法により「合理的な理由」があれば、警察は令状なしに電子機器を捜索することが可能だ。
最高裁には電子機器の捜索と押収の有効性を巡り、学者と人権擁護団体から2件の申し立てが提出されている。
ニューズクリックの家宅捜索後、10以上の報道機関が最高裁長官に公開書簡を送り、警察の動きを抑制し、ジャーナリストの携帯電話やノートパソコンの押収を中止するよう求めた。
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