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焦点:ハリケーン襲来に身構えるハイチ、ギャングの抗争で対策進まず

ロイター / 2024年6月17日 7時39分

米国の気象学者は、今後数カ月間は大西洋海域において「尋常ならざる」ハリケーンシーズンになると予測しており、昨年ハイチで発生した洪水により住む家を失った人々にとっては心の休まる暇もない。写真は2017年9月、ハリケーンがもたらした雨から身を守りながら食事をとる女性。同国カパイシャンで撮影(2024年 ロイター/Andres Martinez Casares)

Joseph Guyler Delva Anastasia Moloney

[ポルトープランス 11日 トムソン・ロイター財団] - エベリン・ジャンビエさん(40)は昨年、ハイチで発生した洪水により10代の息子を失った。その悲嘆に追い討ちをかけるように、今年のハリケーンシーズンは、ギャングによる暴力が席巻するハイチにさらに多くの悲劇をもたらす可能性が高いと見られている。

ジャンビエさんは首都ポルトープランスの西、約30キロメートルにある沿岸の町レオガンに暮らす。ここでは重武装のギャング同士の抗争により、殺害される、あるいは家を失う人々が数千にも及んでいる。

ジャンビエさんが「とても親切で賢く、礼儀正しい少年だった」という当時16才のウィルナーさんの命を奪った洪水以来、レオガンではまだ数百人の住民が損傷した家屋やテントで生活している。

米国の気象学者は、今後数カ月間は大西洋海域において「尋常ならざる」ハリケーンシーズンになると予測しており、住む家を失った人々にとっては心の休まる暇もない。

「何よりも心配なのは、ここでまた同じような災害に襲われた場合、昨年と何か変わったという保証がまったくない点だ。ああいう大災害の影響を最小限に抑えるための本格的な対策は何1つとられていない」とジャンビエさん。

武装したギャングの間の抗争によりハイチ社会が混乱を極めているせいで、気候変動により頻度や規模が増している熱帯性低気圧への対策はますます難しくなっている。

主要な港湾が閉鎖され、食糧や医薬品、支援物資など不可欠な供給が絶たれているため、人道上の危機が深刻化している。カリブ海に浮かぶ島国で、まさにハリケーンの針路上に位置するハイチでは、約500万人の住民が飢餓状態に陥っている。

2024年1─3月には、ギャングによる暴力で1500人以上のハイチ国民が殺害された。国連によれば、昨年の死者は5000人に迫り、数千人の女性が性的暴力の犠牲となっている。

ポルトープランスでは数十万人が住む家を追われ、ギャングによる違法な税の取り立てや輸送妨害のために、食品価格が急騰している。

だが、困窮する市民にとって最悪の日々はこれからかもしれない。ハイチはたびたび地震にも見舞われており、2010年の震災ではポルトープランスの街ががれきと化し、約20万人の犠牲者が出た。

ハリケーンシーズンが近づく中、大半のハイチ国民は日々命をつないでいくことに精一杯で、とても暴風雨の襲来に備える余裕はない。

ポルトープランスで、3つの非政府組織(NGO)によるコンソーシアムの国別ディレクターを務めるプロスペリー・レイモンド氏は、「現状でもすでに危機と言える」と語る。

カリブ海地域における過去10年で最も強力なハリケーンとなった2016年の「マシュー」に襲われたコミュニティーのいくつかは、まだその被害からの復興の途上にあり、テント暮らしを続けている被災者もいる、とレイモンド氏は言う。

米海洋大気局(NOAA)では今年6─11月のシーズンに最大7個の大型ハリケーンが発生すると予測しており、レイモンド氏はこうした予測がハイチ国民を脅えさせていると話す。

「ハリケーンがハイチを襲えば大惨事になる」と同氏は言う。

<ギャングの活動が災害対策阻害も>

国連人口基金(UNFPA)が5月に発表した最新データによれば、ラテンアメリカ・カリブ海沿岸諸国全体では、総人口の6%に当たる4100万人が沿岸地域で暮らしており、生命の危険を伴う暴風雨や洪水の脅威にさらされている。

ハイチの場合、病院全体の10%に当たる133カ所が低地にあるため、リスクはさらに大きい。

ハイチ国家緊急事態対応センター(COUN)を率いるエマニュエル・ピエール氏は、ハリケーンシーズンに向けた備えは「かなり進んでいる」ものの、武装したギャングが各地で活動しているせいで災害対策が阻害されている、と語る。

6月には新たな災害即応室が設置され、ボランティア主導の市民保護グループが活動を再開し、COUNの中央倉庫にもテントやシャベル、手押し車といった備品が確保されている。

警報システムの試験が行われ、災害が発生した場合に衛生キットや食糧の配布を改善するため、2カ所の地域拠点を創設する計画もある。

だが、ギャングが近隣地域全体を支配し、道路を封鎖し、一定の時間帯における外出禁止令を出していることで、こうした取り組みも阻害されている。

COUNのピエール氏は「ポルトープランス以外の拠点に実際に物資を供給することが非常に難しい課題となっている。武装したギャングが主要道路とその周辺の地域を占拠しているせいだ」と語る。

「武装強盗との接触を避けるため、通常の道路を迂回しなければならないことも多い」とピエール氏は続ける。

対策としてCOUN職員は、へき地において食糧・備品の購入に協力してくれる現地サプライヤーの特定を進めてきた。こうしたサプライヤーは、過去の洪水や、5月下旬にハイチ北西部を襲った竜巻で破壊された住宅の再建にも協力している。

ピエール氏がもう1つの選択肢として挙げるのは、「一部の船舶所有者・船長と契約を結び」、ポルトープランスで物資を購入し、必要とするコミュニティーに向けて船舶で輸送することだ。

<慢性的な危機状態>

中央政界レベルでは、有効に機能する政権の確立など他にも緊急の課題を抱えているため、ハリケーン対策は二の次にされている。

6月3日に就任宣誓を行ったギャリー・コニーユ暫定首相は、新閣僚を選び、治安改善及び統制回復の方法について移行評議会の同意を得なければならない。

ギャングの支配地域に食糧その他の必需品を届けようとしている国連機関や国内外の支援団体にとっては、政治の安定を回復することが優先課題だ。

「治安面での課題は、私たちの作業、コミュニティーに到達できるかどうかに関わってくる」と語るのは、ハイチで国連人道問題調整室(OCHA)を率いるアブドゥライェ・サワドゴ氏。

サワドゴ氏はトムソン・ロイター財団の質問に対する文書での回答で、「地方自治体や地域指導者、宗教指導者、一部の地域有力者と協力しつつ、安全な通行と人道支援のアクセスの確保を図っている」とした。

前出のレイモンド氏は、治安面での課題はあるものの、一部の支援団体では、今後のハリケーンに備えるため、民間防衛組織からの志願者を対象とした再訓練コースを何とか実施することができたと語る。

さらにレイモンド氏は、多くの地元コミュニティーが災害対策活動の先頭に立ち、ハリケーン襲来時に避難所として使える教会や学校を確認している、と続ける。

だがハイチ国内は慢性的な危機状態にあり、冒頭のジャンビエさんなどは、ただでさえ対立と災害の容赦ない繰り返しによって打ちひしがれている島国では、再び風が荒れ狂いだしたら運を天に任せるしかない、と覚悟している。

「この社会では、何かの問題を気にかけるのは、それが実際に起きているときだけ」とジャンビエさん。「過ぎてしまえば、次の災害が訪れるまでは自分のことで精一杯になる」

(翻訳:エァクレーレン)

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