焦点:豪で「#MeToo」運動がうねり、総選挙の争点に
ロイター / 2022年5月16日 10時59分
[シドニー 12日 ロイター] - オーストラリアで、女性が被害を訴える「#MeToo(私も)」運動が大きなうねりとなっている。とりわけ産業の柱である鉱山企業に対しては、職場でのセクハラ被害への対応を迫る声が強まり、今月の総選挙でこの問題に対する政府の姿勢が大きな争点に浮上した。
同国では過去1年半に数千人の女性が、鉱業その他の業界におけるいじめや性的虐待を暴露。国民から怒りの声が上がり、政府と企業幹部は断固とした対策を約束した。
21日の総選挙で、この問題がいよいよ正念場を迎える。
職場のセクハラに対する政治の対応は、激論の的だ。議会で起きた性的暴行事件へのお粗末な対応を巡り、連立与党自体も批判を浴びている。
一方、ウエスタンオーストラリア州は6月、州内の鉱山企業におけるセクハラについて報告書を公表する。被害届けに対する社内対応が焦点となる見通しだ。
オーストラリア性差別委員会の元委員、エリザベス・ブロデリック氏は「性的不正行為の被害者が恐怖や恥辱、沈黙の中に生きるようなことは、もう終わらせるべきだ。1人の女性が声を上げれば、それに続く人々が出てくる。私は鉱業・資源セクターの指導者らに対し、彼女らの話を聞き、そこから学んで対策を強化するよう訴える」と述べた。
ロイターは過去1年半にオーストラリアの鉱業現場でセクハラやいじめに遭ったと述べた女性6人に取材した。彼女らの被害の大半は、ウエスタンオーストラリア州が大々的に調査を開始した昨年8月以降に起きている。
インドの新興財閥アダニ・グループが所有する鉱山で、厨房などで働いていたカイリージェイン・スキッパーズさん(48歳)は昨年12月、セクハラといじめを訴えた2日後に解雇された。
スキッパーズさんが、雇用主である仏サービス請負会社ソデクソに提出した正式な被害届けによると、彼女が厚遇と引き換えに男性エンジニアに性的な接待を申し出る偽の文書を、誰かが職場で回覧した。
被害届け提出の2日後、スキッパーズさんは「妥当かつ合法的な経営上の指示に従わなかった」としてソデクソから解雇された。解雇通知は、彼女の訴えを検証した結果、「いじめや嫌がらせは実証できなかった」と結論付けている。
「怖くて、不安でたまらなくなり、うつになった」と言うスキッパーズさんは、この業界から離れた。「彼らがやったことは問題にふたをして、対処しなくて済むように私を追い出しただけだ」
ソデクソは被害届けについて「直ちに調査して解決」しており、解雇の理由はこの件とは無関係だとした。
アダニは、従業員がこの件でスキッパーズさんを助け、ソデクソによる調査で証言を行ったと説明。ただ調査は終了しており、「今は請負業者とその従業員の問題になっている」とした。
<1世紀前から変わらない男女比>
鉱業はオーストラリアの国内総生産(GDP)の11%を占める主要産業だ。しかし労働者15万人の6人に5人が男性で、男女比は1世紀前からほとんど改善していない。
ロイターが取材した女性の大半は弁護士を通じ、企業に補償を求める申し立てを公正労働委員会(FWC)に提出したか、提出の準備を進めている。
彼女らの事例は、鉱業労働者全体の一部分にしか過ぎない。しかし大手鉱山企業リオ・ティントが2月に公表した自社についての報告書にも、いじめや嫌がらせ、性差別が横行する職場環境の詳細が印されている。同社のヤコブ・スタウショーン最高経営責任者(CEO)は、こうした行為が「システム全体で」行われていたと表現した。
報告書は従業員1万人以上の経験や見方を反映したもので、約30%の女性が職場でセクハラを経験し、21人は未遂を含めた性的暴行に遭っていたことが発覚した。
<政権の女性支持率が低下>
オーストラリアの国民は今、セクハラと差別に対する政治の対応を注視している。
政治コメンテーターらは、女性の間でモリソン政権の支持率が下がったのは、職場でのセクハラと差別に対する国民の怒りが主因だと述べている。野党や男女平等を訴える活動家は、政権は必要な改革から目を背けていると批判している。
昨年初め、女性有権者の間で与党と野党労働党の支持率は五分五分だった。ロイ・モーガンの世論調査によると、今年4月は、与党に投票すると答えた女性の割合は40%に届かなかった。
政府は、性差別委員会が2020年に出した職場でのセクハラ撲滅のための勧告の一部については行動を起こした。しかし全部ではなく、現行法で多くの苦情は既にカバーされているとの見解を示している。
活動団体は鉱山企業に対し、セクハラ等についての社内調査権限を撤廃し、外部の独立監視機関を設置するよう提唱している。業界団体のオーストラリア鉱物評議会は、オーストラリア人権委員会に調査権限を持たせる案を支持しつつも、手続きの公正さを確保し、風評被害を避けるためにもろもろの規定を「慎重に定義」すべきだとしている。
FWCは昨年11月から、職場でセクハラなどの行為を行った人々に「セクハラ阻止」命令を出す制度を導入したが、今のところ実効性を欠いている。
FWCがロイターに明らかにしたところでは、導入からの3カ月間で、命令を出してほしいとの申請が17件あったが、1件も発行されていない。報道官はその理由についてコメントを控えた。
シドニー工業大学のカレン・オコネル法学教授はこの命令について、被害届を出した人が既に退職していたり、加害者が社内で異動している場合には介入できないため、対象範囲が狭すぎると指摘。「セクハラ阻止命令は依然として非常に重要で、存続させる必要があるが、セクハラ被害を受けた人々の状況の大半をカバーできない」とし、企業に安全な職場環境の創設を義務付ける法律の方が有効だろうとの見方を示した。
「個人が行動を起こし、大きなシステムに自ら立ち向かわなければならないとは、馬鹿げている」とオコネル氏は語った。
(Byron Kaye記者、 Praveen Menon記者)
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