焦点:米大統領選当日に「誤報リスク」、TV各局に当確の重圧
ロイター / 2020年10月18日 8時24分
10月12日、全米ネットのテレビ放送局などの報道局幹部らは、11月3日の大統領選当夜に向けた準備を進める中で、20年前に起きた悪名高い大統領選報道の顛末(てんまつ)から得た教訓を生かそうとしている。写真は2日未明、ホワイトハウスから報告する米メディアのリポーター(2020年 ロイター/Joshua Roberts)
[12日 ロイター] - 全米ネットのテレビ放送局などの報道局幹部らは、11月3日の大統領選当夜に向けた準備を進める中で、20年前に起きた悪名高い大統領選報道の顛末(てんまつ)から得た教訓を生かそうとしている。民主党のアル・ゴア副大統領と共和党のテキサス州知事のジョージ・W・ブッシュ(子)氏が対決した選挙だ。
大手テレビ局はこぞって、勝敗を決める最後の鍵となったフロリダ州でゴア氏勝利の見通しを流した後、わずか数時間後にブッシュ氏勝利を報じた。同州での得票差は余りにも僅差で、いったん敗北を認めたゴア氏は1時間後に敗北宣言を取り消した。
選挙結果は1カ月以上たっても決まらなかった。選挙当夜に負けが決まったのはメディアの信頼性だけだった。
フォックス・ニュース・メディアのジェイ・ウォレス社長は「2000年のあの出来事は今なお皆の脳裏に残っていると思う」と語る。フォックスニュースも例にもれず、ゴア氏勝利を当初報じていた。「各局がしのぎを削る中で、大統領の当確を打たなければならないことは分かっているが、あんな風に間違うことだけは避けたい」と話す。
今年の共和党のトランプ大統領と民主党バイデン前副大統領の対決を前に、各テレビ局には選挙報道の正確さと、根拠のない臆測を排除する強い姿勢への要請がかつてないほど高まっている。今回、米国にとって、そして各局にとっての難問は、不正投票の不安をあおる大統領の存在と、有権者の深い分断、集計が長引いて抗議デモや暴力沙汰や訴訟につながる可能性だ。
ロイターが大手テレビ5局の幹部にそれぞれインタビューしたところ、選挙当夜の報道についてはスピードではなく自制を重視すること、まだ分かっていないことは何かを不透明にせず、選挙結果の判明の遅れが危機を意味するわけではないとのメッセージを伝えて国民を安心させることも重視するといった意思表明が返ってきた。
NBCニュースのノア・オッペンハイム社長は、同テレビの報道は「何らかしらの筋立てや物語、見込みを伝えるものにはしない」と明言。「それぞれの時点で分かっていること」を伝え、事実のみを確実に伝えることに照準を合わせるとした。
2000年当時の大統領選報道では、NBCの名物記者、ティム・ルサート氏がホワイトボードに走り書きしながら説明するといった光景が繰り広げられたが、今年の場合、多くはもっと科学的な方法になるのは間違いない。各局は、より多くの開票結果を盛り込んだ、より深いデータ分析や、投票やその公正さや誤情報の仕組みを追加的に報じることにいかに多くの投資をつぎ込んできたかを見せつけようとするだろう。
ウォルト・ディズニー
NBCニュースはコムキャスト
今回は大手テレビ局が異なる情報提供元からデータを入手する初めての大統領選となる。当日夜の結果の見通し状況が局によって分かれる可能性も大きい。
フォックスは2018年からAP通信と提携し、従来型の対面出口調査をオンラインと電話の調査に切り替えている。期日前投票と選挙当日の投票者の双方の動向を把握する狙いだ。調査結果はAPが集計するリアルタイムの結果と組み合わせ、開票予測の支援に用いる。
フォックスとAPは、3大ネットとAT&T傘下CNNなどが参加する業界連合「ナショナル・エレクション・プール」(NEP)を脱退している。NEPは各選挙区から上がってくる出口調査と開票結果を調査会社エジソン・リサーチに依存する。ロイターも今年の大統領選挙データはNEPから配信を受ける協定を結んでいる。
2016年以降、各局は各州の事前調査では性別や年齢だけでなく、学歴の違いにも比重を置く調整方法の恩恵を受けていそうだ。同年の大統領選では、トランプ氏ないし民主党候補ヒラリー・クリントン氏への支持動向で学歴による特徴が大きく出た。「大卒でない白人」の票がトランプ氏に多く流れたことが浮き彫りになったのだ。
各局の幹部らによると、今回の大統領選は「遅くても確実に」が合言葉だ。
ABCのジェームズ・ゴールドストン社長は各州の開票結果見通しについて、「確信できる所に達するには、より複雑でより長いプロセスが必要になる。視聴者に対しては情勢について透明性を確保する必要がある」と語った。
<完全に予測不能>
2000年大統領選のフロリダ州開票はブッシュ氏勝利があまりに僅差だったため、再集計に持ち込まれた。政治的な闘争と法廷闘争が1カ月以上続いたあげく、連邦最高裁が5対4の判断で再集計を停止させた。この最高裁決定はさらに国民の分断を呼び、一部の民主党関係者は当時のいきさつに今なお怒りを禁じ得ない。
しかし、そうした当時の出来事も今回と比べればおとなしく見えるかもしれない。党派的分断はもっとひどくなる一方だからだ。新型コロナウイルス禍で投票所での対面投票に警戒する人が増え、期日前投票は過去最多を記録している。そうした集計には何週間もかかるかもしれない。世論調査ではバイデン氏がリードしている状態だが、一部の政治専門家によれば、選挙当夜はトランプ氏が優勢になり、期日前投票や郵便投票がすべて集計されてはじめて、バイデン氏の勝利が浮上する可能性もある。
法廷闘争になれば、まさに2000年のように、連邦最高裁が最終的な調停役になる可能性がある。ただ、そうした場合の最高裁の役割については既に論議が起きている。共和党は死去したリベラル派判事、ギンズバーグ氏の後釜を急いで据えようとしており、いま指名されている人物が就けば最高裁のバランスが右派に傾くことになるからだ。
こうした社会分断の状況で、各テレビ局は報道が偏向していないか、微に入り細に入り吟味されることになる。
コロンビア大学ジャーナリズム大学院のスティーブ・コール学長は「メディアも二極化が進んでいる。一部の局の視聴者は特に特定の主義主張に凝り固まる傾向もあるため、一方向に偏っていると見なされたり、他局とは違ったりする当確判定は、正確な選挙報道ではなく政治的な戦術のたぐいと受け止められる恐れがある」と説明する。
コール氏によると、今回の大統領選報道では州レベルでも郡レベルでも詳細な報道が求められる。こうした精度の必要性は2016年の大統領選挙で浮き彫りになった。一般投票の得票総数ではクリントン氏が勝利しながらも、選挙人獲得ではトランプ氏が上回ったが、ここでは少数の激戦州が結果を左右した。票差はときに極めて僅差になり、ミシガン州ではわずか約1万1000票差だった。
コール氏は、今年は特に接戦で無理やり判定を下すのは危険だと指摘する。得票差があまりに小さい場合、20州と首都ワシントンでは自動的に再集計になる。幾つかの州では選挙当夜、誰が勝利したかだけでなく、票差が再集計につながるかを見極めるのさえ難しいかもしれない。
各局幹部はロイターに対し、何が分かっていて何が分かっていないかを率直に示すことが局にとって鍵になると強調した。
CNNの政治番組ディレクター、デービッド・チャリアン氏は「今年の不在者投票と郵便投票の劇的な増加を考えると、選挙当夜の開票状況について視聴者や読者に透明性を提示し続けることが一段と重要になる」と話した。
幹部らによると、当夜の選挙区からの報道だけでなく、期日前投票と郵便投票の比率予想も重視する方針。
選挙陣営が十分な証拠もなく勝利を宣言したり、テレビ局の予想に異議を唱えたりすれば、各局はそれも報道するという。当確は各局の「判定デスク」が担当し、出口調査や過去の選挙のデータ、どんどん入ってくる実際の開票結果の組み合わせに基づいて判定する。
CBSニュースのスーザン・ジリンスキー社長は「今夜はいろんなシナリオがあり得る」と視聴者にそれなりの心構えをしてもらうことも重要だと話す。「今度の選挙は全く予測不能だからだ」
(Helen Coster記者)
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