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アングル:ブラジル南部でネオナチ増加、前政権時に極右思想拡大

ロイター / 2023年6月17日 14時53分

 ブラジルではネオナチ絡みの事件が増加中だ。ボルソナロ前大統領が在任していた2019年から2023年にかけて、極右の政治思想が広がるにしたがい増えてきたという。写真は、南部サンタカタリーナ州の農村部に潜伏していたネオナチ組織「クルー38」から押収された所持品。4月24日、同州フロリアーノポリスで撮影(2023年 ロイター/Cristiano Estrela)

Steven Grattan

[イタジャイ(ブラジル) 13日 ロイター] - 2022年11月、ブラジル南部のサンタカタリーナ州イタジャイ市で、ハイチ系移民のためのイベントが開催された。だがその数時間前、主催者のアンドレア・ムラー氏のもとに、背筋の凍るようなメッセージが届いた。

ロイターが閲覧したメールの件名は「ハイチ系移民のイベントを中止せよ。さもなくば虐殺を決行する」。

文面には「サンタカタリーナは白人の、白人のための土地だ」とあり、末尾に「ジークハイル(勝利万歳)」と記されていた。ナチス・ドイツが使用していたスローガンだ。

結局、イベントは警察の立ち会いのもと、何のトラブルもなく進行した。だが、問題のメールについては州警察の捜査が今も続いており、ブラジルにおいてネオナチ絡みの事件が、まだ少数とはいえ増加中であることを示している。この種の事件は、ボルソナロ前大統領が在任していた2019年から2023年にかけて、極右の政治思想が広がるにしたがって増えてきた。

元陸軍大尉のボルソナロ氏は、1964年のブランコ政権樹立から1985年の民政移管まで続いた軍事独裁を、長きにわたり擁護。2022年の大統領選挙の際にはブラジルの投票制度について反民主主義的な攻撃を行い、国内先住民族を危険にさらしたと指摘される政策で広く批判を浴びた。

ブラジル連邦警察によると、ネオナチによる扇動とされる容疑を巡って開始された捜査の件数は2019年以降急増したが、今年になっても「かなりの増加」がみられるという。

ブラジルで1989年に制定された反人種差別法は、ナチズムを連想させるシンボルの使用を禁止しており、「ヒトラー体制に対する釈明」と見なされる言論は、表現の自由を保障する法律の対象外とされる。

警察当局によれば「ナチズムを宣伝する目的」でかぎ十字のシンボルを製造、販売、配布、誇示した容疑をめぐって行われた捜査は、今年に入ってすでに21件。ボルソナロ氏が当選した2018年には、わずか1件だった。

専門家からは、この数字だけではネオナチ問題の全国的な広がりを把握できないという指摘もある。4月にはサンタカタリーナ州の幼稚園で、おのを持った25歳の男性が子ども4人を殺害する事件が起きた。その翌日、ディーノ法相は複数州にまたがって活動していると考えられるネオナチ組織の捜査を警察に命じた。これ以前にも国内では今年2件の学校襲撃事件が発生しているが、容疑者らはかぎ十字をあしらった腕章を着用していた。

全国規模のユダヤ人団体CONIBは「過激派集団の数がかつてないほど増加している」と認識しており、「その多くがネオナチであることを公言している」という。

カンピーナス州立大学(サンパウロ州)の研究者らは、ブラジルでは2015年以降、ネオナチ組織の数が10倍以上に増加したことを確認している。研究者らは、この研究結果を紹介するユーチューブの動画の中で、ボルソナロ氏の「扇動的な」演説がそうした組織の台頭に「拍車をかけた」と説明している。

この研究結果が示す数字については疑問の声もあるが、ネオナチ組織の数が増加傾向にあること自体を疑う人はいない。

中西部マットグロッソ・ド・スル国立大学で極右問題を専門とするギルエルメ・フランコ・デ・アンドラーデ氏によると、ネオナチズムの問題は明らかに大きくなりつつあるという。

ただしアンドラーデ氏は、全てをボルソナロ前大統領の責任とすることには慎重だ。ネオナチの増殖は、汚職にまみれた左派政権が何年も続いた結果、保守主義が台頭してきたことに関係している可能性が高いと同氏は言う。

「ボルソナロ氏が何らかの主導的な役割を果たしたとすることは誤りだ」との見解をアンドラーデ氏は示した。

ボルソナロ氏の広報担当者は、コメントの要請に対して回答しなかった。

<背景には人口構成も>

ネオナチズムの問題が特に深刻なのがドイツ系、イタリア系の州民が多いサンタカタリーナ州だ。この州はブラジルで最も白人系住民の比率が高く、最新の国勢調査では84%が、自分は「白人」だと回答している。

ネオナチ団体の捜査を指揮するアルトゥール・ロペス刑事は、サンタカタリーナ州の一部住民が白人優位主義を信奉する背景には、こうした民族構成があると話している。

同州の中心都市フロリアーノポリスにあるロペス刑事のオフィスには、押収したネオナチの所持品が雑然と置かれている。同刑事はこのところ、執務時間の多くを費やして、ファシストらが警察の詮索を逃れるために集結する「ダークウェブ」(匿名性の高い特殊空間に構築された闇サイト)を監視しているという。

11月、ロペス刑事のチームは過去最大の強制捜査を決行。農村部の建物に潜伏していた「クルー38」を名乗るネオナチ組織の容疑者8人を逮捕した。そのうち数人は、ナチスのシンボルや、「ホワイトパワー(白人至上主義)」といった英語のフレーズのタトゥーを肌に刻んでいた。

チームは強制捜査の際に、赤・白・黒の旗、米国のネオナチ組織の分派「ハンマースキンズ」のハンマーのロゴの入ったTシャツ、ロペス刑事いわく「白人至上主義者のバンド」のCDを発見した。容疑者らがこうしたアイテムを欧米のハンマースキンズ支部に販売していた可能性もあるという。

担当弁護士によれば、逮捕された男性8人はその種のロック音楽を聞くのを趣味とする旧友どうしで、「反黒人や反ユダヤといった思想とは無関係」だという。この弁護士は、彼らを担当していることで殺害予告を受けたと語った。

ロペス刑事は、ネオナチ関係者をブラジルの法律のもとで起訴することは難しい場合もあると話す。ブラジルの法律は「手ぬるく」「時代遅れ」の面があり、かぎ十字以外のナチス体制を暗示するシンボルの使用や、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を否定ないし擁護する言論でも処罰されないのが普通だという。

イタジャイ市で暮らすプログラマーのタリタ・デ・アルメイダさん(32)は、11月のハイチ系移民のイベントに参加した。脅迫メール事件により、ブラジルが直面する新たな現実に気づいたと話す。

「恐怖を感じた。私は黒人で、LGBTだから」とアルメイダさんは言う。「過去に逆戻りする1歩ではないか」

(Steven Grattan記者 翻訳:エァクレーレン)

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