情報BOX:中東の戦火拡大も、イスラエルと交戦するヒズボラとは
ロイター / 2023年10月17日 15時15分
10月16日、 パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエルが戦闘状態に入ったことを受けて、レバノンの親イラン組織ヒズボラがこの数日、イスラエルと国境付近で砲火を交わし、紛争拡大の恐れが高まっている。写真は4月、ベイルート近郊で、指導者ナスララ師の発言を聞くヒズボラのメンバー(2023年 ロイター/Aziz Taher)
[ベイルート 16日 ロイター] - パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエルが戦闘状態に入ったことを受けて、レバノンの親イラン組織ヒズボラがこの数日、イスラエルと国境付近で砲火を交わし、紛争拡大の恐れが高まっている。
ヒズボラについて起源や戦闘能力、影響力など基本情報をまとめた。
<ヒズボラの起源>
イラン革命防衛隊がレバノン内戦(1975─90年)さなかの1982年に創設した。イランは79年のイスラム革命を他の中東諸国に広げようとしており、ヒズボラ創設はこの一環で、82年のイスラエル軍によるレバノン侵攻に対抗する目的もあった。
宗派がイランの主流と同じイスラム教シーア派で、レバノンのシーア派を対象に勧誘活動を行った。当初は日陰的な一派にすぎなかったが、その後レバノン政府に大きな影響力を持つ武装勢力に成長。米国など西側諸国の一部からテロ組織に指定されている。
<戦闘能力>
レバノン内戦後、他のグループが武装解除したのに対し、ヒズボラはシーア派が多数を占めるレバノン南部を占領していたイスラエル軍と戦うために武器を保持し続けた。長年にわたるゲリラ戦後の2000年にイスラエルは撤退した。
ヒズボラが軍事力の充実ぶりを見せつけたのは2006年。イスラエルに侵入して兵士2人を誘拐し、他の兵士も殺害した後、イスラエルと5週間にわたり交戦した。
ヒズボラはこの紛争中、イスラエルに数千発のロケット弾を撃ち込み、レバノンで1200人、イスラエルで158人が死亡した。レバノン側の死者の大多数は民間人で、イスラエル側はほとんどが兵士だった。
その後はイランと親密な関係にあるシリアに派兵され、アサド大統領が主導するイスラム教スンニ派の反体制勢力との戦闘を支援し、勢力を伸ばした。
ヒズボラは、精密ロケットや無人機などの兵器を備え、イスラエル全土を攻撃できると豪語している。また、指導者ナスララ師は2021年、10万人の戦闘員がいると述べている。
イランから武器と資金の提供を受けており、米国はイランからの資金供与が最近では毎年数億ドルに上ると推定している。
<今回のイスラエルとハマスの紛争における役割>
ガザを実効支配するハマスや、イランが支援する他のパレスチナの過激組織「イスラム聖戦」と深いつながりを持っている。
ハマスの武装集団がガザからイスラエルに侵入して1300人を殺害した7日には、「パレスチナの抵抗勢力の指導者と直接連絡を取っている」と表明。それ以来、イスラエルと何度も国境を挟んで銃撃戦を交わしている。
一方、イスラエル首相の安全保障政策顧問ツァヒ・ハネグビ氏は14日、ヒズボラの敵対行動は抑制的なようだと述べ、レバノンの国家崩壊につながるような行動をとらないよう警告した。
<中東地域での影響力>
ヒズボラは中東全域でイランが支援する他のグループを鼓舞し、支援する存在となってきた。イラクでは武装グループを訓練するとともに戦闘にも加わっている。
サウジアラビアによると、ヒズボラはイエメンでも親イランのフーシ派を支援し、戦闘を行ってきた。ヒズボラはこれを否定している。
<レバノンでの影響力>
レバノン国内での影響力を支えているのは高性能の兵器と、ヒズボラがイスラエルからレバノンを守っていると主張する多くのシーア派支持者の存在だ。
一方、反ヒズボラ政党は、ヒズボラが国家を弱体化させ、一方的にレバノンを武力紛争に引きずり込んでいると非難している。
レバノンにはヒズボラ出身の閣僚や国会議員がいる。
レバノンのハリリ元首相殺害事件を受けてシリアがレバノンから軍を撤退させた後の2005年にヒズボラは国内で政治的な影響力を拡大した。この事件については国連が支援する裁判所がヒズボラのメンバー3人に有罪判決を下している。
2016年には親ヒズボラの政治家ミシェル・アウン氏が大統領に就任。その2年後にヒズボラとその同盟政党が議会で過半数の議席を握った。2022年に議席は過半数を割り込んだが、ヒズボラは引き続き政治的に大きな影響力を行使している。
<西側を標的に攻撃か>
レバノンの治安当局者や欧米の諜報機関によると、ヒズボラとつながりのあるグループが1980年代に欧米の大使館などを狙った自爆攻撃や誘拐を行った。
米国は1983年にベイルートの米海兵隊施設が襲われて兵士241人が死亡した自爆攻撃や、同年に米国大使館が自爆攻撃を受けた事件はヒズボラによるものだと主張している。1983年にはベイルートにあるフランスの軍施設も自爆攻撃を受け、58人が死亡した。
ヒズボラはこうした事件への関与を否定している。
<欧米諸国の見解>
米国など欧米諸国はヒズボラをテロ組織に指定している。サウジアラビアなど中東湾岸のアラブ諸国も同様だ。
欧州連合(EU)はヒズボラの軍事部門をテロ組織に指定する一方、政治部門についてはテロ組織に指定していない。
この記事に関連するニュース
-
イスラエルとハマス、近く停戦合意か 背景に米政権交代と親イラン勢力の影響力低下
産経ニュース / 2025年1月14日 17時58分
-
米政権、イスラエルへの80億ドル武器売却案を議会に通知
ロイター / 2025年1月4日 17時24分
-
イスラエル国連大使、フーシ派に警告 「攻撃続行ならハマスと同じ運命」
ロイター / 2024年12月31日 6時35分
-
「パレスチナ問題」は、再び忘れ去られてしまうのか?... 2025年は中東和平の分水嶺になる
ニューズウィーク日本版 / 2024年12月23日 17時50分
-
シリア×イラン×ヒズボラ「シーア派の弧」破綻後の地政学図
ニューズウィーク日本版 / 2024年12月20日 15時58分
ランキング
-
1韓国大統領、取り調べで沈黙守る 録画も拒否=捜査当局
ロイター / 2025年1月15日 18時0分
-
2尹氏支持者「恥かかせる目的」と憤り=公邸前、拘束賛成派は歓喜―韓国
時事通信 / 2025年1月15日 15時21分
-
3氷点下のソウルで大統領拘束、「尹錫悦を守る」叫んだ支援者「ああ」とため息…「終わった」歓声も
読売新聞 / 2025年1月15日 13時27分
-
4韓国の尹大統領、内乱容疑で拘束 戒厳令巡り現職初、警護庁対峙も
共同通信 / 2025年1月15日 11時13分
-
5アサド政権崩壊で、もうシリア難民に保護は不要?...強制送還を求める声に各国政府の反応は?
ニューズウィーク日本版 / 2025年1月15日 14時17分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください