アングル:欧州勢が独自の検索サービス確立へ奮闘 米巨大ITに対抗
ロイター / 2025年1月18日 8時9分
1月16日、広告収入の大半を植林・森林再生活動に振り向けているドイツのユニークな検索エンジン「エコシア」を率いるクリスチャン・クロール氏は、米巨大IT企業頼みになっている欧州の検索サービスに懸念を抱いていたが、今はグーグルやマイクロソフトに対抗する新たな手段を手に入れた。写真はグーグル社のロゴ。2023年1月撮影(2025年 ロイター/Shannon Stapleton)
Adam Smith
[ロンドン 16日 トムソン・ロイター財団] - 広告収入の大半を植林・森林再生活動に振り向けているドイツのユニークな検索エンジン「エコシア」を率いるクリスチャン・クロール氏は、米巨大IT企業頼みになっている欧州の検索サービスに懸念を抱いていたが、今はグーグルやマイクロソフトに対抗する新たな手段を手に入れた。
エコシアは、フランスを拠点とするプライバシー重視の検索エンジン「クワント」と手を組み、グーグルやマイクロソフトの検索サービス「Bing(ビング)」と切り離されたバックエンドデータベース「欧州検索パースペクティブ(EUSP)」を立ち上げたからだ。
EUSPは年内に稼働する予定で、例えば利用者に対して旅行や買い物で持続可能な社会に貢献できる選択肢を優先的に表示することができる。
クロール氏とクワントを率いるオリビエ・アベカシス氏は、EUSPを通じて検索結果表示の面で欧州企業の影響力が高まることを期待している。
これまで欧州はエネルギーをロシアに、デジタル技術を米国に依存してきたと語るクロール氏は「米国がこうした重要技術の利用を遮断すれば、われわれ欧州人は『電話帳』(で検索していた時代)に戻らなければならなくなる。現時点ではグーグルないしマイクロソフトの多くのサービスの代わりは存在しない」と説明した。
EUSP計画の追い風になっているのは、欧州や米国で巨大IT企業による独占に異を唱える法的闘争が相次いでいることだ。
2024年8月には米首都ワシントンの連邦地裁が、グーグルは独占的地位を確保するために数十億ドルを費やし、反トラスト法(独占禁止法)に違反したとの判断を下した。
米司法省はグーグルに対して、閲覧ソフト「クローム」事業の売却もしくは競合相手とデータや検索結果を共有するよう圧力をかけている。
欧州でも23年に発効したデジタル市場法(DMA)により、グーグルは検索モデルの学習に利用するデータの共有が必要だ。
<検索表示の自主決定権>
スタットカウンターの調査によると、現在グーグルは検索エンジン市場におけるシェアが90%弱に上り、ビングは4%未満。その他の検索エンジンは、これら大手から高額で提供してもらうライセンス契約を結んでいる。
アベカシス氏はトムソン・ロイター財団に、マイクロソフトが23年2月にビングの検索データの対価を引き上げたことが転機になったと明かす。
「いわば、われわれは運転席ではなく助手席に座っている立場だったので、何が起きても不思議ではなかった。もっと独立的な立場を得る必要がある」と語り、クワントが独自にさまざまなウェブページからデータを採取し、それらを検索ワードに基づいて順位付けする作業を開始したと付け加えた。
EUSPは利用者の巨大ITへの依存度を下げられるだけでなく、各検索エンジンが現行方式ではなく、それぞれの優先度に応じた検索結果を表示することが可能だ。
例えばエコシアは旅行手段として飛行機より鉄道を上位に置いたり、持続可能性のある素材を使った商品を購入する選択肢をより目立つようにしたりできる。
クロール氏は「グーグルやビングの検索結果を利用すれば、われわれの結果表示もまったく同じ順位にならざるを得ない。そこかしこでウィジェット修正の機会はあるかもしれないが、それはコンテンツの根本的な変更ではない」と述べた。
EUSPでは、何年も批判の的になってきたグーグルやビングとは違った検索体験も得られるかもしれない。
スウェーデンのボラス大学のユッタ・ハイダー教授は、広く普及している検索エンジンは、売り手と買い手をつなげることで利益を得ている以上、明らかに消費を促進する方向にバイアスがかかっていると指摘する。消費こそは、最大の二酸化炭素排出をもたらす行動の一つだ。
ハイダー氏の研究からは、グーグルのアルゴリズムは透明性を欠き、利用者が旅行情報を検索すると「飛行機」「買い物」「短時間」などを提案することで、環境にやさしくない選択肢へ誘導している可能性があることが分かる。
実際グーグルで「アムステルダム パリ」と入力すると、利用手段として鉄道よりも自動車と飛行機が優先表示され、ビングでも自動車利用の距離がデフォルトで示される。
一方クワントが真っ先に表示するのは鉄道チケット予約サイトのリンクで、エコシアは予約サイトのオミオの鉄道旅行ウィジェットが出てくる。
<生成AI>
アベカシス氏とクロール氏は、生成人工知能(AI)の力もうまく利用したい考えだ。
オープンAIの「チャットGPT」と連動する文書ベースの対話型AI「エコシアチャット」は、利用者の質問に対して、より環境にやさしい回答を提供するよう指示できる。
またクロール氏によると、EUSPはエコシアチャットにリアルタイムの情報を提供することになるという。
ただハイダー氏は、生成AIツールは情報源が不明な以上、どのようなバイアスがかかっているか分かりにくいし、検索エンジン並みに消費をあおるバイアスも取り入れがちだと警告する。
AIツール自体、従来の検索モデルよりも電力消費が大きく、環境への負荷が高いとの批判もある。
クロール氏はトムソン・ロイター財団に、エコシアチャットは太陽光エネルギーで稼働しており、今後さらに太陽光や自然ベースの気候変動対策へ投資し、事業のライフサイクル全体の排出量を明確にしていくと強調した。
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