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焦点:中国の学校で一斉に「有害図書」処分、若者の思想統制へ

ロイター / 2020年7月17日 15時18分

 写真は『くまのプーさん』の中国語版や毛沢東の詩集。7月6日、北京で撮影(2020年 ロイター/Florence Lo/Illustration)

Huizhong Wu

[北京 9日 ロイター] - 新型コロナウイルスの流行を受けた制限措置が終わり、授業が再開した中国の学校で、政治的に不適切と見なされた書籍を処分する動きが一斉に進んでいる。教育システムに愛国主義と純度の高いイデオロギーを深く浸透させようという、習近平国家主席の意向を強める動きだ。

中国教育部は昨年10月、小学校と中学校に対し、「違法」あるいは「不適切」な作品を載せた本を学校の図書館から排除するよう求める指示を出した。現在、本土にある31の省・自治区・直轄市のうち、少なくとも30で教師らによる本の処分が行われている。

ロイターはソーシャルメディアへの投稿、公開されている学校・地方自治体の文書、教師へのインタビューでこれを確認した。すでに公になっている措置を検証したところ、これまでに全国で数十万冊の本が撤去された。

習政権になって以降、中国は検閲を強化してきた。専門家によると、図書館を対象にした全国規模のキャンペーンが行われるのは数十年ぶり。折しも香港では、施行されたばかりの国家安全維持法に違反していないかどうか調べるため、民主活動家の著作が公共図書館から撤去されている。

北京で活動する政治アナリストで、講師として清華大学で政治学を教えたことがあるウー・チャン氏は、「図書館を標的にする動きは文化大革命以来だ」と語る。中国では1960年代末、毛沢東の呼びかけに応じた熱狂的な10代の若者が、図書館を標的に全国規模の運動を起こし、伝統文化の広範な破壊の一環として、手当たり次第に本を処分した。

今回のキャンペーンはもっと的を絞り、かつトップからの指示に基づいている。どの本を対象にするかは、各学校の教員が上からの指示内容を解釈して決めている。時代遅れや損傷の激しい本、あるいは海賊版が中心だが、たとえ合法的に入手可能であっても機微な内容のものは対象になっている。

教育部は対象書籍をリストアップしているわけではない。違法とされるのは、「国家、主権またはその領域の統一を損なう書籍、社会秩序を混乱させ、社会の安定性を損なう書籍、党の指針及び政策に違反する書籍、党・国家の指導者及び英雄を誹謗中傷する書籍」。

不適切とされるのは、「社会主義の中心的価値に沿わない書籍、逸脱した世界観・生命観・価値観を持つ書籍」、あるいは、「宗教的な教義・規範を唱道する書籍、偏狭な国家主義及び人種主義を唱道する書籍」となっている。

ロイター は教育部、中央政府の国務院新聞弁公室にコメントを求めたが、いずれも回答は得られなかった。

農村地域の中学教師によると、彼らの学校で撤去したのは、1990年代まで中国で人気を博した「連環画」と呼ばれる中国伝統のマンガに似た絵本、キリスト教・仏教関連書。『動物農場』、『1984』という、権威主義をテーマとしたジョージ・オーウェルの名作も処分された。

書籍の検閲と撤去は4月末、司書を中心とする少数の職員が放課後に実施したと、匿名を条件に取材に応じたこの教師は語る。長いときで1日5━6時間、1週間かけて数千冊の書籍をざっとチェックし、地方政府が発行した指針を満たす約100冊を選んで撤去、実施報告書に記入したという。

「いずれにせよ、生徒が実際に手に取るような本ではない」と、この教師は言う。「もし一部の書籍を撤去せざるをえないのであれば、まずそこから手をつけることになる」

一部の学校や地方自治体は、中国の短文投稿サイト「微博(ウェイボ)」など当局の検閲対象となっているソーシャルメディアで、この運動への参加を公表している。

江西省のXianlai学校は5月、花柄の服を着た女性が本棚を整理する画像を添えて「書籍のチェック・処分は、細心の注意を必要とするが、単調な作業だ。母国の花に水をやるという重い責任を担うことになる」と、微博に投稿した。

「本校は高潔な若者を育てるために着実に行動しており、学校図書館の書籍の質をさらに高めた」

この学校の校長に電話で取材を依頼したものの、応じることはなかった。

中国では学校の電話番号は一般公開されていないが、ロイターは全国100以上の学校に電話取材を試みた。電話が通じたのは44校だった。うち23校は職員がコメントを拒否するか、電話を切った。残りは誰も出なかった。

撤去した書籍がどのような形で処分されるかは分からない、と教師らは言う。今のところ、封印され、校内の倉庫に保管しているという。

書棚の空いたスペースは、教育部の指示の中に列挙された422ページに及ぶリストの書籍に置き換えられる。推薦図書のなかには、『「共産党宣言」と「新時代」』、毛沢東の詩作、米国の奴隷制廃止に影響力のあった19世紀の小説『アンクル・トムの小屋』も含まれる。

ちなみに、中国における検閲の状況は絶えず変化している。推薦図書の1つに、児童文学の古典『くまのプーさん』がある。だが、これまで「プーさん」の姿を習主席になぞらえるネット投稿は、検閲の対象だった。中国は2018年、ウォルト・ディズニーが申請した「プーさん」映画の上映許可を却下している。

<イデオロギー上の危険>

2012年に国家主席となった習氏は、中国共産党の強化とそのイデオロギーを再確認するキャンペーンを主導してきた。2013年、中国共産党は「9号文件」と呼ばれる文書を幹部に配布した。西側諸国から流入し、中国社会を脅かす7つの危険思想として、「普遍的価値」、「憲政民主主義」、「公民社会」など、中国国内で一般的に使用され、話題に上るようになった言葉を挙げた。

2018年、教育に関する最高会議の場で、習主席は国内教育が直面する課題について語り、9つの決議を行った。

党機関紙に発表された演説要旨によれば、習主席は「(中国は)教育における党の完全なリーダーシップに向けた基本的な要件を深く理解し、強化すべき」と指摘している。

当初、重点が置かれたのは大学だった。2017年以降、多くの高等教育機関は「習近平思想」と称する習主席のイデオロギーをカリキュラムの中心に据えることを求められた。政府は各大学に、習近平思想に関する研究センターを設けることを義務付けた。

その後、この動きはもっと若い世代の教育にも広げられた。政府は2018年、義務教育9年間の教科書から、未承認の外国の素材を排除するキャンペーンを開始した。

図書の処分を命じた昨年10月の教育部の指示は、新たに入ってくる書籍すべてを検査する情報管理システムを完成させることを学校に求めている。問題が生じた場合、その書籍を推薦した者、書籍を使うことを決定した者双方が責任を問われることになる。

「若者の精神を勝ち取ることは、党にとって最重要事項の1つだ」と、前出の政治アナリスト、ウー氏は言う。

香港で昨年起きた大規模な抗議活動を見れば、中国が若い世代の教育を厳しく統制することに執着する理由が見えてくる。

共産党の機関紙・人民日報は、香港の教育を「毒されていた」と表現した。国営メディアはここ数カ月、香港における市民教育の伝統を攻撃する論説を何度も掲載している。

「あれほど激しい抗議行動が起きたのは、香港で愛国教育が行われていなかったからだ」──それが共産党の見解だと、復旦大学(上海)のSun Peidong教授は言う。

<現代の「焚書坑儒」>

書籍をいち早く撤去した省の1つが、西部の甘粛省だ。小さな自治体の鎮原県で12月、2人の女性が図書館の前で書籍を焼却、その写真がネットで拡散した。焼却処分はウェイボ上で広く批判を浴びた。

中国で「焚書坑儒」が行われている、とする投稿もあった。「焚書坑儒」は2000年以上前の紀元前、秦の始皇帝が政治的に危険と見なした本を焼き、儒学者を生き埋めにするよう命じたと伝わる政策だ。

甘粛省は教育部の指示に従うよう省内に通達を出していたが、本を焼いて批判を浴びた司書らが、キャンペーンに参加していたかどうかは確認できていない。鎮原県は当時、本の焼却は法令を順守したものではないと述べていた。

その後、書籍の焼却を言い広める学校は出ていないが、ロイターは4つの地域の学校・地方政府が撤去した書籍の数を公表していることを確認。このわずかな例だけでも合計6万冊以上に上ることが分かった。

例えば南西部の雲南省安寧市は、合計1万6365冊を撤去したことをソーシャルメディアに投稿した。1835冊を「不適切」、1万4530冊を「損傷が激しい、または無価値」としている。

上海近郊の舟山市は、100校で1万1871冊を処分した。浙江省が発行している教育専門誌によれば、「古く時代遅れの内容で学生が読むにはふさわしくないもの、または損傷が激しく保存する価値がないもの」だという。

地元メディアの報道によると、中部の河南省西峡県は複数の学校で計6000冊を「不適切または損傷が激しい」として、2万2700冊を「無価値」として処分した。

教師たちによると、農村地域の学校図書館は多くが小規模で、機微な書籍を数多く所蔵しているわけではない。だが、書棚に並ぶ本は時代遅れだったり、海賊版であることが多い。

蔵書の一部はバラバラになりかけていると、甘粛省のある教師は話す。この教師が勤務する農村地域の学校は、約80冊を撤去した。書籍は倉庫に保管してあるという。

<文化大革命の遺産>

農村地域のある学校は『1984』、『動物農場』を撤去したが、いずれも中国国内の書店やオンラインで入手可能だ。処分した書籍のなかには、文化大革命時代の「連環画」絵本も含まれているという。

文化大革命中のある時期の「連環画」には、毛沢東の政敵や孔子など、習主席によって再評価された人物を批判したものがある。文化大革命の扱いはここ数年、慎重な扱いが必要なテーマとなっている。

復旦大学のSun教授は文化大革命期の歴史が専門だが、2015年以降は検閲が厳しくなったと話す。パリに住む彼女は2019年、長年担当した文化大革命期に関する講座を止め、史学部を辞任した。

Sun教授は、「(当局は)中国の一般国民、特に若い世代に文化大革命について知ってほしくないと考えている」と話す。

復旦大学史学部長はロイターの取材に対し、Sun教授の辞任は個人的な理由による自発的なものとしている。

(翻訳:エァクレーレン)

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