焦点:国内航空大手、対策徹底で旅客の呼び戻し図る
ロイター / 2020年6月18日 16時8分
6月18日、緊急事態宣言の解除後、航空旅客に需要回復の兆しが見えつつある。写真は4日、羽田空港でフェイスシールドなどを着けて乗客を案内する全日空の従業員(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
新田裕貴
[東京 18日 ロイター] - 緊急事態宣言の解除後、航空旅客に需要回復の兆しが見えつつある。航空各社は乗客の不安を和らげようと、新型コロナウイルスの感染防止対策を空港や機内で徹底する構えだ。国の需要喚起策も下支えになるとみられる国内線の需要回復は来年にも可能だが、一部で深刻化している海外での感染拡大への不安などにより、国際線は3―4年かかるとの声が聞かれる。
<今後も感染リスク増の懸念>
6月に数回、全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)両方の国内線を仕事で利用した東京都在住の会社役員、菅慎太郎さん(42)は、客室乗務員が手袋・マスクを着けている様子などをみて「不安はなかった」と話す。
カウンターの消毒、マスクの着用や社会的距離の確保の要請――。羽田空港で勤務する地上職員は、コロナ感染拡大前と今では業務に「かなりの差を感じている」と、戸惑いを隠せない。それでも各社のこうした対策は少なからず顧客の信頼を得ているようだ。
社会・経済活動の再開を受け、ANAやJALなどは減便・運休していた国内線の一部を復便した。各社は終息時期の見えないコロナと共存しながら乗客の安全・安心を確保する方策を模索している。
JAL執行役員で路線統括本部商品・サービス企画本部長の佐藤靖之氏は17日、ロイターなどとの取材で、感染防止対策は顧客の安心確保が第一目的だが、需要回復に「少しでも効いてほしい」と期待を寄せた。
緊急事態宣言の発令中、JALの国内線予約数は前年同期比で数%台にまで落ち込んだが、解除後は10%以上に回復してきた。「ビジネス客を中心に徐々に戻ってきている」と会社側も手応えを感じている。
ただ、乗客の不安を完全に払拭するのは容易ではなさそうだ。JALの客室乗務員は、荷物を頭上の棚に入れるのを手助けする際「乗客に一歩後ずさりされる時がある」と打ち明ける。別の客室乗務員によれば、機内食を口にしない乗客もいるという。
今後のさらなる感染リスク拡大も懸念される。乗客の菅さんも、利用者がさらに増えた場合に「対策が追い付くのかは不安だ」と話す。JALの国内線を6月上旬に利用した高橋良多さん(35)も、手荷物検査場などが密になりかねないと心配している。
<国内線の需要回復は1―2年後>
もっとも、各社による感染防止対策の徹底と乗客の協力が広がれば、国内線の需要は1―2年程度でコロナ前の水準に回復するとの見方が多い。JPモルガン証券の姫野良太シニアアナリストは、各社の対策は「需要回復に一定程度の効果がある」と指摘。機内は「3密」のイメージが先行しやすいが、消毒など対策内容や空気循環システムが理解されれば「飛行機を安心と思い、利用する人は増える」とみている。
航空事業の指標の1つである座席利用率(ロードファクター)がコロナ前の水準に戻るのは2021年度下期と姫野氏は予想。訪日客が見込みにくい一方、国の需要喚起策「GO TO キャンペーン」を背景に国内旅行が盛んになるとみるためだ。
航空経営研究所の橋本安男主席研究員は「航空需要はGDP(国内総生産)の動きに連動する」と指摘する。経済協力開発機構(OECD)は、感染第1波で収束した場合、日本の21年実質GDPの成長率はプラス2.1%で、20年のマイナス6.0%からは回復基調になると予測している。橋本氏は、急激な落ち込みの後に徐々に需要を取り戻す「チェックマーク型」の軌道で回復するとみている。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の土谷康仁シニアアナリストは、コロナが一足先に落ち着きを見せたことで旅客需要が回復してきた中国と同様の動きが日本でも見込まれるとし「来年度には、コロナ以前(の需要水準)に戻る」と予想する。
中国民用航空局によると、5月の旅客数は前年同月比52.6%減で、4月の68.5%減から緩やかに回復している結果となった。
<国際線の需要回復は3―4年後>
一方、第2波のリスクがあるほか、各国の出入国制限解除の時期が不透明なため、国際線が回復するには3―4年ほどかかるとみられている。ANAとJALは、7月の国際線も当初計画の9割超の減便・運休を続ける。国際航空運送協会(IATA)も5月中旬、国際線需要が19年の水準に戻るのは24年ごろになるとの見通しを示した。
日本はまずタイなど4カ国と出入国制限緩和に向けた協議に入ったが、航空経営研究所の橋本氏は「需要回復への道のりは長く、緒についた段階にすぎない」と見る。
テレワークの普及も需要回復の逆風になる恐れがある。費用のかかる海外出張をテレワークで代替する動きが広がれば「コロナ前(の需要水準)に戻るのは難しい」とJPモルガン証券の姫野氏は考える。
岡三証券の山崎慎一シニアアナリストは「ワクチンなどの解決策がない限り(回復の)門は開きにくい」と指摘する。とりわけリスクに慎重な国民性の日本人は、海外渡航を抑制しやすいと予想している。
JALとANAは、国際線の復便や需要回復の時期について、現時点で回答できないとしている。
(編集:白木真紀、平田紀之)
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