焦点:大麻から宇宙旅行まで、「テーマ型ETF」人気に警戒感も
ロイター / 2021年2月18日 12時26分
2月12日、キャットフードから大麻に至るまで、ニッチな急成長分野の株式に投資できる「テーマ型」上場投資信託(ETF)が大人気だ。ニューヨークで2017年3月撮影(2021年 ロイター/Brendan McDermid)
[ロンドン 12日 ロイター] - キャットフードから大麻に至るまで、ニッチな急成長分野の株式に投資できる「テーマ型」上場投資信託(ETF)が大人気だ。あまりの価格高騰ぶりに、市場を不安定化させかねない資産バブルが、また1つ加わったとして警戒感も生じている。
最近は、個人投資家によるゲームストップ株投機が見出しを賑わわせたばかり。だが、ETFへの怒濤の資金流入でも主役を担っているのは個人だ。リフィニティブによると、ETFの資産規模は昨年1兆ドル以上膨らんだ。
特に顕著なのは宇宙旅行からペットのケア、大麻、医療技術に至るまで、社会や経済のトレンドに乗ったテーマに賭けて「一攫千金」を狙うETFの膨張ぶりだ。
シティのアナリスト、スコット・クロナート氏によると、こうしたテーマ型ETFの運用資産は昨年2倍以上に膨らみ、1400億ドルとなった。資金の流入ぶりは「放物線に近い」という。
シティによると、欧州・中東・アフリカ(EMEA)のテーマ型ETFだけでも今年に入って40億ドルが流入。クロナート氏は「投資家が的を絞ったポジショニングを求め続けて」おり、流入額はさらに膨らむだろうと予想した。
電気自動車(EV)のテスラ、決済サービスのスクエア、遺伝子治療薬開発のクリスパー・セラピューティクスなどに投資する著名テーマ型ETF、「ARKイノベーションETF」は昨年3月以来350%も値上がりした。
宇宙関連銘柄に投資する「プロキュア・スペース」ETFとペットケア関連の「プロシェアーズ・ペット・ケア」ETFも目覚ましい上昇ぶりを演じている。
一方、環境関連銘柄に投資する「iシェアーズ・グローバル・クリーン・エナジー」ETFは275%上昇。米新政権が大麻使用を合法化するとの思惑から、大麻をテーマにしたETFも絶好調だ。
オンライン取引のeToroによると、同社のプラットフォームでは昨年、ETFポジションの開設件数が世界で400%以上も増えた。個人投資の「とてつもない拡大」という大きな流れの一環だ。
コンサルタント会社・ETFGIの共同創設者、デボラ・ファール氏は「個別銘柄や総合的な指数に投資するよりテーマ投資の方が簡単なので、革新的なIT企業やゲーム、バイオ技術といった分野が個人投資家に人気を博している」と語る。
テーマ型ETFは相対的に手数料が高いにもかかわらず、この人気ぶりだ。当局への申請書類を見ると、ブラックロックの代表的ETFの1つ「S&P500指数ETF」の手数料率が0.04%なのに対し、ARKイノベーションETFは0.75%となっている。
上場投資商品全体の市場規模8兆ドルに照らすと、テーマ型ETFはまだ、小さな一角に過ぎない。それでも市場を不安定化させると警戒する声が、一部投資家から出ているのはなぜか。
それはETFのようなパッシブ投資が採用する「オートパイロット(自動操縦)」モデルに一因がある。値上がりし、指数組み入れ比率も高まっている銘柄をさらに買い増すモデルだ。
空売りを手がけるマディー・ウォーターズ・キャピタルの創設者、カーソン・ブロック氏はこのほど、英フィナンシャル・タイムズ紙のコラムでオートパイロットの弊害について指摘。ひとたび資金が流出に転じると、ETFの提供企業は株式を売って資金償還要求に答える必要があるため、売りが売りを呼び、受動的な売りが「あっという間に市場を圧倒」しかねないと警告を発した。
一握りの銘柄に絞ったテーマETFでは、こうしたリスクが増幅するかもしれない。サクソ・バンクのアナリストノートによると、ARKイノベーションETFを運営するARKインベストは、一部企業の発行済み株式の10%以上を保有している。特にバイオ技術分野で顕著だ。
ソシエテ・ジェネラルのETF調査責任者、セバスチャン・ルメール氏は、資金流入のペースも心配だと語る。「記録的な資金が流れ込んでいるETFの一部は、比較的限られた数の銘柄に集中投資している」からだ。
投資資金の流出やインデックスリバランス(指数における資産配分の調整)を機に資金の流れが逆転すると、取引高の少ない小型銘柄の株価が打撃を被りかねない。
しかも、複数のファンドが投資している企業もある。シティによると、テスラに投資しているテーマ型ETFは少なくとも27本、半導体企業のエヌビディアは45本だ。
テーマ型ETFは増大を続けている。モーニングスターによると、昨年は欧州におけるテーマ型ETFの新規設定が17本あったほか、テーマ型ETF専門の米グローバルXは世界中で6本のETFを立ち上げた。投資対象はゲーム産業から遠隔医療まで多岐にわたる。
対象銘柄の騰落率を3倍に増幅させる「3倍ブル、3倍ベア」という取引戦略を用いるETFもあり、これらのETFではさらに極端なリスクの集中が起こりかねない。
モーニングスターは調査リポートで、過去の経緯をみると、テーマ型ファンドが「長期的に生き残るのは難しく、世界的な株価指数をしのぐパフォーマンスを示すのにも苦戦してきた」と指摘した。
(Saikat Chatterjee記者、Thyagaraju Adinarayan記者)
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