焦点:「トランプ・トレード」活発化、減税・規制緩和・物価高織り込む
ロイター / 2024年7月19日 7時36分
11月の米大統領選でトランプ前大統領が再選を果たすシナリオに賭ける「トランプ・トレード」が活発化している。写真は共和党全国大会に出席するトランプ氏。16日、ウィスコンシン州ミルウォーキーで撮影(2024年 ロイター/Andrew Kelly)
Saqib Iqbal Ahmed Davide Barbuscia
[17日 ロイター] - 11月の米大統領選でトランプ前大統領が再選を果たすシナリオに賭ける「トランプ・トレード」が活発化している。ここ数週間ではトランプ氏の2期目の政策が企業業績を押し上げるとの見方と長期的に財政悪化につながるとの懸念の双方を織り込む動きとなっている。
株式市場の投資家は、減税や規制緩和などトランプ氏の政策の恩恵を受ける可能性のある小型株やエネルギー株に資金を集中させている。こうした選好と、米連邦準備理事会(FRB)が数カ月内に利下げを行うとの見通しが相まって、大型テクノロジー株から出遅れ銘柄にシフトする循環物色が活発化している。
一方で国債市場では、一部の投資家が税収減と歳出増による財政への影響を懸念し、長期国債の保有を減らしている。英マーチャントバンクのクローズ・ブラザーズは、トランプ氏が2期目を務めることになれば政府借り入れが10年間で4兆─5兆ドル増加すると試算。インフレが加速し、国債価格の重しとなる可能性があると指摘する。
多くの投資家は、最終的には金融政策と企業利益が資産価格の長期的な決定要因となり、政治は影をひそめると考えているほか、11月の選挙まで状況が大きく変わる可能性もある。それでも最近の動向は、市場がトランプ再選の可能性にどう対応しているかを示すものだ。
<再選確率上昇で株高>
オンライン賭けサイト「プレディクトイット」の掛け金に基づくトランプ氏の再選確率は16日時点で69%と、1カ月前の53%から上昇。民主党の現職、バイデン大統領は28%と、6月半ばの44%から低下した。
ロイター/イプソスが15─16日に行った調査では、登録有権者の間での支持率ではトランプ氏が43%、バイデン大統領は41%と、小幅にリードしていることが分かった。
市場が織り込むトランプ氏再選確率の上昇に伴い、小型株から暗号資産に至るまで幅広い銘柄が上昇。一例は刑務所を運営するジオ・グループで、バイデン氏の不調が目立った6月下旬の討論会以来33%上昇している。トランプ氏が不法移民を取り締まると公約しており、これにより収容施設の需要が高まる可能性がある。
また、13日のトランプ氏暗殺未遂事件を受けて同氏が勝利するとの見方が高まり、暗号資産ビットコインも上昇。これを受け、暗号資産マイニングのライオット・プラットフォームズは週初から30%急騰している。トランプ氏は民主党の暗号資産規制に向けた取り組みを批判してきた。
小型株で構成するラッセル2000指数は討論会以来11%上昇している。トランプ氏が税金を低く抑えるとの期待や9月の利下げ観測で投資妙味が高まっている。一方、代表的な株価指数であるS&P総合500種の同期間の上昇率は3.4%にとどまっている
アネックス・ウェルス・マネジメントのチーフエコノミスト、ブライアン・ジェイコブセン氏は「トランプ・トレードは国内企業に有利な経済成長加速の見通しを中心に展開されている」と指摘した。
ヘッジファンドに投資するK2アドバイザーズの最高投資責任者、ロバート・クリスチャン氏は、多くのヘッジファンドがトランプ氏の勝利に備え、規制緩和の恩恵を受けそうなエネルギー企業や金融機関への投資を増やしていると述べた。
市場が織り込むトランプ氏再選の確率が高まるにつれて下落している銘柄もある。トランプ氏が輸入関税を発動した場合に大きな打撃を受ける可能性がある欧州の自動車メーカーなどだ。
<長期債に弱気見通しも>
一部の債券投資家は、トランプ氏の2期目は輸入関税引き上げや放漫財政、税収減によりインフレが上昇し、財政赤字が拡大することを懸念している。トランプ陣営は、成長促進策により金利が低下し、財政赤字が縮小すると主張している。
国債利回りは米経済指標が示す景気軟化の兆候を受けた利下げ観測を背景に、ここ数週間低下している。ただ、トランプ氏が選挙戦で優勢になったとの見方で利回りが急上昇(価格は下落)する場面も何度かあった。
例えば討論会後にも債券売りが先行し、指標となる10年債利回りは2日間で約20ベーシスポイント(bp)上昇したが、その後低下に転じた。
米マクロ・ヘッジファンド、トロウ・キャピタル・マネジメントのスペンサー・ハキミアン最高経営責任者(CEO)は、減税や関税がインフレを加速させるリスクがあるため、長期債安を見込む。
暗殺未遂事件を受け「共和党圧勝の可能性が高まっていることを踏まえると、利回り曲線の長い年限の上昇を織り込むのは完全に理にかなっている」と述べた。
それでも、FRBの金利政策などの要因が最終的に資産価格の決定要因になるとの見方も一部にある。UBSグローバル・ウェルス・マネジメントのアナリストは、投資家に対し「質の高い」債券と成長株に資金を投じるよう助言した。
「米国の政治情勢が選挙までの期間の市場動向に影響する可能性はあるが、投資家は技術進歩と低金利環境に備えてポートフォリオを調整することに力を入れるべきだと考えている」と述べた。
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