アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正規労働者頼み
ロイター / 2025年1月18日 12時51分
フィリピンの首都マニラのある川沿いの地区は、コロナ禍の時期に捨てられたマスクやペットボトルのごみに悩まされた。写真は、がらくたを扱う店でペットボトルを仕分ける女性。2024年11月、マニラ首都圏のケソン市で撮影(2025年 ロイター/Eloisa Lopez)
Mariejo Ramos
[マニラ 14日 トムソン・ロイター財団] - フィリピンの首都マニラのある川沿いの地区は、コロナ禍の時期に捨てられたマスクやペットボトルのごみに悩まされた。そこで地元のコミュニテーが立ち上がり、独自のごみ処理事業を設立。女性を中心とした従業員には生活向上のチャンスが生まれている。
「タグムパイ83ごみゼロ協同組合」は、街路清掃員や運転手、河川保護官からなるネットワーク。地域住民5700人に加え、近隣24の村と5つの学校からリサイクル可能なごみを回収し、リサイクル施設に売却して収益を得ている。
「バランガイ830」と呼ばれる自治体でごみ回収を担う非正規労働者の協同組合で代表を務めるキャサリン・ガブリエル氏は、トムソン・ロイター財団の取材に対し、この組合は「プラスチックごみを削減するだけでなく、参加者にとっては家計の足しにもなっている」と語る。
国連人間居住計画(ハビタット)は、事業拡張に向けて、この団体を含むマニラ市内の2つの地域団体に研修と資金を提供する。
毎年発生する膨大な量のごみへの対処に向けてフィリピンが投じているリソースは十分とは言えず、ほとんどのコミュニティーではごみ回収・再利用が難航している。2020年には1805万トンのごみが発生し、2025年には2361万トンに達する見込みだ。
ごみ問題に対処するのは村やバランガイと呼ばれる近隣自治体の行政部門だが、業務を支える資金や経験豊富な職員、インフラは不足している。地域団体がそのギャップを埋めることも多いが、スタッフは低報酬で雇用の保証も期待できない。
バランガイ830の協同組合は、NGOやハビタットからの資金支援を受け、設備購入や施設運営を行っている。ガブリエル氏は、協同組合の収入だけでは収集トラックの購入やオフィスの維持が難しいと話す。
フィリピンは持続可能な生産・消費習慣を促すために、今年1月を「ごみゼロ月間」としている。2030年までに産業廃棄物・使用済み包装ごみの自然界への投棄をなくすという取組みの一環だ。
このキャンペーンに関する政府のポスターでは、「民間のごみ処理部門で持続可能性と循環性を実現する」というテーマが掲げられている。
だが、フィリピンではごみ処理に携わる非正規の労働者が現在のリサイクル実践の柱となっている。彼らがどのように関与するのかは不透明だ。
<ごみ処理のギャップ>
ごみ処理のギャップを埋めるため、フィリピンは4万2000カ所のバランガイと村に資源回収施設と分別ごみ戸別収集体制の整備を求めているが、国家監査委員会によれば、これらを備える村は39%に過ぎない。
地域のごみ処理は、国内で10万人以上とされる非正規労働者に託されていることが多い。その中には収入が1日1ドル以下という労働者もいる。
環境天然資源省は、ごみ回収従事者の権利保護を強化し、「回収・分別施設を公式な事業に変えていきたい」と述べる。
フィリピン南部のネグロス島の都市ドゥマゲテでは、2018年、アロハ・サントスさんをはじめとするごみ回収労働者が、ごみと汚染の抑制に取り組むNGO「マザーアース財団」による研修を受けた。
同NGOによる支援を1年間受けた後で、地元の行政当局がその実務を引き継ぐはずだった。
「だが結局、バランガイは経費を負担できず、回収用の袋やグローブ、ブーツなどの備品は自分で用意した。家庭から粗大ごみを回収するときでも自転車しか運搬手段がない」と、サントスさんは言う。
サントスさんら女性のごみ回収労働者は、1日400世帯を対象とするグループを結成し、生物分解性のごみ、プラスチックごみを回収しているが、防護具が十分に揃っていない場合も多い。
このグループが徴収する料金は1世帯あたり月50ペソ(約133円)、つまり1ドルにも満たない額だ。
地元当局からは独立しているため、メンバーはごみ1袋あたり3ペソを当局に納めなければならない。フィリピンの法律では、「(公式回収の対象である)リサイクル可能素材の無許可回収」を禁じている。
労働者の権利擁護活動を進めるサントスさんは、「埋立地に送られるプラスチックごみを減らすことに貢献しているのに、適正な報酬をもらっていない。私たちは、製造企業のために文字どおり汚れ仕事を引き受けている」と語る。
フィリピン政府は2022年、プラスチック包装メーカーとブランドに自社製品の回収・リサイクルの経済的な責任を負わせる法律を制定した。サントスさんによれば、こうした製造物責任規則の拡大に向けた議論からは、実際にごみ処理を担う非正規の労働者は排除されたという。
「たとえば、回収したごみをプラスチック排出権市場で販売すると現実にはどれくらいの価値になるのか、私たちには知らされていない」
<労働者の権利>
フィリピンでは、非正規のごみ処理従事者は、基本的な廃棄物の分別にさえ苦労している地域社会に対し、予算を抑えた解決策を提供していることが研究で示されている。
だがこうした労働者は、健康面、安全面でのリスクにさらされている。
昨年2月、1000人以上の組合員を抱える12のごみ処理労働者団体が法的な保護を推進する全国連盟を結成した。
サントスさんを代表とする全フィリピンごみ処理労働者連合は、危険手当など労働安全対策や健康保険、雇用保証に加えて、研修や政策策定への参加を求めている。
昨年4月にはある上院議員が、ごみ処理を担う非正規労働者の要求を盛り込んだ「ごみ処理労働者のための大憲章」法案を提出した。
環境保護団体はプラスチックごみの減量に向けた国際条約の制定を要求し、非正規労働者もその枠組に加えることを呼びかけている。だが、そうした合意の形成に向けて国連の後押しを受けた取組みは、昨年、不成功に終った。
グリーンピース東南アジア支部でごみゼロキャンペーンを担当するマリアン・レデスマ氏は、こうした条約の策定が遅れれば、ごみ処理労働者は保護を受けないまま、危険な状況下で働き、プラスチックを焼却する有毒な煙にさらされるままとなる、と語る。
「ごみ処理労働者は差別され、社会から置き去りにされている」とレデスマ氏は言う。「ごみ処理労働者はごみ削減の計画や実施に対して発言権を持ち、プラスチックの時代が終わりに向かう中で、まともな就業の機会を得られるようにするべきだ」 (翻訳:エァクレーレン)
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