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焦点:米テスラ「ギガキャスト」高度化へ、静かに進む技術革新

ロイター / 2023年9月19日 18時29分

 9月14日、米電気自動車(EV)大手テスラは、車体の主要構造部分を1回のダイカスト鋳造プレスで成型する「ギガキャスティング」と呼ばれる技術のパイオニアだ。写真は同社のイーロン・マスクCEO。パリで6月撮影(2023年 ロイター/Gonzalo Fuentes)

Norihiko Shirouzu

[オースティン(米テキサス州) 14日 ロイター] - 米電気自動車(EV)大手テスラは、車体の主要構造部分を1回のダイカスト鋳造プレスで成型する「ギガキャスティング」と呼ばれる技術のパイオニアだ。この手法は生産の効率化や生産コストの削減につながることからライバル企業はテスラに追い付こうと必死だが、テスラがさらなる高度化を進めていることが関係者5人の話で明らかになった。

テスラは「モデルY」の前部と後部の筐体を一体成型するために6000トンから9000トンの加圧力を持つ巨大な鋳造プレス機を使っている。

同関係者らによると、テスラはプラットフォーム(車台)と呼ばれる複雑な車体下部のほぼ全てを一体成型する革新的な技術の実用化に近づいている。自動車の下部は約400点の部品で構成されており、これが1つになればテスラは競合他社とのリードをさらに広げることになる。

この手法はイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が3月に打ち出した「アンボックスト」(自動車各部を一程程度のまとまった部品として造り、後で一体化して車両として組み立てる手法)という製造戦略の中核を成し、今後10年間で数千万台の安価なEVを生産しつつ、利益を上げるという計画の要だという。

米ケアソフト・グローバルのテリー・ウォイコウスキー社長は、もしテスラが車体下部のほとんどをギガキャスティング化することに成功すれば、自動車の設計・製造方法の変革がさらにと進むとみる。「ものすごく強力な手法だ。業界に大きな影響を及ぼし得るが、非常に困難な課題もある」と話る。「鋳造はかなり難しく、特に大型で複雑なものほど困難だ」と言う。

関係者2人によると、テスラは新たな設計・製造技術で車両の開発期間を18―24カ月に短縮し確立できると解説した。今のところライバルの多くは3年から4年を要している。

関係者5人によると、テスラが2020年代半ばまでに2万5000ドルで発売しようとしている小型EVには、前部と後部、そしてバッテリーが搭載される中央の底部を組み合わせた単一の大きなフレームが使われる可能性がある。

テスラは早ければ今月中にもこのプラットフォーム(車台)をダイキャストで一体成型するかどうかの決断を下すと見られている。関係者3人は、計画がこのまま進んでも設計検証の結果次第では最終製品が変更される可能性があると述べた。

ロイターはこの記事を配信するに当たりテスラとマスク氏にコメントを求めたが、回答はなかった。

<3Dプリンターと砂>

テスラの技術の核は、大きな部品を作るための巨大な金型をどう設計し、大量生産に向けて試作テストするかにある。車体の軽量化と衝突安全性を両立するため、補強リブの入った空洞のサブフレームをどのように成形するかということも重要だ。

関係者5人は、いずれの技術も英国、ドイツ、日本、米国の鋳造の専門会社によって開発され、3Dプリンターと工業用の砂が関わっていると明かす。

自動車メーカーはこれまで大きなパーツの鋳造を避けてきた。1.5メートル四方より大きいパーツ用鋳型を作れば効率は上がるが、コストがかさみ、品質保証などの無数のリスクを伴うためだ。

鋳造の専門会社によると、大型の試験のためのダイカスト鋳型をいったん作り、試作過程で機械的な微調整を行うと1回当たり10万ドルかかる。鋳型を全て作り直すと150万ドルに上ることもある。別の専門会社によると大型金型の設計プロセス全体は通常400万ドルほどかかる。

騒音や振動、製造品質、人間工学や衝突安全性の観点から「完璧な」金型を作り上げるには、設計段階で6回程度、もしくはそれ以上の調整が必要になる可能性がある。

テスラは課題を克服するために3Dプリンターを使い工業用の砂から試験用鋳型を作る技術に目をつけた。工業用の砂と液体の結合剤(バインダー)を交互に噴射して層を積み上げる「バインダージェット」と呼ばれる技術で、溶融合金を鋳造できるテスト鋳型を作り出していく。

砂を使った鋳造による設計検証にかかるコストは、仮に調整を何度も繰り返したとしても、金属のダイカスト金型で試作した場合のわずか3%だという。

設計検証サイクルは金型試作モデルでは6カ月から1年かかるが、砂を使うと2─3カ月だと、関係者2人は明かす。

<ギガプレスの選択>

自動車下部にサスペンションやエンジンなどを固定するのに必要なサブフレームは、軽量化と衝突安全性の向上のため通常はその構造の中が空洞になっている。現在は複数の部品をプレスして溶接し、中央に空洞が残るように作られている。

テスラは進化型ギガキャスティングの一環として、バインダージェット技術を使って成形した空洞を持つサブフレームを一括鋳造することを計画している。

しかし、鋳造品の製造に使われるアルミニウム合金は、砂を使った鋳造と金属による鋳造で製品の挙動が異なり、砂鋳造と3Dプリンターを使った鋳造の型の試作品では衝突安全性などの面でテスラの要求する基準を満たせないことが多かった。

関係者3人によると、特殊合金の配合、溶融合金の冷却過程の微調整、さらに製造後の熱処理によってこの課題を乗り越えたという。

車体フレームにどのような複雑な構造を含めるかによっても、どのようなギガプレス機を選択するかが重要になる。

巨大なパーツを素早く成形するには1万6000トン以上の加圧力を持つ、これまでより大型の機械を新たに導入しなければならず、コストが増し、さらに大きな工場が必要になる可能性もある。しかも鋳造部品が大きくなることで発生する品質上の問題にも直面する。

加圧力が大きな機械の問題は、サブフレームの内部を空洞にするために必要な中子(なかご)と呼ばれる、鋳型の中にはめ込む砂型が使えないことだと、関係者3人は指摘する。

もう一つの方法は、溶融合金をゆっくりと流し込む異なるタイプのギガプレス機を使うことだ。そうすれば中子も使用可能になり、より品質の高い鋳造品を作ることができるという。ただ、融解合金の充填(じゅうてん)や中子の制作などの手間がかかり、成形に時間がかかることが問題点となる。

「生産性のために高圧の機械を選択するか、ゆっくりと合金を流し込んで品質を上げるか、どの選択肢を採用するか現時点では予測が難しい」と、関係者の1人は言う。

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