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焦点:従業員に「株式報酬」、日本でも 普及に制度後押し不可欠

ロイター / 2023年9月20日 8時11分

 9月20日、役員を対象に活用されてきた「株式報酬」が一般従業員向けにも広がりつつある。都内の株価ボード前で2022年12月撮影(2023年 ロイター/Issei Kato)

Ritsuko Shimizu Makiko Yamazaki

[東京 20日 ロイター] - 役員を対象に活用されてきた「株式報酬」が一般従業員向けにも広がりつつある。米英など海外では一般的になっているが、日本でも人材確保や従業員の意識向上などに着目する企業が導入に動いている。政策保有株解消の受け皿として有用な面もある。同時に、さらなる普及には制度面での後押しが必要、との指摘が専門家から出ている。

コロナ禍で大きく業績が悪化し、将来の会社を支えていく30―40代の社員の退社に見舞われたANAホールディングス。2023年3月期に黒字化を果たし、3カ年の中期計画のスタートとして従業員向けの株式報酬制度の導入を決めた。従業員持ち株会に入っている社員ひとりに100株(29万3000円)を11月に割り当てる。

対象となるのは全日空社員約1万8000人とグループ会社社員2万6500人の約4万5000人規模にのぼる。このうち持株会に入っている従業員(約7割)に付与される。

グループ総務部の鷹野慎太朗部長は「譲渡制限が付いている3年間、会社を辞めずに中計の達成に向け頑張り、企業価値を上げる意識を持ってもらえる。株主、投資家にとっても、従業員が株主目線で業務に従事することはポジティブに受け止められている」と話す。大手企業が手放す政策保有株を相対で引き受け、それを原資にしており「社員が安定株主となってくれる」というメリットもある。

野村証券によると、従業員向けの株式報酬制度の導入企業は23年6月末時点で966社となり、18年から5年で倍になった。これは、上場企業3982社の約4分の1に相当する。株式による報酬は、コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)を受け、税制の整備や法整備も進み、役員向けに導入が進んできたが、ここにきて、人的投資に加え政策保有株の解消の受け皿など多様な観点から、従業員向けへと広がっている。

オムロンでは、従業員持ち株会を活性化させたいとの狙いもあり導入。それまで60%程度だった持ち株会の加入率は90%超に上昇した。人事部の谷村仁志部長は「社員の意見も肯定的なものが多い」と言い、来年度の中計最終年度に業績が確定し、社員が恩恵を実感できれば「次の中計以降も続けていきたい」と考えている。

株式報酬制度では、海外の事業会社との調整に頭を悩ます企業も多いが、逆に海外からの声で解決に動いた企業もある。ソニーグループは、ストックオプションなどの株式報酬制度を譲渡制限付株式ユニット(RSU)という方式に一本化し、拡大していく方向にある。米国でのテック人材獲得競争が激しくなる中、競合企業で導入されているRSUがないことで採用に不利との声が上がったという。

野村証券ストック・インセンティブ・ソリューション室主席研究員の橋本基美氏は「現在、問い合わせが急増している」とし「人的資本投資やPBR(株価純資産倍率)改善の取り組みは株式市場で好感されやすく、株価上昇を享受しうる自社株インセンティブ制度はますます導入しやすい環境になっている」と話している。

世界では従業員株式報酬がより普及している。コンサルティング会社、HRガバナンス・リーダーズによると、米S&P500のうち時価総額上位100社における普及率は88%、英国FTSE350のうち上位100社の普及率97%に対し、日本のTOPIX100の対象100社の普及率は25%に過ぎず、拡大余地は大きいとみられている。

現在、労働基準法では賃金は通貨で支払うことが定められており、株式報酬は福利厚生の一部と位置付けられている。

三菱UFJ信託銀行HRソリューション部の石川真嗣部長は「従業員向けの株式報酬について、福利厚生の一部との位置づけから、賃金や賞与の一部としての位置づけに衣替えができるのであれば、普及がさらに進むのではないか」との見方を示している。

(清水律子 山崎牧子 編集:橋本浩)

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