アングル:「犯罪の背景に不法移民」と主張するトランプ氏、実際の研究データは
ロイター / 2024年7月19日 9時41分
7月16日、トランプ前米大統領(写真)は、11月に行われる大統領選に向けた選挙活動や共和党全国委員会の政策の一環として、不法移民が暴力的な犯罪に加担し、悪化させていると主張している。ただ、移民が犯罪に関わっている傾向はどちらかと言えば低いということが複数の研究で指摘されている。写真は15日、ウィスコンシン州ミルウォーキーの共和党全国大会で撮影(2024年 ロイター/Brian Snyder)
Ted Hesson Mica Rosenberg
[ワシントン 16日 ロイター] - トランプ前米大統領は、11月に行われる大統領選に向けた選挙活動や共和党全国委員会の政策の一環として、不法移民が暴力的な犯罪に加担し、悪化させていると主張している。ただ、移民が犯罪に関わっている傾向はどちらかと言えば低いということが複数の研究で指摘されている。
◎移民と犯罪に関するトランプ氏の主張
大統領選で民主党のバイデン大統領と争う共和党のトランプ氏は、国境管理の強化を訴える根拠の一つとして、米国内に不法滞在する移民による犯罪を挙げている。
トランプ氏はバイデン氏の政策が寛容過ぎると主張し、国内の不法移民が起こした犯罪を「バイデン氏の移民犯罪」と呼んでいる。
トランプ氏はこれまでにも不法移民が容疑者となっている犯罪に触れて「(不法移民は)人間ではなく動物だ」と述べるなど、移民の尊厳を損ねる言い回しを使用。不法移民が「われわれの国の血を汚している」といった発言は、ゼノフォビア(外国人嫌悪)的でナチスの言い回しを想起させるといった非難の声を集めた。こうした批判に対しトランプ氏は、ナチス・ドイツを率いた独裁者アドルフ・ヒトラーがこうした言い回しを使ったことは知らなかったとしている。
トランプ氏は2015年の大統領選出馬以来、暴力犯罪には移民が関わっていると度々主張しており、女性や少女が不法移民に殺されたとみられている事件に焦点を当てている。6月に行われたバイデン氏とのテレビ討論会でも12歳の少女が殺害された事件を巡って不法移民のベネズエラ人男性2人に殺害の容疑がかけられているとの例を挙げ、犯罪の波は移民が主導しているとする根拠のない主張を繰り返した。
共和党全国委員会は4月、「バイデン・ブラッドバス(流血の惨事)」というウェブサイトを開設。アリゾナ、ミシガン、ペンシルベニアといった激戦州を含む9州において移民が関わったとする事件を取り上げている。
ロイターがトランプ陣営の広報担当者スティーブン・チャン氏にコメントを求めたところ、米国で不法移民に関連する犯罪を報道したニュース記事の一覧が回答として送られてきた。
◎バイデン大統領の反応は
バイデン氏は6月の討論会で、移民と犯罪に関するトランプ氏の主張への反応に苦戦。全般的に言葉に詰まり、トランプ氏の虚偽の主張に反論しきれないなど、不安定な調子に終始した。
3月の一般教書演説の際には、不法滞在中のベネズエラ人に殺害されたとみられているジョージア州の看護学生でレイケン・ライリーさん(22)の死を認識するよう求めて共和党のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員が発言し、バイデン氏の演説が遮られる場面もあった。
バイデン氏はライリーさんが「不法入国者に殺された罪なき女性」だと返答した後、「合法的な米国在住者」からは何人が殺されているのかと問いかけた。
バイデン氏はその後、ライリーさんを殺害した犯人について「不法入国者」だと発言したことを後悔しており、「法的書類を持たない人」という表現を使うべきだったと釈明した。
バイデン政権で移民問題を担当するマヨルカス国土安全保障長官は4月、記者との懇談で「一個人の行いによって移民全体を悪者扱いする」動きには「大いに」反対すると表明した。
ホワイトハウスのジャンピエール報道官は同月、「国を分断するために」暴力的なレトリックが使われていると述べた。
◎移民は米国生まれの人よりも犯罪に加担しているのか
複数の学術機関やシンクタンクなどの研究は、移民が米国生まれの人々よりも多く犯罪を犯しているわけではないことを示している。
また、米国の不法移民の犯罪に対象を狭めた研究では、犯罪率も(米国生まれの人より)高くないことが分かっている。
◎データは信用に足るものか
ロイターが確認した研究の一部は学術研究員によって行われ、査読を経て学術誌に掲載されている。
こうした研究は米国の国勢調査結果や不法移民の推定人口などのデータに基づいて書かれている。
複数の研究が米国における不法移民の犯罪率を調査するにあたってテキサス州公安局のデータを引用していた。同局では逮捕時に移民であるか否かを記録している。
テキサス州のデータを引用した研究者の一人、ウィスコンシン大学マディソン校のマイケル・ライト教授は犯罪率は州によって異なったが、同州の数字は入手可能な中では最も良いものだったと語った。同教授はこの研究で、同州では2012ー18年、不法移民の逮捕率は、合法的な移民と米国生まれの市民より低かったとしている。
ケイトー研究所のアレックス・ノーラステー氏は、テキサス州と同様に他の州でもデータを管理・共有すれば、研究者らは不法移民の犯罪率について、より正確な情報を得られるだろうと指摘した。同氏は最近の米紙への寄稿で、同州では2013ー22年、不法移民が殺人事件で有罪になる確率は、米国生まれの市民より26%低かったと指摘した。
◎移民が犯罪に関わる傾向が高いと示す研究はあるのか
移民削減を支持する研究団体「移民問題研究センター(CIS)」は、テキサス州公安局のデータを使用した研究者らが不法移民の犯罪数を実際より少なく数えていると非難した。
同団体は2022年、ライト、ノーラステー両氏が収監後に不法移民だと判明した受刑者をデータに含めていないと指摘。ノーラステー氏はこの批判に対し、CISが複数の不法移民の犯罪者を重複して数えていると反論した。
CISは09年の研究で、「移民の犯罪率が他の人々より高い、あるいは低いことを示す明確な証拠はない」との結果を発表していた。
18年の研究では1985ー2017年のアリゾナ州の収監記録を引用し、不法移民は有罪判決を受ける傾向が高いことを示した。保守派経済学者ジョン・ロット氏が行った同研究では、不法移民がより重大な犯罪を犯し、より長い刑期が言い渡される傾向があるとの結果を発表した。この研究に対しノーラステー氏は、合法的な移民だったものの犯罪を犯したことでビザの条件に違反した可能性のある人々をロット氏が不法移民に含んでいるとして批判した。
◎最近になって傾向が変化した可能性はあるか
犯罪率を算出する際に使用されるデータは通常、数年前のものであるため、現在や将来の傾向を明確に示すものではない。
しかし、長期間にわたって続くパターンを明らかにした研究も複数存在する。
移民家族や同伴者のいない子どもたちは犯罪を犯す確率が統計的に低いとされるが、過去10年間、国境を越えたことで拘束される件数が増加していると複数の研究者が指摘した。
前出のライト氏は、米国の研究を総合的に見て移民が犯罪を犯しやすいとは言えないと述べた。
「もちろん、外国生まれの人々が罪を犯すこともある」とライト氏は取材で語った。
「だが、外国生まれの人々が米国生まれの人々よりも有意に高い確率で犯罪を犯すかといえば、その答えは非常に決定的にノーだ」
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