高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 共通通貨と、バラバラな財政政策... EU「コロナ復興基金」のアンバランスさ

J-CASTニュース / 2020年7月23日 17時0分

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共通通貨「ユーロ」を旗印にしているが…

EUでは17日(2020年7月)から首脳会議が行われ、欧州経済を立て直すための救済策として「復興基金」の設立について協議され、4日間の交渉を経て5日目の22日、ようやく合意した。

基金の構想を提唱したフランスのマクロン大統領は「欧州にとって歴史的な日だ」と歓迎した。

ドイツによる他国救済の側面も

欧州は、新型コロナウイルス対策の経済支援で遅れていた。IMF(国際通貨基金)による国際比較で、「真水」に相当する財政出動・減税措置の対GDP比を調べたものがあるが、G20の中で、1位はアメリカ12.3%、2位は日本11.3%とこの2国が高く、EU諸国は4、5%程度と2国に比べて見劣りがしていた。

今回、復興基金7500億ユーロ(92兆円)ができ、その中で真水は3900億ユーロ(48兆円)だ。これで、EU諸国はGDP比で2.5%程度の上乗せができ、7%程度となって、10%以上の日米との差を縮められる。

もっとも、この真水の比率で、これを少なくしたい財政規律派のオランダなどの国と多くしたいコロナ危機国のイタリアなどとの間で意見調整に手間取ったのだ。

復興基金の原資は、EU債である。これは共同債といわれ、債務をEU各国が負担するので、メルケル独首相は嫌っていたものだ。実際の負担は、EU中期予算の中で定められており、ドイツが無制限に債務負担をするわけではないが、それでもEU債務の負担を分担するのは、財政力のあるドイツにとって他国を救済することを意味している。

もっとも、最適通貨圏理論によれば、このドイツのロジックも酷い。EU主要国は共通通貨ユーロであるが、この共通通貨でもっともメリットを受けるのがドイツである。

共通通貨ユーロのレートは経済力の強く中進国のドイツにとっては割安になり有利だが、経済力がない周辺国にとって割高で不利だ。そのため、共通通貨のメリットくらいはドイツが周辺国を負担すべきだ。

日本の「真水」財政政策との違いは...

いずれにしても、コロナ危機の前に、メルケル首相も妥協し、EU債を基本原資とする復興基金ができた。それは一応歓迎すべきだが、筆者から見れば、財政政策は各国バラバラ、金融政策はほぼユーロで統一というアンバランスの欠陥を露呈している事例だ。

日米で巨額の真水財政政策を出せている理由は、国債を発行しそれを中央銀行が買い取っているからだ。これは、マネー・プリンティング政策であるが、インフレ率が高くならなければ、国債の将来世代へのツケを心配する必要はない。俗な言葉だが、カネ刷って財源にしているわけで、国債の利払いや償還を後で税収により行うわけでないからだ。

若干専門的にいえば、日米のコロナ対策の財政支出は、通貨発行益で賄うので、将来の国民への付け回しにならない。コロナでは、需要喪失が大きく、インフレにはなりにくいので、こうした財政政策と金融政策の合わせ技が可能になっている。それは中央銀行の通貨発行益が自動的に国の財政収入となるからだ。

しかし、EUの場合、ユーロの中央銀行であるECB(欧州中央銀行)は、EUとは別組織であり、すべてのEU国がユーロを使っているわけでないので、通貨発行益をEU各国に取り込む仕組みが複雑だ。そもそも今回のEU債をECBが購入するかどうかはまだ決まっていない。

EUもすべての国がユーロを使い、財政統合すれば、日米と同じようなことをできるはずだが、ともにその実現はそう簡単ではない。となると、EUは危機対応時にまたすったもんだするだろう。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長 1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「FACTを基に日本を正しく読み解く方法」(扶桑社新書)、「明解 経済理論入門」(あさ出版)など。


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