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タニタの「社員の個人事業主化」ねらいは 優秀な社員の離職を防ぎ、報酬も増える「切り札」だった【インタビュー】

J-CASTニュース / 2024年2月14日 12時0分

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写真左から、タニタ代表取締役社長・谷田千里さん、前川孝雄、タニタ経営企画部社長補佐・二瓶琢史さん

健康計測機器メーカーのタニタでは2017年から、社員が個人事業主化を選択できる仕組み(「日本活性化プロジェクト」)を取り入れている。

個人と組織が互いに対等な関係で貢献し合う、第三の働き方、会社経営に挑戦してきたタニタ。社員の自律的なキャリア形成を促進しつつ自立を目指し、会社としての創造性やイノベーション力の向上を目指す取り組みへの注目度は高い。

人材育成支援を手掛ける、株式会社FeelWorks代表の前川孝雄さんが、タニタの「日本活性化プロジェクト」実施の経緯やその成果、今後の展望と課題などについて、深く話を聞いた。

(《お話し》谷田 千里さん(株式会社タニタ 代表取締役社長) 二瓶 琢史さん(株式会社タニタ 経営企画部 社長補佐) 《聴き手》前川 孝雄(株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師)

必死の立て直しが、ブレークスルーにつながった

前川孝雄 終身雇用、年功序列を土台とする日本型雇用の限界が指摘される現代。働き方は、いわゆるメンバーシップ型からジョブ型への流れが強まりつつあります。
 国は人材の流動化にも本腰を入れ始めています。しかし、私は単にジョブ型への転換だけでは、社員を育て活かし組織エンゲージメントを高めつつ、企業価値を向上させることは困難と考えています。
 そうしたなかで、タニタでは「日本活性化プロジェクト」を開始し、注目されています。思えば御社は、経営基本方針の筆頭に「私たちは変化を是とし、変化を讃え主導する集団であり続けます。」を掲げられて、革新や創造にチャレンジし続けてこられたのではないしょうか。
 そこでまずは、御社の経営理念やビジョン、ミッションなどから、さまざまなヒット事業につなげた経営のポイントを教えてください。

谷田千里さん 実は、現在のビジョンやミッションは、私が社長に就任した後、経営がある程度安定してから作ったものです。
「『はかる』を通して世界の人々の健康づくりに貢献していく」という理念は、先代から引き継いだものです。しかし、ビジョンやミッションを先に作って、それが商品につながったという整然とした流れではなかったんですよ。

前川 先にヒット商品が走ったということですね。

谷田さん そのヒット商品も、しっかりねらってつくってきたたわけではないのです。
 私の社長就任時、会社は経営不振で、とにかく止血をして立て直さなければなりませんでした。引き継いだのが体組成計、血圧計、歩数計、尿糖計を組み合わせた計測機器と、これを使ったサービスを提供し、収集データを解析する子会社。機器は使い勝手が悪く、1セットで十数万円と高額で全く売れず、子会社も開店休業状態でした。
 周囲からは、商品も子会社も早く清算してくれと言われました。でも私は、ビジネスとしては将来性があると思いました。

前川 当時はそのような状況だったのですね。

谷田さん そこで、全社員に機器を配り、使ってもらうことにしました。すると、「使いづらい」という声が上がってくる。では商品改良につなげようと、協力を求めました。機器を使っているうちに、社員の歩数が増え、体重が減り、体脂肪率が下がる傾向が見えてきた。
 その時、ふと「これは医療費も下がっているのでは」と考えたのです。所属健保に問い合わせると、やっぱり医療費が減少していました。ちょうど東京・丸の内に「丸の内タニタ食堂」をオープンする少し前のことです。当時、NHKの「サラリーマンNEO」という番組の「世界の社食から」というコーナーでタニタ本社の社員食堂が紹介され、これをきっかけにレシピ本出版の話がきました。いいPR機会だと応じたところ話題になり、厚生労働省からも健康経営に関する取り組みの優秀例として取材を受けることになりました。
 そこで、さきほどお話した社員の計測値と医療費の相関を図表化したレポートをお見せしたところ、2012年(平成24年度)版の厚生労働白書で紹介していただくことになりました。これによって、大きな反響をいただきました。
 こうして社会のニーズがわかり、BtoCからBtoBの事業に切り替えて、医療費を適正化できる集団向けの健康づくりパッケージとして販売したところ、黒字に転換したというわけです。

前川 外から見ていると、戦略的にヒット商品を次々と出されたように見えますが、必死で経営を立て直そうと七転八倒した結果、ブレークスルーに至られたのですね。

大切な社員が辞めてしまう前に...「個人事業主化」導入

前川 谷田社長は、これまでのインタビューによると、ご自身が承継されたのは「お金」や「資産」ではなく「人」だと思い至った、と語られています。
 それに関連して、2017年に開始された社員を個人事業主化する仕組み「日本活性化プロジェクト」(以下、「プロジェクト」)も、優秀な人材の流出を防ぎ活躍を促し、経済的にも報いる目的から発案された、とのことです。この「プロジェクト」発案のきっかけや導入に至る経緯をうかがえますか。

谷田さん 先ほどお話ししたように、私が会社を引き継いだ頃は、とにかく会社を潰してしまう不安と闘っていました。
 もし会社の業績が傾いた場合、優秀な社員ほど会社や仕事に愛着があって、立て直しのために頑張ってくれると考えました。しかし、一生懸命に頑張っているのに十分な報酬を払えなくなり、そのことを家族から言われてしまったら、さすがにその社員も退職を考えると思います。そうしたら何も言えません。会社も立ちゆかなくなる。だから、頑張っている人により多く報いながら、離職リスクを減らす仕組みはないか――。
 そう考え、いきついたのが個人事業主化です。
 複数から収入を得られていれば、このような場合でもタニタとの関係を続けてもらえる。会社員より個人事業主のほうが、仕事や経済的な自由度も高いように感じる。そこで、この仕組みを考えました。大切な社員が辞める前に始めてみよう。いざという時、独立してつながったメンバーに、引き続き仕事を手伝ってもらえるのではないか、と考えたのです。

前川 拙著『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)という本に詳しく書きましたが、会社員が有無を言わさず天引きされる税と、社会保険料負担は相当重たいものがあります。
 会社と個人が折半している健康保険料や厚生年金保険料など、給与明細には記載されない負担部分も大きい。実は、国民負担率は、江戸時代に一揆や逃散の引き金となった五公五民と同レベルに至っているのに、痛みがわかりにくい構造になっている。
 一方、個人事業主なら納税者としての痛みがわかり、なにより仕事は自己裁量で行いながら、関連支出は経費で落とせますから節税メリットは大きいですね。
 ただ、御社のように歴史もある会社で、正社員雇用が当然だった組織では、社員側からの抵抗もあったのではないですか。

谷田さん まず、当時総務部長だった二瓶にこのアイデアを話しましたが、ポカーンとされまして(笑)。
二瓶琢史さん 「究極のいい方法を思いついた」と言われましたが、最初は何を言っているのか全く理解できませんでしたね。車がどうの、ゴルフがどうとか...何やら怪しい話かと(笑)。
谷田さん そこで、二瓶から、日頃の個人支出で受け取るレシート類を全て出してもらい、この仕組みづくりで協力を頼んだ税理士に渡し、個人事業主だったらどうなるかをシミュレーションしてもらい、見せました。
二瓶さん そうすると、手取りが10%増える計算で驚きました。

前川 書籍やセミナー費用はもちろん、接待ゴルフや事業用の車購入なら、経費対象になりますからね。社長からの提案のもと、二瓶さん自らが個人事業主化第1号に踏み切ったとのことですが、とはいえ相当の勇気が必要だったのではないですか。

二瓶さん いえ、長く一緒に仕事をしてきた谷田と私の関係なので、解雇するためのものとは思いませんでしたから(笑)。むしろ、義務感のようなものはありました。
 なぜなら、この仕組みは退職を伴うので、社内でかなり不安や抵抗が予想される。だから、私が率先して行う必要があると思いました。
 これまでも、社員が社業を離れて新しいことにチャレンジする仕組みや、家庭の事情等で仕事に全力投球できない状況の人のための限定社員制度はありました。
 しかし、本業で熱心に仕事をしてくれる社員に報いる術がなかった。それを本気で考えた時、過度に会社負担がかからずに本人の手取りを最大化でき、頑張っただけ報酬が増える仕組みは有効だと思いました。
谷田さん 当時、政府が唱える働き方改革でワークライフバランスの重視が叫ばれていました。弊社は健康総合企業と言いながらも、実はメンタル不調を訴える社員もいたのです。
 ただ、私の海外勤務での経験上、アメリカ西海岸で長時間仕事に没入している人がメンタル不調になった例は聞いたことがない。ようは、働く時間の長さより、やらされ感からストレスを抱え、主体的に働けていないのが要因だろう。だから、自らやりたい仕事を選び、主体的に働く個人事業主化は、メンタルケアにもつながると思いました。

前川 全く同感です。
 私も長年企業内人材育成の仕事に従事してきて、働く時間の上限や休みを増やすことばかりに法律で一律にキャップをはめる働き方改革に、ずっと疑問を持ってきました。
 たしかに、育児や介護や病気治療などと仕事を両立させるために働きやすさは必要ですが、それはあくまで衛生要因だと考えます。
 最も大切なのは働きがいを感じながら自立的に働ける動機付け要因なのに、そこが置き去りにされている。結果、日本は働く人たちのモチベーションが世界最下位ラインになってしまった。最近になって、やっと国もエンゲージメント(働きがい)の重要性に気づいたようですが、感度が低いし、何より順序が逆なんですよね。
 御社が「プロジェクト」を開始した背景や考え方がよくわかりました。

2月15日公開予定の<タニタの「社員の個人事業主化」導入7年 「人が採れない、離職者が出て困る」悩む会社はトライすべき【インタビュー】>に続きます。


【プロフィール】

谷田 千里(たにだ・せんり):株式会社タニタ 代表取締役社長/船井総合研究所などを経て2001年にタニタ入社。2005年タニタアメリカ取締役。2008年5月から現職。レシピ本のヒットで話題となった社員食堂のメニューを提供する「タニタ食堂」や、企業や自治体の健康づくりを支援する「タニタ健康プログラム」などを展開し、タニタを「健康をはかる」だけでなく「健康をつくる」健康総合企業へと進化させた。

二瓶 琢史(にへい・たくし):株式会社タニタ 経営企画部 社長補佐/新卒入社の自動車メーカーを経て、2003年にタニタ入社。2010年から人事課長・総務部長を歴任し人事業務に携わる。2016年、社長の構想に基づき「日本活性化プロジェクト」(社員の個人事業主化)に着手、2017年に自らも個人事業主に移行してプロジェクトを本格スタート。現在は個人会社化してタニタ以外へも「日本活性化プロジェクト」を提案・提供中。

前川 孝雄(まえかわ・たかお):株式会社FeelWorks代表取締役。青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授。人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業のFeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。近著に、『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)。

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