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社員に個人事業主として独立を勧めたタニタ 7年でわかった「これからの人を活かす経営」とは【インタビュー】

J-CASTニュース / 2024年2月16日 12時0分

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写真左から、タニタ代表取締役社長・谷田千里さん、前川孝雄、タニタ経営企画部社長補佐・二瓶琢史さん

健康計測機器メーカーのタニタでは2017年から、社員が個人事業主化を選択できる仕組み(「日本活性化プロジェクト」)に取り組んでいる。

個人と組織が互いに対等な関係で貢献し合う、第三の働き方、会社経営に挑戦してきたタニタ。社員の自律的なキャリア形成を促進しつつ自立を目指し、会社としての創造性やイノベーション力の向上を目指す取り組みへの注目度は高い。

人材育成支援を手掛ける、株式会社FeelWorks代表の前川孝雄さんが、タニタの「日本活性化プロジェクト」実施の経緯やその成果、今後の展望と課題などについて、深く話を聞いた。

(《お話し》谷田 千里さん(株式会社タニタ 代表取締役社長) 二瓶 琢史さん(株式会社タニタ 経営企画部 社長補佐) 《聴き手》前川 孝雄(株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師)

人材を囲い込まず解き放ちシェアすることで、日本は活性化する

<タニタの「社員の個人事業主化」導入7年 「人が採れない、離職者が出て困る」悩む会社はトライすべき【インタビュー】>の続きです。

前川孝雄 日本企業の雇用改革の方向として、「メンバーシップ型からジョブ型へ」が語られがちです。
 それに対して、御社が取り入れている、社員が個人事業主化を選択できる「日本活性化プロジェクト」は、個人を生かす組織研究で高名な同志社大学の太田肇教授も提唱する「自営型」就業形態で会社と連携するという第三の選択肢にあたるのではないかと思います。
 過渡期にある日本企業において、「プロジェクト」の意義をどうお考えですか。

谷田千里さん 海外にはチャイナ・タウンやコリア・タウンはあるのに、ジャパニーズ・タウンはあまり聞きません。日本は日本人同士で争っている。たとえば、「和牛」と言って売り出せばいいのに、「〇〇牛」「△△牛」と地方ブランドで出荷する。農産物や酒、アニメーションも同じような状況を感じており、一致結束が苦手な民族なのかと思ってしまいます。

 数年間海外に赴任していたことがあるのですが、海外の方から見ると日本はとても小さい国であり、その中の地方によって違いがあるという認識は低いという印象を受けました。
 ですので、政府か経営者団体が主導して、皆で力を合わせて同じベクトルで進めば、競争力も格段に上がるのに、自分たち同士で潰し合っているように見えます。同じように、優秀な人材を自社内で囲みたがる。「副業」という言葉も、内部を大事にして外部は違うという思考なのだと考えます。

前川 なるほど。日本人は和を重んじ協調性を大事にすると言われますが、それはとても狭い範囲の「村社会」に限られている。各社が自社のことばかり考えて、人材も社内の囲い込みになっている、ということですね。

谷田さん それをやめて、優秀な人材を複数社でシェアし合えば、仕事の業績も本人の報酬もトータルでアップします。
 実は、これは私自身の教訓です。自社だけで売ろうと企画した商品は振るわず、他社と連携して一緒に手掛けた商品のほうが遥かに広がりヒットしました。
 お互いがその気になれば、ウィンウィンの関係がつくれます。だから私は、他社に「よい人材を貸してください」と言う前に、自社の人材を外に出そうと考えました。
 優秀な人を無理に囲い込んで離反されたり、会社が傾いた時に社員を市場に放出してしまったりするより、会社同士が人材を融通し合うほうが、メンバーも安心してロイヤリティを持って働いてくれるでしょう。そうすれば、世界市場でも全日本として闘うことができるのではないでしょうか。

前川 たしかに、今の雇用の仕組みでは、働く個人は自身の能力発揮の場として会社を1社のみに選択するしかない。しかし、複数の会社でシェアすることが普通になれば、働く場や活躍のステージもボーダレスになりますね。

谷田さん 同じ課題感を持つ会社が、タニタの仕組みを参考にして、連携の動きが広がれば幸いです。
 実際に電通さんでは、弊社の取り組みが報道された後に、独自の仕組みをつくられています。大変光栄に感じていますし、そうした社会的影響を与えられたことも、「プロジェクト」の一つの成果だと思います。

前川 私も電通さんが創設したミドル人材の幸せな独立支援会社である、ニューホライズンコレクティブの現場にうかがったことがあります。
 ここでは、自社人材の独立支援だけに留まらず、他社と連携するオープンなプラットフォームを目指されています。産業の新陳代謝のための人材流動化というより、こうした働く個人が自由で自立的に働くための人材流動化が広がるとよいですね。もっと大きなソーシャルインパクトになるとよいのですが。

二瓶琢史さん 私たちがこの取り組みを開始して7年経っても、まだ珍しいとされるのが実態です。もう少し早く、これが当たり前の世の中になるかとの予想もありましたが、思いのほか進みませんでしたね。

前川 日本は、国際比較調査で、雇用者のエンゲージメントが極端に低いのですが、フリーランスで見ると国際平均と変わらない。すなわち、自分が望む仕事を好きな時間や場所で行うことがモチベーションアップに重要なことは明白です。
 また、高年齢者雇用安定法の改正で、まだ企業の努力義務ですが、高齢者本人が望めば独立して会社との業務委託契約に移行することも選択肢に入った。こうした背景がありながらも、個人事業主化はなかなか進まない。一体なぜだとお考えですか。

谷田さん 一番のネックは日本の雇用制度だと思っています。
 会社がずっと手厚く面倒を見てくれて、教育もしてくれます。でも、そのことが自ら学ばず業務改革もしない人たちを生み出していると思います。この人たちは、いわば制度被害者です。
 米国のように、常に解雇があり得る仕組みでもいいのかもしれません。そうなれば、生き残るために自ずとみな本気で勉強しますし、長い目で見ればそれが本人のためになると考えています。

国の補助金制度が、ブラック企業を生む?

前川 ほんの今から70~80年前の戦後の時期は、自営業と家族従事者がサラリーマンより多かった。それが時を経て逆転して、いまや雇用されて働くことが常識として定着した。
 このパラダイムが再度変わるには、まだしばらくかかると腰を据えるしかないのでしょう。

二瓶さん 日本が戦後復興に向けて作った雇用制度が、とても上手くいき過ぎたのだと思います。だから、見事に高度経済成長を成し遂げた成功体験から抜けられない。社会を取り巻く環境が変わって、もう効果的ではなくなっているかもしれないのに、いまだ安住してしまっている。

前川 強烈な成功体験をしてきたため、まさにイノベーションのジレンマが起こっているということですね。

前川 思えば、日本企業にとっての正義は、雇用を守ること、と言われがちでした。
 私が営むFeelWorksは「人を大切に育て活かす社会創りへの貢献」を理念に掲げています。
 私は、前職のリクルート編集長時代も含めると30年以上、人材育成やキャリア支援に向き合い続けてきて、いま痛切に思うのは、社外でも通用するプロに育てることこそが人を本当に大切にすることではないか、ということです。
 しかし、なかなか大きな潮流に至りません。

谷田さん 今の働き方改革などを見ていると、現行の法律や制度は性悪説に基づいて作られているように思います。

前川 たしかに、真面目な個人から搾取しようとするブラック企業もありますからね。でも、その性悪説に立った仕組みが、結果としてやる気のある人、頑張りたい人のブレーキになっていることが悩ましい。
 これからの働きがいのある会社、社会は、どうすれば実現できるとお考えですか。

谷田さん 公正な競争環境をつくることが第一だと考えています。
 その中で、現行の日本国内の制度にも課題があるのではと感じています。
 たとえば、補助金制度。企業の中には、補助金を頼りにした経営を行っている場合があり、実情として、公正な競争が阻害されてしまっていると感じています。つまり、補助金に頼らない企業が補助金をもらっている企業に伍していこうとすれば、経費削減で人件費に手をつけざるをえない。だから、ブラック企業問題は、補助金制度の2次被害とも言えるのではないでしょうか。
 一方で、本当に助けなければならない企業が存在することもあるため、単純に補助金をカットすればよいというわけではありません。非常に難しい問題ですが、制度の見直しにより、きちんと働いた人や企業ほど報われる、働きがいのある社会に近づくことを願っています。

前川 コロナ禍に実施された実質無利子・無担保のゼロゼロ融資の弊害も、この構造に似ていますね。
 補助金のおかげで生き延びている企業とともに、国の複雑な手続きを代行して補助金のおこぼれを狙う企業も増殖しますしね。これらは、社会に価値を提供しているとは言い難い。
 非常時に緊急セーフティネットは必要ですが、過保護になると公正な競争がないことから、「もらうのが当たり前」「努力しなくてもOK」の企業が生まれ続けてしまうことでしょう。
 苦難に陥る企業や人を支える税の使い方が、頑張る社員に報いる仕組みづくりの阻害につながっている可能性にも目を向けて、国全体で改善していきたいですね。

上司は部下のために、時間を割いて対話したいと思っているか

前川 ただでさえ少子高齢化社会なのに、AIなど技術革新による人材需要が変化し、人的資本経営が叫ばれています。
 大企業ほど早期離職問題が深刻化し、中高年人材のリスキリングも求められるなど、さまざまな情報が入り乱れています。そのなかで、人を大切に育て活かす常識も揺らぎ、カオス状態とも言えます。また、一人ひとりの価値観や働きがいも多様になっており、経営や人事のかじ取りの難易度も上がっています。
 御社は今後、人を活かす経営や人材育成にどのように臨もうとお考えですか。

谷田さん 人を活かすといった時に、私は、結局その人を愛しているか、好きかどうかだと考えています。愛などと言うと誤解されるかもしれないので、信頼関係と言ったほうがよいかもしれませんが...。
二瓶さん 「また、何を言い出すのか?」と、心配しましたよ(笑)。
谷田さん 「あの人どうしてる?」「今日は顔色が優れないけど大丈夫?」など、相手に興味や関心がもてるかどうか。相手との信頼関係を醸成するために、時間を使おうと思えるかどうかではないでしょうか。
 自分のことばかり考えて、相手に関心がないなら、そもそも人を活かしたり、育てたりするなど無理でしょう。経営トップからは社員一人ひとりに目が届きにくいので、現場の上司はもっと部下を見てほしいと思っています。
 それは部下管理云々ではなく、人間として。そのためには、相手とできるだけ一緒に仕事をする必要がある。一緒にキャンプに行くのでもいいのです(笑)。共に同じ時間を過ごし、同じ体験をしていくうちに、自然と親しみや信頼関係が生まれます。
 そして、相手が悩んでいたり、もう仕事を辞めようかと考えていたりしている時も、相手の心情を察してきちんと話ができるかどうか。時間を割いて対話がしたいかどうかは、やはり相手が好きかどうか、普段から関心を持っているかですね。
二瓶さん たしかに、基本のところで信頼関係があったからこそ、私も「プロジェクト」に乗って、躊躇することなく独立できましたからね。言葉遊びのようですが、信用というのは担保を取りますが、信頼はそれがいりません。たとえ一筆書いたものがなくても、信頼は成り立つわけです。

前川 まさに、会社と個人、上司と部下の信頼関係あっての個人事業主化だったのですね。
 今日は、話題になった「日本活性化プロジェクト」の「その後」をはじめ、これからの人を活かす経営について貴重なお話、有意義な意見交換を、ありがとうございました。


【プロフィール】

谷田 千里(たにだ・せんり):株式会社タニタ 代表取締役社長/船井総合研究所などを経て2001年にタニタ入社。2005年タニタアメリカ取締役。2008年5月から現職。レシピ本のヒットで話題となった社員食堂のメニューを提供する「タニタ食堂」や、企業や自治体の健康づくりを支援する「タニタ健康プログラム」などを展開し、タニタを「健康をはかる」だけでなく「健康をつくる」健康総合企業へと進化させた。

二瓶 琢史(にへい・たくし):株式会社タニタ 経営企画部 社長補佐/新卒入社の自動車メーカーを経て、2003年にタニタ入社。2010年から人事課長・総務部長を歴任し人事業務に携わる。2016年、社長の構想に基づき「日本活性化プロジェクト」(社員の個人事業主化)に着手、2017年に自らも個人事業主に移行してプロジェクトを本格スタート。現在は個人会社化してタニタ以外へも「日本活性化プロジェクト」を提案・提供中。

前川 孝雄(まえかわ・たかお):株式会社FeelWorks代表取締役。青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授。人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業のFeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。近著に、『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)。

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