首都圏は圧倒的「転入超過」に...移動人口と買って住みたい街ランキングにどんな相関あるか/中山登志朗さん解説
J-CASTニュース / 2024年5月24日 12時10分
日本国内の移動人口の状況に変化が
日本国内の移動人口の状況に変化が生じている。
移動人口とは、人の出生および死亡にともなう自然増減とは違って、特定の地域から別の地域へと移動した人の数:社会増減を示したものだ。
この移動人口が、コロナ前の状況に戻りつつある。住宅市場には、どのような影響が出ているのか。LIFULL HOME'S総研副所長・チーフアナリストの中山登志朗(なかやま・としあき)さんが解説する。
◆世代ごとに異なる人流の動きにも注目を
移動人口の状況を見ていくと、現在、どのエリアに人が集中していて、どのエリアから人が流出しているのかが明らかになります。それは、足元および近い将来の住宅需要の重要な指標になり得ます。
一方で、私の所属する、LIFULL HOME'Sの「みんなが探した!買って住みたい街ランキング」では、アンケート調査ではなく、年間にユーザーから寄せられた実際の問合せ数を最寄り駅単位で集計&ランキング化しており、移動人口との相関性が必然的に高くなっています。
都市圏に集中する移動人口の現状とは対照的に、世代ごとに異なる人流の動きにもぜひ注目いただきたいと思います(なお、このデータは外国籍の方の国内移動による転入・転出も含めています)。
首都圏:年間12万6000人の圧倒的「転入超過」 世代間の違いが鮮明に
首都圏(1都3県)は、2023年の移動人口が126,515人の転入超過となりました。コロナ禍にあった2022年は9.9万人の転入超過に留まっていましたから、約30%の転入増が発生し、本格的にコロナ後の社会に変化していることが明らかです。
差し引きで年間に12.6万人も転入増があれば、住宅需要が活性化するのは当然のことで、首都圏全域で住宅価格も賃料水準も上昇する一因となっています。
最も転入超過が多かったのは東京都の6.8万人。神奈川県でも2.8万人、埼玉県2.5万人の転入増を記録していますが、千葉県だけ0.5万人に留まっています。
これは神奈川県、埼玉県では実家もしくはその周辺に居住しつつ、都心方面に通勤・通学する人が多いこと。
これに対して、千葉県では主に若年単身者層が地元を離れて、都心方面に転居するケースが多いためです。
都内に近い市川市や浦安市への転入増が多いのに対して、房総半島方面の各自治体では専ら転出超過が発生しています。
若年単身層は東京転入だが、ファミリー層は東京から転出のほうが多い
首都圏全体でこれだけたくさんの社会増があるのは、エリア活性化にとっては喜ばしいことです。ところが、実は、この移動人口を世代ごとに確認すると、さらに違いがあることが明らかになります。
すなわち、東京都では20~34歳の主に若年単身者層が都全体の転入超過数を上回る8.9万人を記録しているのに対し、35歳以上のファミリー層は2.8万人以上の転出超過となっているのです。
若年単身者層はコロナ明けで全国から流入しているのですが、東京にしばらく住んで家族を持ったファミリー層は積極的に東京から転出しているということになります。
その転出した人口は周辺3県、もしくはさらに外側の静岡県や北関東に転居しています。ですから、首都圏でのファミリー層の居住ニーズは、都心から郊外方面へと広く拡散していることがわかります。
これはコロナ後も主に子育て世帯に推奨されているテレワークの継続によって、オンもオフも自宅で過ごす時間が増えたこと。
そのため、より住環境の良好なエリアで子育てしながら、仕事も継続する世帯が増加していることの表れです。
したがって、都心周辺では主に単身者向け住宅のニーズが高まる一方、首都圏郊外およびその以遠となる準郊外エリアではファミリー向けの住宅の需要が顕在化しているのです。
コロナ前まではほぼ都心一極集中だった人口動態が、主にファミリー層において郊外化することは住宅需要の多様化につながります。
ということは、人流の変化をビジネスチャンスととらえることもできる状況といえるでしょう。
近畿圏:首都圏と違い、大阪一極集中
近畿圏(2府4県)は首都圏とは状況が異なります。
中心エリアである大阪府に移動人口が集中していて、年間の転入超過数が1万人以上を記録している点は首都圏同様とも言えます。
ところが、近畿圏では兵庫県、京都府などからは人口が流出していて首都圏のように、全体で転入超過の流れが生まれておらず、大阪一極集中ながら周辺の神戸や京都からは転出、という構図になっています。
また、大阪府からファミリー層が転出している状況は東京都と同様ですが、転出する先が周辺エリアではなく主に首都圏というのも大きな違いです。
したがって、近畿圏は大阪府に移動人口が集中する一方で、圏域全体では2,670人の転出超過となっています。
特に20~34歳の若年単身者層が約1万人の転出超過となっていることは憂慮すべき事態と言えます。
中部圏:中心の愛知県から全世代転出超過が続く
一方、中部圏(東海3県)は中心となる愛知県からの転出超過に歯止めが掛かりません。
愛知県からは毎年0.7万人前後の転出超過が発生しており、岐阜県、三重県とあわせると2万人弱のまとまった人流の転出が認められます。
しかも、愛知県と三重県は全世代に渡って転出超過となっています。首都圏および大阪府に多くの人口を取られていますから、これ以上の移動人口の流出を食い止めなければなりません。
幸いなことに、名古屋市は若年単身者層の流入によってかろうじて転入超過なので、今のうちに何らかの対策を講じて定住人口を増やす必要、人口の定着に向けての対策を実施する必要があります。
九州圏:中心の福岡は転入超過継続、ファミリー層のUターンか
中部圏とは対照的に、福岡県では毎年安定的な転入超過が発生しており、2023年も4千人超の転入超過となりました。
超過数自体はそれほど多くはありませんが、大学生および専門学校生が数多く転入し、19歳までの未成年者が増加し続けていることが賃貸住宅需要を支えています。
20~34歳の若年単身者層のみ転出超過(特に男性)となっているのですが、35歳以降のファミリー層は3000人以上の転入超過となっていることから、いったん東京や大阪で就職した後、結婚や出産を機にUターンしているケースが多いことが分かります。
新たな家族と共に福岡に戻って来るファミリー層の転入が多ければ人口の自然増にも期待が持てます。ですから、エリアの発展や経済的な活性化、もちろん今後の住宅需要の拡大には欠かせない条件といえます。
このように、圏域によって移動人口の世代別の動態が比較的大きく異なることが明らかになりました。
地域ごとの人流の傾向の違いは、今後の住宅関連ビジネスに大きく影響しますから、今後の動向にもぜひご留意ください。
【筆者プロフィール】
中山 登志朗(なかやま・としあき):LIFULL HOME'S総研 副所長・チーフアナリスト。出版社を経て、不動産調査会社で不動産マーケットの調査・分析を担当。不動産市況分析の専門家として、テレビや新聞・雑誌、ウェブサイトなどで、コメントの提供や出演、寄稿するほか、不動産市況セミナーなどで数多く講演している。2014年9月から現職。
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