あまりに悪らつ!著名人かたる投資詐欺、50~70代「分別盛り」がなぜだまされる? 最大の自衛策「すべてのうまい話は疑え」
J-CASTニュース / 2024年5月30日 19時41分
著名人をかたる投資話にだまされるな(写真はイメージ)
ジャーナリストの池上彰さんや経済評論家の森永卓郎さん、実業家の堀江貴文さん、起業家の前澤友作さんなど、著名人をかたってSNSで投資を勧誘する詐欺が社会問題になっている。
そんななか、国民生活センターは2024年5月29日、被害相談が急増しているとして、注意喚起の報告書を発表した。
いったん振り込むと、お金の回収は不可能に近い。調査担当者に騙されない自衛策を聞いた。
「違約金は1100万円」「海外株式市場の税金に1300万円」
国民生活センターによると、著名人をかたる金融商品・サービスの相談件数は、2022年度は170件だったが、2023年度には1629件と約9.6倍に増えた。購入金額も234万円から687万円と3倍増の勢いだ【図表1】。
2023年度の年代別の相談件数を見ると、60歳台が最も多く32%、50歳台が26%、70歳台が21%と、50歳台以上が8割以上を占める【図表2】。社会経験が豊富な、いわば「分別盛り」がなぜ騙されるのか。
こんな事例が代表的だ。
【事例1】有名経済評論家の投資相談に参加、アシスタントを名乗る人に次々に投資を勧められ、総額1500万円を振り込んだが出金できない
母から相続した資産での投資を考えていると、有名経済評論家が主催する投資相談のSNS広告が表示された。100万円が1億円になったとの体験談が掲載されていたのでメッセージアプリへ登録した。
有名経済評論家のアシスタントを名乗る人からメッセージが届き、海外株が短期で値上がりすると投資話を持ちかけられた。有名経済評論家だから信用できると思い、100万円を振り込んだ。さらに、「もっと利益が高い投資がある。経済評論家の先生へメッセージを送ってください」と、次々と連絡があり、結局総額1500万円を振り込んだ。
運用状況で確認すると6000万円の利益があったので資金を引き出したいと申し出ると、出金手数料900万円と、海外の株式市場に税金1300万円を支払わないと出金できないと言われた。(2024年1月・60歳代女性)
【事例2】有名投資家がノウハウを発信すると謳っていたが、投資額を勝手に決められて違約金も請求された
有名な投資家が株式投資のノウハウを情報発信するSNS広告を見て登録すると、メッセージアプリへ招待され、すぐにFX投資を勧められ、実態のよくわからない海外投資会社で口座開設した。その際、運転免許証や携帯電話番号、メールアドレス、年齢等の情報を担当者へ送った。
30万円を個人名義の口座へ入金したが、投資グループの先生から勧められ徐々に増資し、総額440万円を入金した。途中で利益として約35万円を引き出した。原油先物取引も勧められ、投資額は残高に応じて自動的に決まるとの話で、3700万円相当を取引したと伝えられた。
「支払えない」と言うと、「やめるなら違約金は1100万円だ」と告げられた。渡した個人情報が心配だ。(2024年2月・30歳代男性)
【事例3】「絶対に負けない投資家を知っていて、自分も儲かった」という有名投資家の姪に勧められてFX取引を始めたが、連絡が取れなくなった
SNSに海外の女性からメッセージが届き、やり取りを始めた。女性は有名投資家の姪で自身も会社経営者とのことだった。女性から「絶対に負けない投資家を知っている。自分も儲かったので、あなたも儲けてほしい」と言われFX投資のアプリをダウンロードした。
総額200万円程を投資したところで残高が1300万円に。利益が出て喜んでいたら、「不正な行為があった可能性がある」と言われ、口座が凍結され、その解除に270万円が必要と言われた。270万円を振り込んだが、その後、女性と連絡が取れなくなり、アプリも開かなくなった。(2023年3月・50歳代男性)
リアルに作られた動画と、「儲かった」と乱舞するチャット
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を担当した国民生活センター相談情報部の小谷野武瑠(こやの・たける)さんに話を聞いた。
――国民生活センターがこれまで取り上げてきた「投資詐欺」の被害相談は、若い世代が中心でしたが、なぜ、著名人をかたる投資話の被害者には50代以上の「分別盛り」の人が多いのでしょうか。
小谷野武瑠さん 厚生労働省の国民生活基礎調査を見ても、50歳台~70歳台の世帯主の平均貯蓄額は、ほかの世代より高いです。みな1000万円を超えており、特に60歳台は1540万円と、一番多く貯金があります。
子育てが一段落して、さあ、この貯蓄を使って老後の資金を増やそうとする時に、つい上手い話に乗ってしまうのだと思います。
――投資に使うお金がたくさんあるというわけですね。しかし、なぜ著名人の広告に弱いのでしょうか。
小谷野武瑠さん その心理まではよくわからないところがありますが、相談内容を見ると、著名人が対談したり、講演を行なったり、リアルに作られている動画が多いようです。それがAIで作られているかは確認できませんが。また、サクラかどうかは確認できませんが、「儲かった」「儲かった」とグループ内で自慢し合うチャットに誘われるケースが多いです。
まず著名人の公式サイトで、本人か確認を
――なるほど。それで盛り上がって、どんどん投資額を増やすわけですね。
小谷野武瑠さん ただ、著名人を使う詐欺は一時的なブームのようなものだと思われます。2021年度には著名人の広告をめぐる相談は52件しかなかったのに、2年後の2023年度には、約30倍の1629件に膨れ上がりました。今後もその勢いが続くかどうか不透明です。
今年5月にSNSなどを運営するインターネットの大手プラットフォーム事業者に対し、不適切な投稿への迅速な対応を義務づける、「情報流通プラットフォーム対処法」(情プラ法)が成立しました。
施行は1年以内の予定ですが、著名人をかたる投資詐欺の歯止めになることが期待されます。また、政府も今年6月に対策プランを発表する予定です。
――となると、著名人をかたる投資詐欺は下火になりそうですか。
小谷野武瑠さん いえ、しばらくは続くかもしれません。自衛の最大のポイントは、SNSの広告で投資を勧める著名人を見たら、本人の公式サイトや公式アカウントで投資に関する注意喚起が出ていないか確認すること。
次に、通常の株や金融商品の取引では法人名義の口座を使いますから、投資資金の振込先に個人口座を指定されたら、詐欺に間違いありません。絶対に振り込んではいけません。
――ほかに重要なことはありますか。
小谷野武瑠さん 私たちは、著名人をかたった投資詐欺だけに注目しているわけではありません。詐欺師は年々手口を変えてきます。また、話題が沸騰している材料をネタに使います。昨年まではFXでしたが、今年は新NISAが狙われるでしょう。
一度、振り込んでしまったお金は、すぐに口座から移動され消えてしましますから、回収することは極めて困難です。「すべてのうまい話は疑え」ということを強調したいです。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
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