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「笑う森」荻原浩さん 森に迷い込み変わる何か

読売新聞 / 2024年6月21日 15時30分

 「とにかく森を書く」。構想段階で、宣言していた。「森には人間よりもはるかに長生きな木もある。迷い込んだ人たちを、森全体が笑っているんじゃないかと」

 とはいえ物語は、森にまつわるファンタジーから、人間ドラマへと色合いを変えた。「森にある人知を超えた何かって、作者にもわかっていなかった。だから人間の話にしようと」

 5歳の真人が小樹海と呼ばれる神森で行方不明になり、1週間後に保護された。誰かが食べ物などを与えたようだが、真人は助けてくれたのは「くまさん」と答えるのみ。一方で、童謡「森のくまさん」を歌い、教えていない言葉を口にするなど、失踪後は奇妙な言動も目立つ。母の岬は空白の1週間の謎を調べ始める。

 一方で展開するのは、死体を埋めに来た女性や、うだつの上がらないユーチューバーら、事情を抱えて森に入り込んでいた4人の男女の話。真人と出会っても、4人は通報をためらう。保身から来る行動と、わずかな善意が絡み合う中で真人は成長する。「真人君も、周囲の人たちも、何かがこの1週間で変わったと思う」。ネット炎上などの現代的なテーマを折り込み、巧まざるユーモアを交え、 豊饒 ほうじょうな物語に仕上げた。「何百ページも付き合ってもらうので、読者にちょっとしたお土産を持ち帰ってもらえたらと思いながら、いつも書いています」

ユーモア交え、豊かな物語に

 直木賞を受けた『海の見える理髪店』など心温まる短編の名手として知られるが、長編はミステリーからホラー、縄文を扱った大作まで幅広い。「皆さんにいいと言われ、出版社から『あんな感じで』と依頼が来るようになると、危険信号を感じる」。一つの色に染まることを嫌い、多彩な作品を生み出してきた。「へそ曲がりなんですかね」。ひょうひょうと笑った。(新潮社、2420円)川村律文

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