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「エネルギーに満ちた昭和」を生きた武田鉄矢、令和は「センターに立ちながらマネジャーばかり見ているアイドル」

読売新聞 / 2024年6月22日 7時4分

8月放送の「この人この一曲」では、湯原昌幸(右から2人目)、久米小百合(久保田早紀、右端)を招いて、武田鉄矢(左から2人目)がとっておきの話を聞きだす

 歌謡曲を軸に昭和の世相を深掘りするBSテレ東「武田鉄矢の昭和は輝いていた」(金曜夜8時)が静かな人気を集め、放送12年目に突入した。戦前から戦後復興、高度経済成長へと連なった波乱の時代に引き寄せられるのは単なるノスタルジーなのだろうか?(文化部 旗本浩二)

12年目のBSテレ東「昭和は輝いていた」

 番組は、BS放送の主な視聴者が、昭和時代の実体験がある年齢層であることから、今一度、往時の大衆文化を振り返ろうと2013年4月にスタート。初回は美空ひばりを特集し、その後、ボウリング、喫茶店、深夜放送、ジーンズ、スーパーカー、赤塚不二夫など多種多様なテーマを取り上げ、進行役の武田鉄矢らがゲストを招いてトークを繰り広げてきた。

 中でも時代を彩ったヒット曲や歌手をクローズアップすると視聴率も好調だったため、現在も担当する橋本かおりプロデューサーが引き継いだ17年頃から、歌謡曲を取り上げてヒットの背景や知られざるエピソードを伝える趣向が中心となった。昭和歌謡を紹介する番組は、他のBS局でも花盛りだが、どれも歌を流すのが中心だ。この点、橋本プロデューサーは「ただの歌番組では物足りないんですよね」と話し、自身の番組では毎回、若手ディレクターも含め、徹底的にテーマを深掘り。「掘れば掘るほど昭和歌謡は面白く、視聴者の食いつきもいいんですよ」

 また、武田自身も独自に様々な情報を調べあげて収録に臨み、台本にないエピソードを披露して番組の幅を広げるのに貢献しているという。「収録後もまだ話し足りないぐらいで、とても気に入ってくれているようです」

王道特集から「発禁の歌」「イントロの美学」まで

 それらの周辺情報を基にした豊富な切り口も魅力だ。例えば、これまでに「戦後三羽烏 岡晴夫 近江俊郎 田端義夫」「こころに みる別れの名曲」「藤圭子SP」「街を彩った歌謡曲〜札幌・函館」といった王道的放送回がある一方、「歌に出てくる花の謎」「昭和を盛り上げた宴会ソング特集」「発禁の歌」「イントロの美学」「輝きを増したカバーソング」などの変化球も織り交ぜる。

 65歳以上を中心に視聴率も徐々に上がりはじめ、昨年度は平均視聴率が民放BS局の独自制作番組の中でトップを獲得した。「歌は当時の世相を反映しており、そこに託されたメッセージを思い出して、その頃の自分に戻るのでは」とみる。

 特に17年5月放送の「作詩家・なかにし礼の世界」では、昭和歌謡を先導してきた作詩家、なかにし礼本人が登場。弘田三枝子「人形の家」、黛ジュン「恋のハレルヤ」などの歌詞に託された自らの満州(現中国東北部)での体験を語り、高視聴率となった。

 高齢層が中心と考えれば、懐かしさが最大の魅力なのだろうが、番組をじっくり見ると、往時をしのびつつも、今の時代を違った角度で眺めるヒントも得られそうだ。橋本プロデューサーはこう語る。「あちこちにトゲが出てとんがっていたけど“はみ出た良さ”が昭和にはあった。今は、その頃のトゲが取れた形で残っていたり、学生運動のようにどこかに飛んで行ってしまったりしている。(総じて)丸く収まっているような気がしますね」

歌番組超えた“文化史番組”

 こうした時代観も含め、武田がコメントを寄せてくれた。「昭和は、どこかに戦後という重苦しい劣等感があり、海外にいつも憧れがあり、みんなで必死に頑張った時代でした。貧しくても、みんな少しも不幸ではなかった」。では、令和時代に「昭和」が語りかけてくるもの、現代が失ったものとは何だろう? 武田は独特の感性で自身の考えを明かす。

 「絵でいえば、印象派のモネやゴッホに似ていて、正確でもなくズレていて、でもエネルギーに満ちていた時代が『昭和』なら、『令和』は、正確で美しく、マナーも正しいのですが、例えていえば、人気グループのセンターに立ちながら元気がなく、マネジャーばかりをじっと見つめているアイドルのような時代という気がします」

 こんなことを言われると、将来、「令和は輝いていた」なる番組が果たして生まれるのか?と心もとなくもなるが、こうした考察が加えられるのも、この番組ならではだ。ちなみに武田は、昨年5月の放送でゲストの落語家・立川志らくが明かした、人間の業と芸能の結び付きに関する師匠の立川談志の考え方が強く印象に残っているという。

 「人間の業を美しく描くのが歌謡曲、業を肯定して人間のみじめな部分を笑いにしているのが落語、人間の業を克服して幸せになるのが映画」――。こうなってくると、もはや単なる歌番組の域を超えた“文化史番組”の味わいもまとってくる。

「東京ラプソディー」ヒット当時の社会の実相にも迫る

 今後は、6月28日に歌手で作曲家としても活躍した林伊佐緒を特集。7月5日は、石原裕次郎の生誕90年2時間スペシャルを放送する。また、秋には、昭和初期から戦争に突入していくまでの歌謡曲を特集。藤山一郎「東京ラプソディー」などがヒットした当時の社会の実相に迫る予定だ。橋本プロデューサーは「堅苦しくなく楽しんで見られるので、ぜひ若い世代にも見てほしい」と願っている。

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