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リーダーはメンバーの夢を変えよ!「アップサイド」引き出すガイアックスの人材育成の流儀とは【インタビュー】

J-CASTニュース / 2024年6月20日 12時10分

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上田 祐司さん(左)、前川 孝雄さん

株式会社ガイアックスは、「フリー・フラット・オープン」な社風づくり、そしてアントレプレナーシップ(起業家精神)を重視した人材育成に注力している。

これは、社員のキャリア自律を促進しつつ、組織としてのイノベーション力向上につなげるとともに、同社が掲げる企業理念である「人と人をつなげる」こと――「人と人とのコミュニケーションの促進や、コミュニケーションを行うサービスや事業の創造に力を注ぎ、世の中全体を思いやる社会の実現に取り組む」――の実現を支えるものとみられる。

人材育成支援を手掛ける、株式会社FeelWorks代表の前川孝雄さんが、ガイアックスの上田社長にオンラインの対談形式でインタビューを実施した。

20代起業家を続々と輩出する同社の企業理念・ミッションへの取り組み、経営人材を育てる自律分散型組織づくり、今後の展望などについて、深く話を聞いた。

《お話し》上田 祐司さん(株式会社ガイアックス 代表執行役社長) 《聴き手》前川 孝雄(株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師)

ガラス張り経営を徹底し、事業リーダー自身が意思決定

<社員の6割が起業し、20代経営者が続々生まれる ガイアックス、究極の「性善説経営」とは【インタビュー】>の続きです。

前川 孝雄 御社では「倒し切る」経営で、見事に自律分散型組織を実現していることがわかりました。
しかし、多様な人材をまとめ動かしていくことは、経験豊富な管理職や経営者でも難しいこと。事業リーダーや管理職登用、上司の部下マネジメント上の課題はありませんか。
メンバーが若いということもありますし、夢があることと人を活かすことでは求められる能力が異なる面もあるでしょう。その点にどう対処されていますか。

上田 祐司さん もちろん、メンバーが若いことで課題もあります。
入社3年目のリーダーの下で働いていた若手が「もうやめたい」と言い出した。そこで、面談で「若いリーダーに不満もあろうが、30代や40代でないとリーダーを任されない会社とどっちがいい?」と問い返しました。
本人は、もちろん自分も早く機会がほしいと言う。「じゃあ君があと1、2年後にマネジャーを任されて、ボロボロになった時に、即辞めてもらうのか、失敗してももう一度頑張れと言われるのと、どっちがいいの?」とも。
そのうえで部署替えも考えますし、「もう少し頑張るか」と聞くと、納得していました(笑)。

前川 そうした組織上の問題はナーバスですが、やりとりは随分とオープンなんですね。

上田さん 部下の上司への不満など、お互い同士でも、幹部間でもオープンに話すようにしています。そんなこと、いくらでもありますし。

前川 私はライフワークとして「人を活かす企業」を訪ね歩き、経営者へのインタビューを続けていますが、ガラス張り経営は必須条件のように感じています。
御社でも、全社員が全ての事業部の予算や達成状況、役員会議の内容も閲覧可能といった、ガラス張り経営を徹底しているとも聞きました。その仕組みについても教えていただけますか。

上田さん 期初の事業部の「予算」は各チームで立てますが、「実績」は経理が毎月記帳して公表します。それとは別に「予想」のシートがあり、これは当初予算をもとに各チームが随時更新していきます。
計画外で人を1人雇ったり、予定の大手クライアントが失注したなど、動きごとに書き込みや修正をしますから、コロコロと変わります。
この「予想」はチームの誰でもアクセスして更新できますし、すべてのシートは全社で閲覧できるようにしています。
いずれも、ある時点での結果が悪いから、即ダメとは考えません。
スタートアップなら、Jカーブと言われる初期投資の厳しい時期があるのは当然です。今実績が低くても、戦略的赤字なら何ら問題ありません。メンバーのモチベーションにも、Jカーブがある場合もあるでしょう。

前川 社員の夢や想いを削がない自律分散型組織というコンセプトからすると、そうしたガラス張りの情報の内容について、上田さんや経営陣はあれこれ意見は挟まないですか?

上田さん いえ、皆あれこれ自由に言いますよ(笑)。
でも、何を言っても言われても、判断するのは当事者です。聞き流すのもいいし、なるほどと取り入れるのもいい。たまに、本人もうっかりしていることもあるので、気づいたことは遠慮せず言い合うのがいいと思います。
ベンチャー企業における株主やエンジェル投資家も、あれこれと意見を言うのが仕事ですし、ありがたい面もあります。でも、それをクリティカルに経営に響かせるかどうかは、また別問題なんです。

市場の波にさらすことで、生き続けられる人を育てる

前川 そうした独立採算のチームはいくつくらいあるのですか? また、情報やコミュニケーションをオープンにすることは理想ではありますが、実態として各チームはうまく回るものですか?

上田さん 現在は、約20チームほどです。もちろん、全てがうまくいく場合ばかりではありません。1つは、社内での人材引き抜きが自由なので、人が然るべきほうへ流れます。うまくいかないチームは、自然とシュリンクしていきますね。
弊社は「ティール組織」(F・ラルー)の中に描かれている「グリーン組織」(家族的で温かい組織)では決してありません。むしろ、いかに弱肉強食のジャングル状態にするかにこだわっています。

前川 そのほうが自然の生態系に近いので、過保護にならない。ジャングル状態で生き続けられるようにすることで、人も事業も育つということですね。

上田さん 僕たちが一番怖いのは、市場の波です。市場の波に、各事業部やメンバー一人ひとりを常にさらす状態をつくっているのです。
魑魅魍魎(ちみもうりょう)たちが戦うこのマーケットの中で、資本家、従業員、顧客それぞれの満足度を勝ち取りながら歩み続けるのは、とてもきついことです。
だから、変にオブラートに包まないやり方でやっていこうと。

前川 なるほど。その意味では、多くの企業は組織の内と外を区別して、内部の社員を守ろうとするがゆえに組織の論理が先行し、市場や社会と乖離するという不本意な結果になっているのかもしれません。
上田さんの方法は、社員を囲って守るのではなく、社会の荒波にさらして自ら成長せよということですね。

「赤の他人同士がつながる世界をつくる」ための3つの事業領域

前川 御社では、ソーシャルメディア、シェアリングエコノミー、web3/DAO(Decentralized Autonomous Organizationの略)の3つの領域を、主な事業として展開されています。
これらに共通するビジョンは、やはり「人と人をつなぐ」というところに収れんされるのでしょうか。

上田さん はい。「赤の他人同士がつながる世界をつくる」ことをやっています。
このうち、オンラインだけで行う部分はソーシャルメディアと呼ばれ、そこにリアルが関わってくるとシェアリングエコノミーと呼ばれる。
DAO(自律分散型組織)も少し形態は違いますが、よく似たものです。私たちのやりたいことは1つですが、世の中のとらえ方の区切りに合わせて3つの呼称にしています。
たとえば、地域住民の脳が皆つながり、地元で一番美味しいレストランを選ぶのがソーシャルメディア。また、各家庭で毎回食事をつくると手間なので、隣の家で食べさせてもらおうというのが、シェアリングエコノミーです。

前川 つまり、追求していることは1つですが、世の中での受け止められ方に応じて、3つの分野を名付けたということですね。
「自律分散型組織やコミュニティの分野を強化する」ともうたわれていますが、これも同じ内容を、わかりやすい言葉で語っているということでしょうか。

上田さん 人の脳と脳がつながっているのが、効率的な状態だと考えています。
1つの株式会社は概ね中央管理型ですが、日本経済は自律分散型です。皆が経済産業大臣の指示のもと、いっせいに動くわけではありません。各人、各企業が資本主義社会の原理でつながっているのが現状です。
ただ、私は必ずしも資本主義でつながるのが必然とは思いません。
うちの組織で重視しているのは、情報のシェアです。
社内だけではなく、世の中に対して常に情報発信を徹底するよう奨励しています。相談はしなくていいが、報告は必ずするようにと言っています。報告があって初めて、脳と脳がつながれるわけですから。
これを組織について言うなら自律分散型組織だし、サービスについて言うならオンラインでありソーシャルメディアなわけです。

前川 そのように個人同士の思考が隈なくつながり、情報が明確になった中で、各自が適切な方向に向けて自律的に動いていくということですね。

リーダーはメンバーの夢を変えさせて、なんぼ!

前川 自律分散型は個の解放にも通じ、社内での人材引き抜きも自由となると、夢や想いのある働き手からは理想的な環境かもしれません。
一方で組織としてみると、働く人たちがそれぞれ目指す方向が異なれば、バラバラになる懸念もあるのではないでしょうか。
だから、長い歴史を経て上意下達の組織が一般化してきたともいえますし。この点での課題や対応などについてうかがえますか。

上田さん そうしたリスクは、常にあります。ただ、人を不本意な仕事に縛り付けるのは無理です。
自分の夢を持つ人が、その夢が実現できる仕事にジョインすることが一番。夢にふたをして、会社の仕事だから我慢してやれと言った時点で、すでに経営の負けです。
現場メンバーには、自分の夢にフィットした仕事を選ぶことを推奨します。しかし、その一方で、事業リーダーに対しては「メンバーの夢を変えさせることができて、なんぼだ」とも話しています(笑)。

前川 リーダーには、真逆のことを言っているのですね。でも、メンバーの夢ですら変えさせてしまうというのはリーダーシップの真理ですね。
『ビジョナリーカンパニー』シリーズで有名なジム・コリンズも「真のリーダーシップとは、従わない自由があるにもかかわらず、人々が付いてくることだ」「リーダーシップとは、部下にやらなければならないことをやりたいと思わせる技術である」と主張しています。
私が考える多様な人を育て活かす「上司力」に通ずる、好きなフレーズです。

上田さん 夢が違うのに無理やり働かせるのは、カロリーも使うし、費用対効果も悪い。それなら、夢ごとひっくり返したらいいと。
「君の希望は分かったが、本当にそれでいいのか? この5年、10年先を考えたら、我々が今やるべき仕事はこっちじゃないか」と話す。その結果、若者が「確かにそうだ。自分もライフプラン考え直します。一緒にやります」と言って、自ら働くようにするのが一番だと。
人に自分の夢を持てと言うばかりでなく、事業リーダーなら自分自身の夢を語り、人を巻き込めと言っています。まだ22歳の若者に、自分の一生を決める夢を自力で持てということ自体、無理があるでしょう。

前川 それは私も常々考えていることで、とても共感します。
ここ数十年かけて、学校教育ではキャリア教育が充実し、企業側もジョブ型雇用にシフトしつつあります。部下のキャリア支援に向けて1on1ミーティングも浸透しているものの、上司は部下たちがやりたい仕事だけする組織なんて作れないため、自分の首を絞めることになり、大切な部下の離職に至るという悪循環が起こっています。
だから、リーダーが自分の夢を語ることでメンバーを感化させよという考えは、もっと重視され組織に取り入れられるべきです。
そもそも学生が語る志望動機は、本当は自分のやりたい仕事や向き不向きもわからないにも関わらず、決められた就活の手順に沿ってとりあえず定めたキャリアビジョンであることも多い。
ところが、採用面接で一生懸命説明しているうちに自己暗示にかかり、それしかないと思い込みどんどん視野狭窄に陥っていく。
キャリアの可能性は、本人が考えるよりもっと広いはずです。若者であるほど、本人も気づいていないポテンシャルがあるものですし。実際に魅力的な大人に出会うと、感化されてコロッと夢が変わる場合も多いですからね。

全社員が、自分の報酬テーブルを自分で決める?!

前川 御社では、社員自身が自分の給料を決めるそうですが、まさに経営者感覚の養成ですね。どのように運用されているのでしょうか。

上田さん いくつかのポイントがあります。
1つは事前合意。もう1つが長期プラン。そして、記録しておくことです。
まず本人が、自分は3年後や5年後のこの時期までにこうした仕事を成し遂げるので、それに対してこの報酬がほしいとプランを作成します。単線でなくいくつかのバリエーションがあってもかまいません。
それをもとに、半年や四半期のプランも作ります。節目ごとの到達目標は抽象的でなく、客観的指標で書き出します。売り上げなどでなくてよく、たとえば、DX担当として、半年後は社内ペーパーレス何割達成、1年後は全社のリモートワーク可能体制を何割達成、などです。それで上司と合意できれば、記録しておきます。
これがあれば、3か月後や半年後の報酬 決めに議論は不要です。プラン通りの着地なら、そのまま支払うだけ。成果が下振れや上振れしたら、調整の話し合いはしますが、大筋で合意しているのでもめることはありません。
こうして、社員一人ひとりが自分の報酬テーブルを事前に作るわけです。

前川 それはすごい仕組みですね。事業リーダーのみではなく、全社員が行うのですか。

上田さん 全社員です。大事なのは事前合意です。事後だからもめるわけです。
今期、想定外に売り上げが伸びたので、自分の努力の成果として報酬アップを要望した。しかし上司からは、外部環境の好転や周囲のバックアップのおかげだと言われ聞き入れられない。こうなると、もめるわけです。
そもそも、仕事を発注して納品されてから価格を交渉するなどありえません。先に価格を合意してから、仕事を始めよです。
社員も業務委託契約と同じ考え方で、仕事と報酬をあらかじめ決めているわけです。基本プランはこれ、成績不振ならこれ、ここまで成果が上振れすればこれ、と複数パターンでの合意もありです。
考えてみれば、全国で数多ある中小企業の経営者は、皆自分で自分の報酬 を決めています。ですから、これはごく普通のことじゃないでしょうか。

前川 確かにそうですね。そこまでしっかり事前合意がされていれば、高いパフォーマンスを出していないのに法外な報酬を要求したり、自分の働きに対して給与が低いと不満が出ることもありませんね。

上田さん 重視しているのは、その人のアップサイド(上振れ可能性の上限)を引き出すことです。
事業部長がメンバーのプランを話し合う時に、「君が将来果たしたい夢からすれば、もっと早い時期にここまで到達するプランが必要じゃないか」と、本人の力をさらに引き出すのです。
本人が100の成果を上げて10の報酬を払うよりも、200の成果を上げて20以上を払うほうが、会社にとってもプラスですよね。だから、リーダーには本人にぜひアップサイドを書かせておくようにと言っています。

前川 なるほど。その働きかけは「本人の夢を削がず、より増やしていく」という冒頭のお話にもつながっていますね。
ビジネスプランはつい手堅く見積もりがちですし、キャリア自律に向けて社員自身に目標設定させる働きもあるものの、業績評価で×がつかないように低めの目標設定にするという守り意識を助長させてしまう場合もあります。
御社では、個と組織が共に成長していけるよう、あえて背伸びをさせるのですね。その報酬 決定の面談や評価面談は、メンバーとは約20の各事業部長が行い、各事業部長と経営トップの上田さんたちが行う形ですか。

上田さん はい、その2層で行っています。評価面談の周期は、基本は四半期ごとですが、事業部によっては、年度に重きを置いて行う場合もあります。
そもそも、この報酬 決定面談もマネジメントの一環なのか疑問に思う部分です。市場の動向をきちんと見ながら行えば、非常識な将来プランは出てきません。
短期的な予想はブレることはあっても、良識的なビジネスパーソン同士ならば、長期的なプランは握り合えるものですし、結果もそれほど不可解なものにはなりません。

前川 確かに。市場原理であれば、自然に調整作用も働き、収まるべきところに収まるということですね。
一般的には、上司が社内の人事考課基準と複雑な社内調整を経て部下の評価を決め、そのフィードバックに頭を悩ませるマネジメント業務には膨大な負荷がかかっています。
かつ、部下側は評価に不満を抱くことも少なくありません。それは本当に効率的なのか?という本質的な問いですね。

<取締役会も管理職も自律分散型組織で不要に ガイアックスがめざす「視野の広い人」が育つ環境づくり【インタビュー】>の記事に続きます。

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