「海賊の行いだ」中国に憤るフィリピン、ボートに衝突後乗り込んで「臨検」…南シナ海で対立エスカレート
読売新聞 / 2024年6月22日 7時0分
【ハノイ=安田信介、北京=吉永亜希子】フィリピンが実効支配する南シナ海のアユンギン礁(中国名・仁愛礁)で、中国とフィリピンの対立がエスカレートしている。中国は「管轄海域」と一方的に主張する同礁周辺で17日に比船を臨検し、比側に負傷者が出た。安全保障分野でフィリピンとの連携を進める米国や日本も警戒を強めている。
「これは海賊の行いだ」
比軍トップのロメオ・ブラウナー参謀総長は19日の記者会見で、中国の行為への憤りを隠さなかった。
比側発表によると、中国海警局の船は17日、比側が実効支配するアユンギン礁への補給活動を行っていた比軍のボートに衝突し、兵士1人が指を切断する重傷を負った。比側のボートに海警局関係者が乗り込み、格納されていた銃器を奪ったという。
比軍が19日に公開した映像には、海警局関係者がナイフのようなもので比軍のボートを突き刺したり、棒のようなものでたたいたりする様子が映っている。ブラウナー氏は「海警局がナイフなどを持ちだしたのは初めてだ。我々は素手で反撃した」と強調し、「無謀で攻撃的であるだけでなく違法だ」と非難した。
中国側は昨年に入ってから南シナ海で比船への挑発行為をエスカレートさせ、放水や衝突行為を繰り返している。15日には中国が主張する管轄海域に「侵入」した外国人の最長60日の拘束、強制的な臨検を可能とすることなどを定めた新規定を施行した。
共産党機関紙傘下の環球時報は20日、海警局が「違法な行為」を行った比船への初めての臨検を行ったと報じ、「衝突の非はフィリピン側にある」と一方的に主張した。同紙は新規定が適用されたかどうかについては触れていない。
中国側の行為について、フィリピンと連携する日本と米国は懸念を表明した。米国のジョン・カービー大統領補佐官は17日の記者会見で、「挑発的、不必要であり、より大きな事態をもたらす誤算と誤解につながる可能性がある」と批判した。日本の外務省も「南シナ海における力による一方的な現状変更の試みや緊張を高めるいかなる行為にも強く反対する」との声明を出した。
比政策研究機関「国際開発・安全保障協力」のチェスター・カバルサ代表は「17日の海警船による行為は、これまでで最も強硬であり、海警局が軍事組織であることを示した。新規定の目的は、フィリピンと連携する国々に干渉しないよう警告することだ」と分析した。
中国、比前政権と「密約」?…現政権は否定
南シナ海のアユンギン礁はフィリピン西部パラワン島に近く、比軍が1999年に老朽化した艦船「シエラ・マドレ号」を座礁させて部隊駐留の拠点とし、実効支配を続けている。
中国海警局は、補給活動に向かう比船の進路を妨害し、放水や衝突などを繰り返している。比当局は抗議声明を出すとともにメディアに動画や写真を積極的に提供し、中国側の行為の不法性をアピールしている。
今年に入り、ロドリゴ・ドゥテルテ比前政権が中国と結んだとされる「駐留部隊への補給を食料と水に限定する」との「密約」の存在が浮上した。中国側は肯定し、現政権にも説明したなどと主張している。比側は「事実ではない」と否定し、情報戦の様相を呈している。
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