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鉄路再生の立役者「たま駅長」、採用した代表は「バリバリの犬派」…業者がミシン3台壊して作った猫用の制帽も貢献

読売新聞 / 2024年6月24日 13時54分

「たま駅長」と小嶋さん=提供写真

両備グループ代表 小嶋光信さん(79)

 和歌山県の南海電鉄貴志川線・貴志駅の三毛猫「たま」は、売店で飼われていた。しかし、和歌山電鉄として再出発する前にたまのすみかの撤去が決まっていた。居場所がなくなるということで、2006年4月の開業セレモニーが終わった後、店主の女性が「駅で飼って」と頼んできた。

 「子どもをひっかいたら困る。ふんの問題もある。どうにもならん」。それが正直な感想だった。それに、私はバリバリの犬派だ。「たまちゃんは100万円はする素晴らしい猫よ」。店主は食い下がる。「犬だって10万か20万で買えるのに。そんな猫がいるものか」。そう思いながら見にいった。

 座っている姿がりりしかった。私が近づいた瞬間、ぐっとにらんできた。その時、電気が走った。「なんでもする。駅に置いて」。猫がそう言ったような気がした。ひらめいた。駅長にしよう。それが、たまちゃんの物語の始まりだった。

 「たま駅長」の業務は、お客様の出迎えと見送り。そして客招き。すぐに、制服と制帽を作るように指示した。当時、犬や猫に服を着せるのがはやっていたので、フェルトで作れば簡単だと思っていた。

 ところが、制帽が出来上がったのは8か月後の12月。制服はない。断られたという。聞けば、本物の制服制帽を作ろうとしていた。猫用の小さな制帽づくりに大変苦労したそうで、業者はミシンを3台壊したあげく、「二度と作らん」と言ったという。でも、ちゃんとした制帽がたまちゃんのかわいらしさを強調して、結果的によかった。

 07年1月、貴志駅で「たま駅長」の就任式をした。猫駅長の就任式なんてのは世界で初めてだろう。県や市町の首長も出席してくれた。そして、新聞やテレビで全国に流れた。

 そうすると、たまちゃんを見に、全国から人が来た。客招きが現実となった。本当に働き始めたんだ。帽子をちょこっとかぶって、改札台でお客様の出迎えと見送り。それをみんなが写真に撮る。時には電車が出発したらぴょんとホームに降り、安全確認の見回りをする。話題は海外にも広まり、フランスから映画を撮りに来たこともあった。

 貴志駅は改装する時、外観を猫の形にした。売店ではたまちゃんのクリアホルダーや写真集を販売し、「たま電車」や「いちご電車」など乗って楽しい電車を走らせた。

 和歌山電鉄が路線を引き継ぐ前は減少傾向だった年間乗客数は下げ止まり、しばらくは開業時より約30万人増で推移した。地方にあるローカル線の再生としては異例のことだった。グッズによる収入も順調に伸び、観光というものは公共交通にとっても大きな存在だと学んだ。

 この再生に大きく貢献したのは、言うまでもなく、たまちゃん。駅長から「スーパー駅長」、執行役員、「ウルトラ駅長」と昇進、社長代理も務めた。15年6月の没後は「たま大明神」として貴志駅の「たま神社」にまつられている。名誉永久駅長でもあり、私にとっては「ベストパートナー」だ。

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