国立ハンセン病療養所での旧陸軍の薬剤臨床試験、入所者2人の死亡と因果関係の疑い…国が初の報告書
読売新聞 / 2024年6月25日 9時59分
国立ハンセン病療養所・菊池
472人に投与確認
入所者自治会の要請を受け、2023年度に園の歴史資料館が収蔵する関連資料56点を精査した。報告書では、死亡例や激しい苦痛を伴う副作用が確認されても臨床試験は中断されなかったとして、「当時の医師らの医療倫理のあり方に疑問が持たれる」と指摘した。
報告書によると、虹波は写真の感光剤を合成した薬剤で、熊本医科大(現熊本大医学部)の波多野輔久医師が陸軍の嘱託で開発した。体質改善や結核のほか、ハンセン病の治療への活用も期待されたが、効果は上がらなかったとされる。
臨床試験は陸軍が指揮し、当時の宮崎松記園長の監督の下で行われ、1942年12月から47年6月まで続いたという。対象と確認できた472人には6歳児も含まれていた。ほかに370人が参加した可能性がある。
臨床試験中に死亡した9人のうち、7人の死因は肺結核や急性肺炎などだったが、残る2人は虹波が原因と疑われるという。
「拒否できず」
報告書では、「被験者は臨床試験への参加を拒否できなかった」と指摘。園内での安寧な生活を得るために、従順な態度を取らざるを得なかったと結論づけた。園は今後も調査を続け、薬剤の医学的な効果などを考察する方針。報告書は近く歴史資料館のホームページで公開する予定。
医学史に詳しい京都大医学部の吉中丈志臨床教授は「ハンセン病は死に至ることが少ない慢性疾患で、死者が出た薬を使い続けるのは医療倫理以前に、常識としておかしなことだ」と批判した。
虹波に関しては、国が設置した有識者らによるハンセン病問題の検証会議が、2005年にまとめた最終報告書で触れており、他の薬物とともに「副作用ばかりが目立つ」「試用はまったくの人体実験だった」と指摘している。
厚生労働省は、恵楓園による今後の調査を注視するとしている。
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